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「おーい、ここに誰かいるーー?」
いつもは静かな、閉じられた空間。
だが、その日だけは、違った。
「……っ!?」
扉の外から、知らない男の怒鳴り声が響いた瞬間、アーサーの背筋がビクッと震えた。
誰かが、来た。
助けが――来たのかもしれない。
「イギリス!? 中にいるの!? ねえ、返事して!」
聞き覚えのある声だった。
フランス。
確かにあいつとは、数ヶ月前まで連絡を取っていた。
扉のノブがガチャガチャと揺れ、今にも壊れそうになる。
心臓が跳ね上がる。
でも、それよりも先に、アーサーはとっさに振り返った。
――アルがいた。
扉の前に立ちはだかるように、背を向けて。
「大丈夫、俺が何とかするから。アーサーは……そこにいて」
その横顔は冷静だった。でも、爪が震えていた。
アルが、壊れる。
そう思った。
誰かに見られたら、止められたら、アルは捕まってしまう。
――そして、俺は、外に“戻される”。
助かるはずだった。
でも、アーサーの口から出たのは、まるで他人の声だった。
「フランス――いない。誰もいないから、帰れ」
扉の向こうが静まる。
「は? イギリス!? お前、大丈夫!? そっちにアメリカがいるって通報あって――」
「勘違いだ。俺が……勝手に消えただけ。
……誰にも、何にもされてない」
手が震えていた。
声も上擦っていた。
でも、それでも。
「だから……もう帰れよ。……頼むから」
沈黙。
そして、数秒後――足音が遠ざかっていった。
アルは動けずにいた。
背中が、微かに震えていた。
「……なんで」
「……知らねぇよ」
「助けてもらえたのに、なんで……俺なんかを」
アーサーは、自分の足元を見つめていた。
でも、心はもっと深いところに沈み込んでいた。
「……わかんねぇけど……」
「俺、もう……外に戻ったところで、誰も信用できねぇし。
誰も、俺のこと、こんなふうに……必死で欲しがったりしねぇし」
小さく笑った。
「……だから、アルでいいや。
お前が全部、狂わせたんだろ。責任取れよ、最後まで」
その言葉を聞いた瞬間、アルの顔がゆっくりとこちらを振り返る。
その目には、狂気も、罪悪感も、涙もあった。
でも、最終的にそこにあったのは――喜びだった。
「……ありがとう、アーサー。俺、君を絶対に離さないから」
アーサーは目を閉じた。
自分がもう、狂ってしまったことに、ようやく気づいた。
けれど、不思議と――怖くなかった。