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第2話 放課後の教室ー不器用な慰めー
夕陽が差し込む教室。
魔法陣の跡がうっすらと残る床を、リリアは一人で見つめていた。
昼の授業で、彼女は大きく失敗した。
初めての実技――みんなの前で緊張して、魔力制御を崩してしまったのだ。
「……また、やっちゃった……」
机に頬をのせ、声にならない溜息を落とす。
耳にはまだ、彼の冷たい言葉が残っていた。
「集中しろ、リリア。基礎も出来ていないのか。」
その言葉の棘が、胸に刺さる。
昔のように褒めてくれない。
もう“弟子”ではなく“生徒”だから――そう言い聞かせても、寂しさは消えない。
「……私、先生にがっかりされたのかな。」
その時。
静かな足音が、教室の扉の方から聞こえた。
「……まだ帰っていなかったのか。」
聞き慣れた声。
ルシアン先生が立っていた。
夕陽を背に、少し影のように見える。
「……先生、すみません。今日の授業、私――」
「謝るな。」
短い言葉。
でも、その声色はいつもの冷たさとは少し違った。
ルシアンはゆっくり歩み寄り、机の上の彼女のノートに視線を落とす。
そこには、ぐしゃぐしゃに書かれた魔法式の練習跡。
「……あれから、練習していたのか。」
「……はい。だって、先生に褒めてもらえるくらい上手くなりたくて。」
一瞬、ルシアンの指が止まる。
そして彼は、ため息をひとつ落とした。
「……全く。」
呆れたように言いながら、彼は机の上の羽ペンを取って、
ぐしゃぐしゃのノートの隅に、ひとつ新しい魔法陣の形を描く。
「ここを少し変えてみろ。君の魔力の流れなら、この構成の方が安定する。」
「……え?」
「“出来ていない”とは言ったが、“出来ない”とは言っていない。」
リリアは顔を上げる。
ルシアンの横顔は、淡い光の中で静かに揺れていた。
「君は、焦りすぎる。才能がある分、結果を急ぐ。
……昔からそうだ。」
彼は軽く彼女の頭を指先で弾いた。
「次は、私を驚かせてみろ。泣いている暇があるなら、な。」
「……先生。」
リリアの声が震える。
ルシアンは少しだけ目を細めて、
「ほら、顔を上げろ。」と静かに言った。
「君の目は、下を向いていると魅力が半減する。」
リリアの頬が一気に熱くなる。
彼は照れ隠しのように視線を逸らし、
黒衣の裾を翻して扉へ向かう。
「……先生、それって慰めですか?」
背中に問いかけると、ルシアンは一度だけ立ち止まって、
小さく笑った。
「評価だ。」
そう言い残して、彼は去っていった。
夕陽の中、胸の奥がほんの少し温かくなる。
リリアは涙を拭いながら、笑った。
「次こそ……絶対、驚かせてみせますからね、先生。」
第3話 再挑戦ー驚かせて見せる日ー