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「 はぁ……疲れた…あともう1年は仕事しなくていいかも… 」「 まぁまぁ…誰も怪我せんで帰ってこれたんや、まだえぇほうやろ。 」
“ネスト”という立場上、名探偵や記録者はいつ命を落としてもおかしくない状態でいる、普段事件で怪我をすることなんて滅多にないがレコードの沢山上がる依頼に関しては勿論、その分危険度も上がるのでマルスを目指しているスワロウテイルにとってはあそこまで危険な事件で怪我ひとつしないで帰ってこれたことは、あの事件が様々な事件と関連していてその事件についても解決しないといけなかったせいで全体的に寝不足になってしまったことを除けばいいことだと言えるだろう。
「 まどかさん、疲労に効くハーブティーをご用意しました。…誠一くんも、今回だけは飲んでいいですよ。徹夜のせいで体を壊されたりしても困りますしね。 」
「 ははっ、オレのだけ毒入れてたりせんよな⁇ 」
「 …貴方に毒を盛ったりしたらまどかさんに嫌われてしまうので……そんなことしませんよ。 」
「 僕が居なかったら盛ってたってことだよねそれ…怖いんだけど⁉︎ 」
いつも通りの会話、いつも通りの事務所。いつもの3人のはずだった、ただ1つだけまどかには気になることがあった。
事件解決のために聞き込みに行った誠一が丸1日連絡出来なかった時がある、しかも最悪なのがその時誠一が何をしていたのかを聞くタイミングを完全に逃してしまったことだ、あの時、いつかあの時きちんと聞いておくべきだったと後悔することになるだろう。そのいつかが明日になるか明後日になるか怖いのだ、普段はそんな大事になることは無いと焦らないはずのまどかがなぜそう思うのか。その理由は普段誠一を毎日見ているスワロウテイルの名探偵故の違和感。今はもう夏の暑い季節で、エプロン以外はいつもと違ってズボンは丈を短めに、上は中の長袖を脱いでいたのにズボンを冬用に変えていた。まるで何かを隠すかのように。思い違いだったらいいのだが…そんなことを考えながらまどかは紅茶を啜るふと気になって幼馴染の方を見る、隣にいる幼馴染はただ笑っていた。まるで何も聞くなとでも言うかのように。
次の日、誠一はいつも通り家事をしていた、だが足が痛いのかチラチラと足の方を見ている。
「 大丈夫? 」と声をかけに行こうとしたが、近づこうとしたその時、誠一が
「 来るな、恵美。 」
と言って僕を止めたせいで行けなかった。情けない話ではあるが僕は誠一に”まどか”と呼ばれることが怖いのだ。誠一が軽々しく僕のことをそう呼んだりしないのは知っているしそこまで怖がる必要も無いのもわかってはいるが言葉というものはどんな時にでも出せる、僕に追い詰められた時誠一はきっと僕のことをまどかと呼ぶだろう。だからこそ下手に距離を詰めればこっちが嫌な目にあう可能性があるのだ、とはいえ誠一が何かを隠しているのは間違いない、だが隠しているものの正体が分からないのならもう対処のしようも無い。
「 …誠一……隠し事はやめてよ、僕、誠一が僕達に隠れて苦しむのが1番嫌だから… 」
僕がそう言うと誠一は
「 ……絶対に引かんって約束できるか⁇ 」
と聞いてきた、僕は
「 勿論、どんな状態でも引いたりはしないとおもうよ。 」
と答えた、幼馴染が少し変わった程度で引くような僕ではない。そんなことは誠一がいちばん知っていると思っていたが、案外そんなこと無かったのかもしれない。少しだけショックだ。
「 ……これ… 」
そういった誠一が見せてたのは鱗が所々に出来ている足だった。どうしてこんな状態になったのか、変化が出ていたのになぜ僕達に言わなかったのか問い詰めようとしたが誠一なりに僕たちのことを考えた結果なのだろうということはわかるからここで変に責めるよりかは別のことに力を使った方がいい。
「 綺麗な鱗じゃん、誠一の心みたいに透き通ってる。 」
誠一はむっつりなところがあるからある意味穢れているが。純粋さで言ったからこのハウスで1番だ。
「 …綺麗なんかやないやろ……こんな鱗なんて気持ち悪いだけや… 」
本音を伝えたはずだったが僕が誠一を慰めていると思ったのか、少し目を逸らしながら誠一はそう言った。その瞳には不安が滲み出ており、普段弱い所を見せない誠一がこうなるなんて…完全な魚になってしまうことがそんなに怖いのだろうか。僕は君がどんな姿でも幼馴染としてそばにいるよ、と伝えられない自分の弱さを少し悔やんだ。そんなこと言ってもきっと誠一は僕から離れようとする、何となくそんな気がするのだ。まぁ…本人は気づいていないが僕の世話をすることで自分がここにいていいと感じているであろう誠一にとっては僕から離れるのはかなり辛くなるだろう。そう考えているから引き止める必要も無いというのも理由の一つだが。
そもそも、彼はこの先別のものに変わったらどこに行く気なのだろうか、きっと大体の友達は手を差し伸べるが商売道具として彼を使う人もきっと出てくる、僕はそんなことは絶対に許せない、だから今なんとしてでも誠一のことを引き止めなければなのだが……本人は覚悟ができているとでも言うような顔でいるので少し決意が揺らぐ。
「 …恵美⁇大丈夫か⁇……なんかすごい、暗い顔しとるけど… 」
「 大丈夫だよ。そんなに心配しないで 」
僕はそう言って笑うことしか出来なかった。
20年以上も一緒にいたのに彼を引き止めるための言葉が思いつかなかったから。
それから数日後、誠一と完全に連絡が取れなくなってしまった。数日前までは「 すまん休むわ‼︎ 」とメールが来ていたがそれすらもう来なくなってしまった。
誠一のいない事務所は、僕と健三の二人の話し声がするだけでいつもの依頼をきちんと受けろだの風呂に入れ歯を磨けという声もないし誠一が家事をしている時の音もしない。さすがにおかしいと感じた僕は誠一の家に行くことにした。
インターホンの音が響く、「 はーい 」という返事ひとつも聞こえない。僕は誠一のことを家中見て探すがなかなか見当たらずまさか…と思い浴室に行くと
そこには綺麗な人魚になった誠一がいた。
「 …恵美………⁇…なんでここに… 」
「 …幼馴染なんだから当然でしょ⁇…僕が心配しないとでも思ったの? 」
「 ……恵美には健三がおるから…別にオレ1人いなくても…… 」
「 良くない。そっちが僕のこと…もう二度とあんなに綺麗な絵を描けないようにしたのに、そっちの都合で勝手に逃げようとしないでよね。 」
そう言って僕は誠一に意地悪な笑みを見せた。誠一は少し困ったような笑みを見せたあと
「 わかった、もう離れるとかは言わんようにするわ。 」
と僕に返した。
それから、どうして人魚になったのかも分からぬまま二ヶ月ほど経った、スワロウテイルの事務所には大きな水槽があり、その中に誠一がいる。たまに依頼に来た人に誠一が変な目で見られたりするがそういう時は僕が無言の圧をかけている。だがそういう目で見られる度に誠一が傷ついているのも事実だ。
早く治し方を見つけなければ、そう思っていたある日僕はとあるサイトで人魚から人間に戻る方法を見つけた。
「 誠一、このあと話があるんだけど…… 」
「 …オレ以外の記録者を雇うことについてか⁇ 」
「 …は⁇ 」
誠一の口から出た言葉が信じられずに1度脳内でもう1度再生してからそう返した、いや、いつの間にか返していたの方が正しいのかもしれない。
「 な…何言ってるんだよ‼︎…僕は誠一と健三以外の記録者を雇う気なんてない‼︎ 」
「 じゃあ一体…何の話や…… 」
「 治し方、正しいか分からないけど見つけたんだ。 」
「 へ…⁇ほんまか⁉︎⁉︎ 」
そういった誠一の目は3ヶ月ほど前と同じようにキラキラしていた。
「 僕がくだらない嘘つくと思う⁇ 」
「 いや、思わへん…… 」
「 ……けどね、その治す方法が____ 」
「 ふふっ、大丈夫や…オレは恵美のこと… 」
「 あれ誠一くん、いつの間に治ったんですか…⁇ 」
「 いや…その……昨日の夜な… 」
「 …そうですか、これでやっと仕事の量が元に戻りました……… 」
「 喜ぶところそこかい‼︎もっとおめでとうございます‼︎とか言えや‼︎ 」
「 え、なぜ私が誠一くんのためにそんな事言わないといけないのですか⁇ 」
「 あかんこいつ最低や 」
「 はははっ…とりあえずいつもの調子に戻ってよかったよ。 」
僕はそう言いながら誠一の作った鹹豆漿を口に運ぶのだった。