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3話 - 咲帆と元貴
川についた大森はさっきの女の子を見つける。
怖いような、うれしいような、悲しいような。
omr:「あ、あの~」
大森は女の子を見つめると驚く。
さっきは咲帆を思い出すのでじっくり見つめる余裕がなかったが、今は違う。
見れば見るほど咲帆に似てくる。
本当は似てなくて、咲帆と重ねてみているから、似ているように見えるのかもしれない。
ただ、なんで今更咲帆を思い出しているのかわからなかった。
とりあえず大森は女の子を起こす。
omr:「あの~、だいじょうぶ?」
そう言って軽くゆする。
女の子のまぶたがぴくっ、と動いて、ゆっくり起き上がる。
girl:「ん、、、」
omr:「あの、大丈夫?」
大森がそう聞いても少女はぼーっとするだけだ。
寝起きだからなのか、それとも答える気がないのか、大森にはわからない。
omr:「一人で寝てるから心配で声かけたんだけど」
女の子はまだぼーっとしている。
大森は困ってしまった。これでは警察に行ったところで身元もわからないまま、家に帰されることなく施設送りになってしまう。
女の子はしばらく黙ったまま、川の水面を見つめていた。
街灯に照らされた水が、ゆらゆらと揺れている。
omr:「、、、名前、聞いてもいい?」
大森は、できるだけ優しく声を出した。
少しでも強く言えば、この子はまた殻に閉じこもってしまいそうだった。
女の子は一瞬だけ大森を見て、すぐに視線を落とす。
girl:「、、、いらない」
omr:「え?」
girl:「名前、、、べつに嫌いな親からつけられたし」
嫌いな親からつけられた名前はいらない、ということだろうか。
その言葉は淡々としていて、泣き声も混じっていなかった。
ただ、何事でもないことかのように答えるだけ。
それが逆に、大森の胸をぎゅっと締めつける。
omr:「……親は?」
女の子はさっきと同じように答えた。
girl:「いらないって」
その一言で、十分すぎるほどだった。
聞き返す必要も、理由を掘り下げる必要もない。
大森は、喉の奥がひりつくのを感じた。
ただただ大森の中で「似ている」という理由だけで守ってあげたくなった。
ただ、咲帆を思い出すたびにあの日が鮮明によみがえる。
『ねえ、咲帆、どうだった――』
『うるさい!近寄ってこないで!』
『えっ――』
『あんたのせいだからね!私はもう生きてけないから!あんたのせいで!』
『ちょ、咲帆』
『あんたがあの日、家に誘わなければ――』
そこでガガッっとノイズが入ったように聞こえて、そこから先は思い出せなくなってしまった。
大森は頭をかいて、女の子を見つめる。
omr:「、、、寒くない?」
女の子は少し考えてから、首を横に振った。
強がっているのが、見てすぐにわかる。
大森はコートを脱ぎ、そっと少女の肩にかけた。
girl:「、、、いいの?」
omr:「いいよ。暑がりだし」
嘘だった。
でも今は、それでよかった。
女の子はコートをぎゅっと握りしめた。
まるで、手放したら消えてしまうものを掴むみたいに。
しばらく沈黙が流れる。
川の音と、遠くを走る車の音だけが響いていた。
girl:「……おじさん」
omr:「おじさんはやめて」
girl:「……じゃあ」
女の子は言葉を探すように、口を開いたり閉じたりする。
girl:「……なんて呼べばいいの」
大森は一瞬、言葉に詰まった。
omr:「……元貴でいいよ」
girl:「……もとき」
その呼び方が、胸にすとんと落ちた。
また少し沈黙。
大森は、無意識に口を開いていた。
omr:「、、、名前、さ」
女の子が顔を上げる。
omr:「もし、嫌じゃなかったらだけど」
頭の中に、咲帆の声がよみがえる。
『私の名前と元貴の名前、混ぜたらよくない!?』
omr:「咲貴(さき)って名前はどう?」
言った瞬間、大森自身が一番驚いた。
考えていたわけじゃない。
ただ、口から零れ落ちただけだった。
女の子は目を見開いたまま、しばらく固まっていた。
girl:「、、、さき」
omr:「うん」
girl:「、、、」
女の子は驚いたように目を瞬きさせる。
girl:「、、、さきってどうして――」
女の子は何か言いかけたが、口をつぐむ。
女の子の目に、初めてはっきりとした光が宿った。
咲貴:「……ありがとう」
その小さな声に、大森はどう返していいかわからず、ただ頷いた。
川の向こうで、何かが音を立てて崩れた。
でもそれは、壊れる音じゃなかった。
大森は、そう思った。