テラーノベル
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始めに
・8話完結
・サイコロジカルホラー
・サスペンス スリラー
とりあえず暗いです
なんでもありな方どうぞ
「……まただ。」きりやんは眉をひそめ、手元のファイルに目を落とした
深夜、署内には彼一人しかいない。静まり返った空気が耳に痛い程響いていた
ここ数ヵ月、管内では不可解な事件が続いている
死体の口元は縫い付けられ、目元には黒いインクが流し込まれ、
まるでーー
「……笑っているように見えるんだよなコイツら…」
悪趣味なやり方だ。
それでももっと悪趣味だったのは、その遺体の側に毎回置かれている手紙だった
『きりやんへ』
きりやんはその筆跡を見慣れてしまっていた。癖のない丁寧な字。淡々とした語り口
だが、そこにはひどく個人的な狂気が染み付いていた
『きりやんへ。また君に会いたくて僕は今日も一人殺したよ。あの人、君に似てたんだ。声が……でもやっぱり違った。次はもっと君に似た誰かを殺す。』
「ふざけやがって…」
きりやんは舌打ちし、書類を机に叩きつけた
この犯人ーー
名も分からぬ連続殺人鬼は執拗に”きりやん個人”に執着している
何故俺に…?過去に接点など記憶はない。なのに犯人は知っているとでも言うように懐に入り込んでくる。
……頭が痛い
彼の正義感はぐらつくことはなかった
だが、ここまで感情に入り込んでくる相手は初めてだった
「会いたいってんなら、さっさと出てきやがれ…」
そのときだった
ピンポーン
夜更けの警察署に不釣り合いなインターフォンの音が鳴った
きりやんは眉をひそめる
こんな時間に?市民が訪ねてくるような時間ではない
監視カメラを確認しようと手を伸ばしかけたその瞬間ーー
「こんばんわ。きりやん」
耳元で柔らかな男の声がした
「ーーっ!?」
きりやんは即座に後ろを振り返る
そこには誰もいない
いやーー
いた
ガラス越しに自分を覗き込んでいる男
深い赤の髪。
青く光る瞳。
白いシャツに血が滲んでいる
その姿は、どんな資料よりも鮮明に脳に焼き付いていた
「君に会いたかったんだ」
微笑みながら、男は指を一本口に当てて見せた
「しーっ」
とでも言うように
ぶるーくーー連続殺人鬼。逃亡犯。今目の前にいるはずのない男
だが彼は手錠を自らの手にかけ、差し出してきた
「捕まえて。きりやん」
おかしなほど優しい声だった
取調室の空気は重かった
「お前…何が目的だ」
きりやんの声は冷たい
目の前に座るぶるーくはまるで日常会話のように軽い口調で笑った
「会いに来たんだよ?」
「ふざけるな。お前は十人以上殺してる。自分で分かってんだろ」
「……うん。全部僕の手で。君の目に触れるように。」
「……」
「見てくれた?あの”笑顔”可愛かったでしょ?」
きりやんの手が机を叩く
ぶるーくは怯えもしない
「きりやんってさ怒った顔も綺麗だね」
「……」
「もっと見せてよ。もっと…君の壊れた表情も」
「……お前の目的はなんだ」
「目的……?」
ぶるーくは少しだけ首を傾げ、笑った
「そんなの、決まってるじゃん」「君を、僕の檻の中に閉じ込めたいんだよ」
不気味なまでに穏やかな声
けれどその言葉には尋常じゃない執着と狂気の匂いをはっきりと纏っていた
きりやんは何も言わず、ぶるーくの瞳を睨み返した
冷たい瞳になびきはない
ぶるーくはわずかに肩をすくめた
「……そういうとこ…ほんと好き」
三日後ーー
ぶるーくは脱走した
手錠を外し、警備を掻い潜り、鍵のかかった檻からすり抜けるように
まるで、最初から”逃げるために来た”かのように
きりやんは机を蹴りつけた
周囲に人が居ないのを幸いに、怒りを殺しながら舌打ちする
「ふざけんなっ……あいつ……!!」
机の上に置かれていたものがあった
きりやん宛の封筒
『次は君の寝てる間に会いに行くよ。夢の中でもいい?それともベッドの隣がいい?……選べないなら僕が決めてあげる』
血のように赤いインクで書かれていた
きりやんはその夜ーー
悪夢をみた
真っ暗な部屋
閉じ込められた檻の中で、誰かが笑っていた
「また、会えたねきりやん」
ぼそりと低い声
きりやんはその声に聞き覚えがある気がした
けれどーー
「誰だ……お前」
「僕だよ。君が名前も聞かなかった男」
「……?」
「忘れててもいいよ。僕はずっと覚えておくから」
その笑顔が一瞬だけ、幼い顔と重なった
けれどきりやんは首を振る
「……悪い夢を見た」
夜が明けた頃、彼はそう呟いた
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