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恋愛短編集
始まり~
ーー晩餐ーー
『………』
「…………」
2人向かい合わせで黙々と食事をしていた
それなりに高級な店のいい食事だが
『微妙だな』
「思っていても声に出すな」
2人は憂鬱だった
いい食事だが味がしなかった
味がしなければ食は楽しめない
高級レストランを取り寄せたら
どうかと思ったが
やはり味がしなかった
「味がしないと食事を運ぶ手が進まない」
『当回しにもういいと言ってるのか?』
「嗚呼、そうとも言うな」
食事を口に運ぶ手が止まり
彼はジッと料理を見詰めていた
『見つめても意味が無いよ』
「見詰めて美味くなったら此方は苦労」
「しないって言うのにな」
そう言うと食事を見詰める目が少々
悲しそうになった
美味しい物が食べたい
こんな物ではマンゾクできやしない
「人……人はどうだろうか」
『人を食うって言いたいのか?』
「流石に駄目か?」
『まぁな、駄目だ』
断られて気分が落ち込んだのか
椅子の上で身体を丸めた
『人って言っても誰を食べるんだ』
「仲良い人かな~」
「知らない人を食べたいとは思わない」
此奴は狂っているのか?
仲良い人を喰らうということは
仲のいい人が少なくなるという事だ
そんな事をしても尚美味い物を
食べたいというのか
『この話は辞めにしよう』
「…………」
辞めようと言えば渋々辞める
意外と物聞きがいい所が犬みたいだ
そんな犬は俺からプイッと顔を背け
プクッと頬を膨らませていた
『キミ犬みたいだね』
別に言う意味はなかった
言う理由もなかったが
言ったらどうなるのだろうと
少しだけ、少しだけ気になった
「犬か………」
と言うと彼は俺の胸辺りをドンッと
押して床に転ばせた
押し倒したと思えば俺の腹辺りに
少し乱暴に座ってこう言った
「僕は狼の方が向いているかもね」
『……早く退いてくれ』
「びっくりした?」
と面白そうに俺の胸辺りを
妙にいやらしく触りながら 見下していた
『面白くは無い』
「びっくりしたでしょ?」
俺の上でケラケラと笑う彼に少し
苛立ってしまった……
気づくと周りはアカイロノエノグが
床に染み付いていた
その近くには冷たくなった
犬…いや 彼が寝ていた
寝ている彼の身体のカタチは
原型を留めていなかった
骨が肉がバラバラに床に配置されていた
自分の手、口元、服にはエノグが
べちゃりと付いていた
『……美味しかった』
想像を絶する程に
美味しくマンゾクした
ハジメテのニンゲンのアジ
絶対に忘れない、忘れやしない
まだ食べていたい
そんな事しか考えれなかった
ふらふらとした足取りで
カーテンを開けた
日の光に照らされた彼の顔もまた
マンゾクした顔をしていた
ーー晩餐ーー
また次の話で
なう(2025/09/13 19:45:47)