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「萩谷ちゃん、これテラスのお客さんにお願いね」
「はい」
サンドイッチの乗った皿を受け取る。
白いアーチをくぐれば、色とりどりの花に囲まれた庭が現れる。
ここは小さな庭園カフェだ。
世間一般的に、オネェと言われている店長が運営している。
「追加注文です。ショートブレッドを2つ」
一応中にも席はあるが、今日は天気が良くて絶好のピクニック日和なので部屋には客一人もいない。
それを良い事にマリ(店主)がソファーで寝そべっている。
「はぁーい」
よっこいせ、とオッサン臭い掛け声と共に体を起こすマリ。
「あ、そう言えば。明日、武藤君が来れるらいしの」
「はぁ」
「だから萩谷ちゃんはお休みでいいわよ〜ん」
冷蔵庫から取り出した生地をオーブンに放り込む。
生地が膨らんでいる間に上に乗せる食用花の準備をする。
流石長年営んでいるだけある。無駄な動きがない。
「なによ、そんなにジックリ見つめちゃって…」
どうやらこちらの視線に気付いたらしい。
自然に目を逸らすことを心がけた。
「アタシ、萩谷ちゃんなら全然おっけいよ〜?」
「ご冗談を」
5年以上働いて、得た営業スマイルを向ける。
釣れない子〜と不満の声を上げながらも、マリは少し楽しそうだ。
自分が昔は教師であり、生徒に手を出してしまったことをマリは知っていた。
しかし、それでも彼は受け入れてくれた。
感謝している。
マリがこの店を閉じるまでは、ここでずっと働こう。
そう決めている。
「これお願いね〜」
「はい」
料理を受け取って、再び庭へ足を向けた。
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「お疲れ様〜、萩谷ちゃんイケメンなんだから夜道は気をつけるのよ!」
「30後半の男なんて誰も襲いませんよ」
苦笑いを浮かべる。
ドアを動かせば、客の来店を知らせる鈴が鳴り響いた。
アパートに囲まれた道を歩いて行く。
ここら辺に住めたら通勤も楽だろうなーとか意味の無いことをいつも考えてしまう。
今の収入では到底無理だ。
ぼーっとしてる間に住宅街を抜けた。
田んぼと畑の広がる一本道。
ここに来るとガラリと雰囲気が変わるので初めの頃は驚いた。
小さく息を吐いて、古びたバス停の隣に立つ。
ふと、後ろに気配を感じた。
最近いる男。
こんな時間にバスを待っている人は珍しい。
いつも自分の方が先に降りているので、どこまで行っているのかはわからない。
意味の無いことだが、つい考えてしまう。
何かを考えていないと思い出してしまいそうで。
ふと、目深い帽子を被った男が顔を上げる。
どうやらまた見すぎてしまっていた様だ。
慌てて目を逸らす。
「仕事終わりですか?」
隣から発せられた声を聞いて、喉が詰まった。
逃げようにも、全身が震えて足に力が入らない。
顎から垂れた汗が地面で弾ける。
「…何が目的ですか」
声を震わせながら、何とかそう呟く。
「質問に質問で返さないでくださいよ〜」
陽気な笑い声が耳を突いた。
「目的は、。俺言ったじゃん」
腹に鈍い痛みが走る。
手を当ててみれば、生温かい液体がベットリと付着した。
その上から彼の冷めた手が重なる。
「側にいてくれるだけで良いって」
呼吸が苦しい。
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
この間も液体は止まることなく溢れていく。
_あぁ、どうしよう。
膝から崩れ落ちる。
余計に息ができない。
_あんな事をしたツケがこれか。
「…ごめん、つくしくん」
ドサリと何かが落ちて砂が舞う。
赤く染まった包丁が映ったのを最後に、目の前は真っ黒になった。
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