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数日後――
玄関のドアが叩かれた音で、部屋の空気が張り詰めた。
アルが振り返る。
アーサーも、その手を無意識に掴んでいた。
「……また誰か来たのか?」
「……ああ。警察、かもしれない」
アルの声が震えていた。
珍しく、不安を隠しきれていなかった。
「アーサー、もし何か訊かれても、黙ってて。俺が全部――」
その時、ドアが開いた。
「イギリスさん!!」
入ってきたのは――カナダだった。
記憶の中より、少しやつれていた。
でもその目は、強い。
「お願い、戻ってきてください。あなたがいなくなって、みんなどれだけ心配して――」
「……カナダ、やめろ」
アーサーは立ち上がる。
「なに? やめろって……え? だって、監禁されてたって、 今すぐここから――」
「違う。……違うんだよ」
「イギリスさん……?」
アーサーの声は冷たくも熱を持っていた。
「アルは……俺を閉じ込めたんじゃない。
俺が……自分でここに、残ったんだよ」
「……それ、洗脳されてるだけですよ。目を覚まして。
それ、愛じゃない。……依存なの。支配なの」
アーサーは一歩踏み出して、カナダと向き合った。
「かもな。でも、それでも――俺は、アルがいないと生きていけない」
「イギリスさん……!」
「カナダたちの“正しさ”じゃ、もう俺を引き戻せない。
外の世界に戻っても、俺は“普通”にはなれない。
もう、壊れたんだよ。壊されたんじゃない――自分で、壊れたんだ」
その声は、どこまでも静かだった。
アルが、震える手で後ろからアーサーの手を握る。
それに、アーサーは指を絡め返す。
「だから――アルと一緒に生きる。どれだけ間違ってても、狂ってても。
……ここが、俺の居場所なんだ」
カナダは言葉を失った。
その場に立ち尽くし、震える唇をかみしめて、やがて、ゆっくりとドアを閉めて出ていった。
静寂が戻る。
アーサーはゆっくりと振り返り、アルを見た。
「これで……もう完全に戻れねぇな、俺」
アルは、目に涙を浮かべながら笑った。
「戻らなくていい。……ずっとここにいよう。
君がいれば、他には何もいらないから」
二人の間にあった最後の「現実」が、今、閉じられた。