何故私がこんなにも落ち着いていられるのかと言えば、この憑依でもう11回目になるからである。散々憑依して、死んできた私にとって、死=終わりではなく、死=新たな始まり だった。死んだと思えばすぐに目が覚めて、次のゲームが始まる。この世界での私の立ち位置は「悪役令嬢」にあるようだ。
正直言って、そういう小説や漫画は読んだことがないので、爵位とか作法とか何もわからない。でも、どうにかなるだろうという確信がある。なぜなら、作法やらなんやらっていうのは、この身体に染み付いたもので、中の人が入れ替わってもリセットされないからだ。
その前に、目の前の少年を対処しなければならない。こういうファンタジー物は基本読まないが、貴族のお嬢様はメイドに身の回りの世話をさせると、ファンタジー好きな友達に半強制的に読まされたことがある。
「ねぇアラク、悪いんだけどメイドを呼んでくれないかしら?服を着替えたいの」
メイドの名前は知らない。でも、私と近い関係の人なら知っていてもおかしくないだろう。
「うん、わかったよ」
やはり、私専属のメイドを呼べるのであれば、関係は深いのだろう。
「ヨナは春祭に陛下と出るんだから、体調に気をつけて、無理をしないようにね、」
何か続けて喋る雰囲気だったのに、開けかけた口を閉じて部屋から出て行ってしまった。
アラクの言葉を聞くに、私の名前はヨナ。フルネームはわからなくとも、ヨナという名を知れたのは大きい。
コンコンコンッ
「お嬢様、 カルーナです」
ヨナの専属メイド、カルーナというらしい。ドアを開けて歓迎すると、気付けば外は真っ暗になっていたようだ。背後を月の光に照らされ逆光となった彼女の姿は、とても綺麗だった。
全体的に霞んだ色合いの中の、瞳の鮮やかな紫に目を奪われた。
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