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2話 - 眠れぬ夜
大森の目に午前3時48分の時計が入る。
大森はシャワーを浴びるために脱衣所に行き、つぶやく。
omr:「今日の子、助けたほうがよかったのかな」
大森はずっとそれに悩んでいた。
普通の子ならもちろんすぐ助けた。
ただ、大森にはできなかった。なぜなら
omr:「あまりにも元カノに似すぎでしょ」
そう、大森にはとても美人な元カノがいた。
彼女の名前は「咲帆(さほ)」と言った。
別れたのはもう思い出せないほど昔。
クラスメートの顔は思い出せないのに、元カノの顔だけが鮮明に浮かぶ。
もうとっくに昔のことなのに、と自分に嫌気がさす。
それから大森には好きな人はできたことがないし、もちろん彼女なんて作る気がない。
ただ、大森にはその彼女が作った傷がまだ痛々しく残っていた。
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omr:「さっぱりしたー」
お風呂上がりの大森。
そう言ってみたが、心の中はまったくさっぱりなどしていなかった。
もちろん頭の中はあの毛布にくるまったぼろぼろの女の子。
今はもう深夜の4時。さすがに寝ないと次の日に影響する。
そう分かっているのだが、大森は寝たくても寝れない。
冷蔵庫に大量のハーゲンダッツのバニラがあることを思い出した大森は、一つ取り出して食べ始める。
omr:「寝れないし写真整理しよ」
大森はスプーンを口にくわえながら、スマホを開くと写真のアプリを起動させた。
メンバーとの写真はちらほらあるものの、ほとんどが仕事用の写真だった。
大森は虚しくなって忙しくなかった昔の写真を見ようとスワイプしまくる。
omr:「あ、」
そこにあったのは、今一番思い出したくない元カノとのツーショット写真。
大森は今よりも生き生きとした顔をしている。
そのことに腹立たしくなって、スマホをテーブルに雑に置く。
バンッ、と大きな音が部屋の中に響くだけで、嫌な記憶は全く去ってくれない。
omr:「もーねよ!」
そう言って布団に入ってもあの女の子の寝息が耳から離れない。
元カノの顔が脳裏から離れない。
ただただ眠れぬまま秒針の音が響く。
ふと、時計を見ると4時32分。
omr:「はー」
大森は大きくため息を吐き出すとコートを手に取った。
omr:「見に行くだけだから」
鍵を乱暴にとる。マスクと眼鏡をつける気にはなれないので帽子だけをつけて外に出る。
コンビニの明かりが異常に明るく見える。
車のライトも昼間の太陽以上に眩しくて目を細める。
omr:「そーいえば、ここも咲帆と歩いた、、、」
そういうと、急に忘れていた記憶が流れてきた。
『ねえねえ、元貴!もし結婚して子供できたら何て名前にする??』
『今から?まじか』
『う~んとね、私の名前と元貴の名前を混ぜたらよくない!?』
『(笑)自分はなんでもいいよ』
『もっと自分事として考えて!』
『コンビニだ!アイス買お~!』
『何アイスがいい?』
『え!?おごってくれるの!?ありがとう!』
『いいよ(笑)』
『え~っとね、じゃあハーゲンダッツのバニラで!』
『バニラ好きすぎでしょ。』
『じゃあいつでも食べれるように元貴の家にバニラ大量に置いといて!』
『お金は誰が出すんだよ』
『元貴~!』
『ねえ咲帆?』
『なに~?』
『家寄ってかない?親居ないし気まずくないと思うんだけど』
『いいよ――』
大森は急に頭が痛くなってうずくまった。
突然記憶が途切れ、何があったのか思い出せそうもない。
omr:「はあ、はあ、、、っ、痛、、、」
大森は頭の痛みを無視して歩き始めた。
一歩踏み出すごとに、さっきの川に近づいていった。
そのたびに大森は「見捨てた」という罪悪感が少し軽くなった気がした
ただ、大森の気がかりはそれではなかった。
何かが、壊れる音がした。
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