高校生5つ子×店員一松
一松が心因性失声症
病状について余り詳しくないです
虐待、性虐待表現あり
柳田は20歳越え
暗闇の中で目を覚ます。
目の前にいるのは小さな自分。
嗚呼、また夢か
目の前の小さな自分は暴力に脅え、叫ぶ。
殴られ、蹴られ、刺され、そして犯される。
忘れられるもんか
僕はこの経験のせいで声が出なくなった。
それでもいいよ
僕が声を消すことで皆が迷惑じゃ無くなるなら。
喜んで身体を差し出すよ。
目を覚ます。今度こそ現実で、辺りは爽やかな空気が漂う自室。
一松は図書館カフェの店長をしている。
一松は小さい頃から本が好きだったが、日常的な虐待のせいで本を読む気力も無かった。
今でも身体には痣や跡が残っている。
無理やり折られた小指は変形し、見るも無残な姿な為いつも手袋を着用している。
顔も人に見られるのが怖いためマスクだ。
額や首筋に流れる汗を拭い、またかと顔を歪める。
あの悪夢を見るようになったのは虐待から解放されてからだった。
偶父親の頭の上に鉄骨が落ちてきて一松は施設へ入所した。
そこでは虐められ、穢れた子供達の性欲の捌け口に使われた。
ストレスでとっくに声が出なくなっていた一松が受けていたいじめや性暴力に誰も気付かず、結局一松が12歳になって出所するまで気付かれなかった。
出所してからは本当に大変だった。
声が出ない事をいい事に散々使われ、身体はボロボロだった。
そこを図書館カフェを営んでいる男性に拾われ、そこを継ぐことになった。
その男性は一松の過去を知り、とても可愛がってくれた。
一松は普通なら高校1年生の年齢だ。
それでも一松は学校に行かず図書館カフェを営んだ。
図書館カフェを継いですぐに男性は亡くなり、一松は2人だけバイトを雇った。
そのバイトはカップルでとても優しい2人だった。
一松が失声症ということにもよく配慮してくれ、いつも持つようにメモとペンを買ってくれた。
一松はコーヒーを飲みながら1階の図書館カフェスペースへ移動する。
ロッカーに入っているエプロンを着て本の点検をしてドアのCLOSE看板をOPENに変えた。
途端常連の高齢女性がにこにこしながら入ってきた。
「一松ちゃん、おはよう。今日も偉いわねぇ。」
サラリと頭を撫でようとする手に目を瞑ってしまう。
マスクの中で1文字に結んだ口がビクリと揺れる。
その事に女性はいつものように小さく謝罪をしながら頭を撫でる。
一松の瞳は申し訳なさそうに揺れた。
この空気に耐えられず一松は本の話をする。
「新しい本、入りましたよ。見ますか?」
棚に目配せして女性にメモを見せる。
女性は嬉しそうに微笑んで棚の奥の方へ歩いて言った。
その後女性は嬉しそうにコーヒーを1杯頼んで1時間ほど居座ったあと本を借りて出て行った。
ページを捲る音に耳を立てていたが、再び図書館カフェを静寂が包む。
一松は外の風景に思いを馳せ、カウンターの引き出しから教科書を取り出して勉強を始めた。
ひたすらペンを動かし、気付けば時計の針は昼を指していた。
一松は1つ伸びをしてドアの看板を裏返した。
このカフェは朝から昼まで、夕方から夜まで営業な為昼は休憩なのだ。
一松は裏口から出ていつも通う猫カフェへ向かった。
店内へ入れば親友の店長が出てくる。
「お、イチ!今日は朝なんか食った?」
一松は少食の為下手すれば1日何も食べない。
それを心配して親友の柳田は一松の好きな猫とガッツリしたご飯を合わせた猫カフェを経営している。
「コーヒー飲んだ」
メモに書いて見せる。
柳田はやれやれと苦笑し、いつもの特等席に案内する。
いつもは人が居ない端の席だが、一松の後ろの席で何やら高校生5人がはしゃいでいた。
しかしすぐに注意を猫に逸らし、いつものように撫でた。
足元へ擦り寄ってくる猫を全て膝の上に乗せ、1匹づつ撫でる。
そうすればすぐにいつものメニューを柳田が持ってくる。
「イチ、いつものコーヒーとサンドイッチでいいよな」
柔らかい笑顔で頷き、ありがとうと書いたメモを見せてマスクをずらしてサンドイッチをちまちまと食べる。
柳田もこれから休憩のようでエプロンを外して向かいへ座った。
「…最近悪夢は?」
見てる、と伝えるため頭を上下に振る。
「そっかぁ…やっぱ俺と住まない?前にも言ったけど俺イチの事そういう意味で好きだし」
らしくもなく眉を下げながら柳田が一松の顔を覗き込む。
高校生達は突如聞こえた告白の台詞に驚いたのか唯の好奇心か、耳を澄ましていた。
一松も眉を下げてメモを見せる。
「ごめん。図書館カフェあるし一緒に住むのはね…それに今が1番安定してるでしょ。僕はこうやって昼から夕方にかけてここに居るの楽しいよ。」
柳田はパッと表情を変えて快活に笑った。
「そっかそっか。ま、いつかは一緒に暮らそうぜ!イチが分からない勉強とか教えてやるよ。ま、いつでも来てくれていいから。もう休憩終わるからまた後の休憩で来るよ。」
エプロンを付けながら立ち去る柳田を見詰めて一松はコーヒーに口をつける。
一松が好きな味だ。
思わず頬を綻ばせる。
猫はにゃあにゃあと餌をもらおうと媚びている。
一松はくつくつと肩を震わせ、近くの店員呼び出しを押した。
柳田がはーいと間延びした声でやって来る。
「イチ、いつもの?」
頷き、両手を合わせる。
さっき戻ったばっかなのにごめんね、という意味だ。
柳田は良いよ、と快活に笑って猫用のおやつを持ってきた。
暫く猫と戯れる。
偶目に入った時計を見ればもうすぐ4時だ。
一松は慌てて立ち上がって店員呼び出しボタンを押した。
レジまで走ってメモにペンを走らせた。
その1連を高校生達が見ているとも知らずにメモを柳田に見せてお金を払って走っていった。
メモにはいつもと同じ言葉が書いていた。
「コーヒーもサンドイッチも美味しかった。また来る!」
最後には一松、と名前が書いており、その隣に可愛らしい猫のイラストが書かれていた。
柳田はそれを愛おしそうに眺めてポッケへ丁寧に入れた。
高校生達は一言も発さなかった一松の声に興味を持ち、尾行しようと話していた。
「ちょ、おそ松兄さん!そんなことしたらだめだって!」
「え〜でも気になるじゃん!」
「で、でも…」
結局おそ松に押され、5人で尾行することになった。
一松は店の前で花壇の花に水をやっていた。
走った為か汗をかいており、乱暴に腕で拭う。
そして店の中へ入っていった。
「あそこ、結構前からある図書館カフェだよ。」
「へぇ、入ってみよ!」
看板がOPENになった途端5人でゾロゾロと入店する。
ドアのベルがカランカランと木霊する。
カウンターには一松が座っていて5人の存在に気付くとお辞儀をして1つ本のようなものを渡した。
そこには店の利用方法、料金、本のジャンルや場所など詳しく書いていた。
一松は優しそうな、それでいて憂いを帯びた笑顔を浮かべた。
そこでおそ松が話しかけた。
「ね、喋らないの?それとも喋れないの?声は?」
一松は面食らったように固まり、すぐに悲しそうな、ムッとした様な顔でメモにペンを走らせた。
「お答えする義務は無いかと。パンフレットはもうお読み終わりましたか?私は少し席を外しますのでご自由にどうぞ。」
いつも間にか閉じられていたパンフレットを手に取り、一松は裏へ歩いて行った。
「…面白い」
おそ松は舌なめずりをして一松が消えていったドアへ歩いて行った。
「ちょ、ちょっと!おそ松兄さん!流石にだめだって!」
弟達の必死の説得にも耳を傾けず、おそ松は扉を開けた。
一松はコーヒーを作っていた。
一松はおそ松に冷たい視線を移し、メモに書き殴った。
「ここはSTAFF ONLY SPACEです。お客様の立ち入りは禁止しておりますのでご了承ください。」
一松の人当たりの良い目を見て玩具だと思っていたおそ松は、その冷たい目をみて背筋に寒気が走った。
「す、すみませ…」
末っ子のトド松は足を竦ませて後退りしている。
おそ松は口角を上げて一松へ近付いた。
「俺と付き合ってよ。あんたの事気に入った。」
空気が凍る。
一松も面食らったように固まったが、すぐに怒っているような、泣きそうな顔をした。
「からかってるんですか。お客様と言えど怒りますよ。」
マグカップを机に置いて一松がドアに手を掛ける。
途端ドアベルが客の到着を知らせた。
一松はハッとしておそ松達の間をするりと抜けてカウンターへ向かった。
「おー一松。この本、すごく良かったよ!これの続きってあるかい?」
人あたりの良さそうな男性が一松に話し掛ける。
一松もニコニコと笑って頷く。
男性に手のひらを見せて棚の方へ消えていった。
その1連をおそ松達は面白くなさそうに見つめ、口の中でブツブツと文句を垂れた。
「えー態度違いすぎなーい?俺さみしー」
「いやいやいやこのクズ松が!どう考えても悪いの俺達だろうが!」
顔を見合わせて言い合うおそ松とチョロ松。
ギャーギャーと騒がしくなるカフェ内に一松が戻ってきて眉を顰める。
おそ松達に一言言う前に一松は男性に本を渡してメモに物語の詳細を書いた。
「続きは前作と違ってとても難しい内容になります。何回か見直さなければ矛盾に気付けないかもです。いつもの日数で大丈夫ですか?」
男性は唸った。
「んー…3日増やしてくれる?頭のいい一松が言うなら難しいだろうね。頑張って読むよ。また来るよ!じゃ!」
男性が手を振って出ていく。
一松は背後に般若を背負っておそ松達へ振り向いた。
未だ言い合っているチョロ松とおそ松の首根っこを掴んで店の外へ追い出す。
ドサッと音を立てて崩れ込む2人。
「いってー。ちょっといちまちゅ、、、」
文句を言おうと一松を見直せば腕を組んで般若の形相で2人を睨む一松が居た。
「ひぇ…」
カラ松、トド松に至っては一松の後ろ姿だけで地面へへたりこんでしまった。
一松はイライラとメモにひたすら書き殴った。
「ここは図書館カフェです。静かに本を嗜むのがモットー。ましてや言い合いなんてダメに決まってます。お帰り下さい。ここには本に興味を持ち、本が好きだという人のみ歓迎していますので。」
冷たい目で見下ろす一松にチョロ松が必死に弁解する。
「す、すみません!このバカが…僕は前々からこの図書館カフェに興味があって…僕も本が好きなんです!だからここに居させてください!」
立ち上がり頭を下げるチョロ松に肩を落とす一松。
「…騒がない?」
チョロ松がこくこくと頷く。
一松はふぅと息を吐いて店の中へ案内してそのまま席へ案内した。
「好きな本をお取り下さい。時間に基本制限はありませんが限度はあります。飲み物や食べ物はメニューから頼めますが本を汚さないようお気をつけ下さい。」
一変してにこりと微笑んだ一松の背中を見届けて十四松が本を取りに行った。
残りの4人は本を読んでるフリをして一松を観察することにした。
既におそ松以外も先程の一松の笑みに胸を鷲掴みにされ、頬を赤く染めていた。
暫くすれば一松は引き出しから教科書を取り出して勉強を始めた。
「勉強してるね…あれ僕達の教科書と同じだ…」
「あぁ…そうだな…運命なのか…?」
「んなわけないでしょ。てっきり20歳越えかと思ってたけど同い年?」
「かもね」
1時間ほど勉強すれば一松は立ち上がって本の整理を行い始めた。
するとまたドアベルが来客を知らせる。
しかしそこに居たのは客ではなくアルバイトだった。
「お疲れ様、店長。」
おそ松達は店長が誰なのか一瞬分からなかったが、一松が慌てて飛んできたのをみて目を見開いた。
「え、店長なの?!?!」
一松がアワアワと両手を右往左往している。
「デート?もう終わりましたよ。え?今日シフト入ってない?でも最近またあんまり寝れてないんじゃないですか?後は私達に任せて上がって下さいよ。ね!」
飽きた
コメント
5件
この話の続きみたいです!
可愛い一松"(∩>ω<∩)" れもさんの作品すごく好きです!