テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
(☕️視点)
「は〜、…あかん、物多すぎや。」
連絡を受けてすぐに、勢いで決めてしまった、上京の日。
事務所に所属が決まり、しばらくは用意された家に住むことになって、慌てて引越しの準備を始めたものの、物の多さに思わず項垂れる。
あと数日後にはここを発つのに、
正直に言うとまだ実感は湧いていない。
夢が叶った実感も、
ここを離れる実感も、
……まだ、何も。
物が散乱した部屋で、窓の外から差し込む太陽の光だけが、開放感を感じさせる。
「……今日、忙しやろな…、」
天気良いし。暑いし。
……もうすぐ、夏も終わりやし。
そんな事を思いながら、
海の家の事を考えてしまう。
……2人で、大変やろな。
また、セイトが手伝いに来たりして。
……次は、ナオヤのために。
でもそしたら、逆にイチャこいて仕事せえへんやろな、あいつら。
「っ、ふ…っ。」
そんな様子を想像して、小さく吹き出した。
もしそうなったら、
……ラン、困るやろなー、
、
ラン、
忙しくて、体調崩したりせえへんかな。
真面目やし、優しいからな、
俺がちゃんとせなって、ナオヤを気遣って
無理してへんかな。
そらもちろん、ナオヤの事も心配やけど。
……気を抜くと、どうしても。
ランの事を、考えてしまう。
「……、…ちょっと外出るか…、」
頭を切り替えようと立ち上がり、ついでに要らないものを捨てようと、溜まったゴミ袋を手にして、玄関のドアを開けた。
……
「…え、?カイリュウ?」
「っ、え?」
ゴミ捨て場に持ち出した袋を置いていると、後ろから聞き覚えのある声で名前を呼ばれて、振り返る。
「っ、リュウキ、?え?おま…っ、なんでこんなとこおんねん…っ、?」
「いやこっちのセリフやって!なんしよん?笑」
後ろを見ると、そこにリュウキが立っていて、相変わらずの可愛らしい笑顔を向けながらそう聞いてきた。
「見たら分かるやろ、ゴミ捨てや。笑」
「あ、そっか。笑」
「リュウキは?」
「俺?暇やけんちょっと散歩でもしよっかなーって出てきたとこ。…え、てかカイリュウん家ってここなん?」
「おん、そうやで?」
「え、まじ?俺んちとめっちゃ近いやん!笑」
「あ、そうなん?お前ん家どこ?」
「そこ曲がったとこ。笑」
「バリバリ近いやんけ。笑」
お互いの家が近いことにびっくりしながらも笑い合うと、なんだか嬉しそうにリュウキが話を続ける。
「え、カイリュウん家に集まれるやん。」
「なんで俺んちやねん、それは別にお前ん家でええやろ、」
「いやだ、汚くなるけん。」
「おま、おい俺ん家ならええんかい。笑」
「んははっ。ええやん、集まろうや。みんなも誘って。」
楽しそうに誘ってくるリュウキに、少し気まずさを感じながらも言葉を返す。
「、…んや、…俺、もうすぐ引っ越すねん、ここ。」
「え、?あ、そうなん?どの辺?」
「東京。」
170
「っ、は?!東京、?!なんで、?!」
目を大きく、丸くさせながら驚くその顔を眺めながら、状況を説明するとさらに声を上げるリュウキ。
「…っ、え、オーディション、?!カイリュウすごっ!?おめでとうやん…っ、!!」
「おん、ありがとうな…っ?…あ、ついでやし、お前なんか貰ってくれへん?」
「えっ?いいん?」
家も近いし、せっかくなら要らない物を貰ってもらおうと、リュウキをそのまま家に招き入れた。
***
「え、これ全部いらんと?!これも?!」
「おん、要るもんあったら持ってってや。」
「まじ?ラッキー!ありがと!」
品定めをするリュウキの隣に腰を下ろして、作業を再開する。
「ね、これ貰っていい?」
「ん?ええで」
「これもいいの?」
「おん、ええよ」
「……ねー、カイリュウ。」
「ん、なんやねん」
「…やばい。結構寂しいんやけど。」
「…え、?」
手元から視線をリュウキに向けると、目に入った寂しそうな表情に、少し心苦しくなる。
「なんか、こんな物貰うとかしとったら、急に実感湧くやん…、カイリュウおらんくなるってことやろ?え、普通にやだ、行かんとか無理なん?」
「っ、、おい何言うてん、あほ…っ、」
初めて、躊躇なく引き止めるような言葉を掛けられて、思わず動揺してしまった。
俺、…ほんまは、そういう事、
心のどっかでは、言うてほしかったんかな。
「いや、…わかっとうよ?そりゃ行くよね、夢叶ったんやし。でもせっかく仲良くなったけんさ…」
「…おん、せやな…、まぁそりゃ、俺かて寂しいで。」
「……ラン兄は?」
「…っ、え、?」
「俺でもこんな寂しいんやけん、ラン兄なんてめっちゃ寂しいんやない?」
「っ、……、」
「カイリュウ、?」
ランの名前を聞いた瞬間、つい、口を噤んでしまった。
何か言おうとすると、胸の中にしまっている気持ちが、溢れ出てしまいそうな気がして。
「……、え、…もしかして2人って、そういう感じなん、?」
「っ、…は、?ちゃうわ…っ、」
「動揺しとうやん。そうっちゃろ、?…なんかそういや、ラン兄もそんな反応しとったし…」
「……っ、お前、持ってくのそれだけでええんか?」
「おい、なん誤魔化しとん。…え、もしかしてラン兄に何も言っとらんと?」
「っ、…別に……、何を言うねん、」
心を見透かすように、ズバスバと追求してくるリュウキに焦っていると、眉間に皺を寄せながら、真っ直ぐに俺を見つめてくる。
「は、まってありえんやろ。何も言わんで行くつもりなん?それでええん?」
「っ…、なんでお前にそんなこと言われなあかんねん、」
「好きなんやろ、?ちゃんと言わんと伝わらんって。」
「……っ、……俺かて、色々あんねん……っ、」
「色々ってなん?それってラン兄に関係あるん。」
「…っ…、は、?」
「それってさ、カイリュウの中での色々やろ?…それをどう思うかは、ラン兄に聞かんと分からんくない?」
「……、、わかんねん、」
「なんで。」
“……ねぇ、俺、ファン1号になってもいい?”
俺の歌を聞いて、そう言ったから。
ランは、俺との関係を、そう決めたから。
それが、ランの気持ちなんだと、
受け入れて、口角を上げて、
安心させるような顔をした。
嬉しい気持ちと、寂しい気持ちが、
交互に押し寄せながら、
“心強いわ”なんて、口にした。
それで、もう、
心にしまうと、決めたから。
「…なんでもや、」
「……もしかして、ラン兄のためとか思っとう、?やったら尚更やん。ちゃんと話した方がいいって。」
「っ、…若いなお前は。そんな簡単な話ちゃうねん、」
「簡単な話やろ。…なんで、カイリュウが勝手にラン兄の気持ち決めてんの。」
「…、え…、」
「…もし、応援するとか、そんなん言われたからって決めつけてんなら、絶対それ違うけん。」
「…っ、…お前こそ決めつけんなや、」
「いやそりゃわからんよ、俺だってさ。やけん聞けって言っとんよ。ラン兄だって、カイリュウのためやって、……本当は、言いたいことあるのに、言えてないかもしれんやん、」
「……、リュウキ、?」
それまで熱量をもって話していたリュウキが、少しだけ物悲しい声になった事が気になって、思わず呼びかける。
「……俺も、…そういう事あったから。たっくんが幸せになるならって、気持ち押し殺して、自分から離れたことあって。」
「……、そうなん…、?」
「うん。…でも、全然。全然、たっくんの事ばっか考えとってさ…、前向かんとって、他の人と付き合おうとして。……やけん、ラン兄が、もし今そうやったらって思ったらさ……、」
「……っ、…それは、お前の話やろ…、」
「そうやで?…でも俺は、あの時めちゃめちゃ苦しかったけん。カイリュウにも、ラン兄にも、同じ思いして欲しくない。……それに、もしあのまま他の人と付き合っとったら、俺ずっと後悔しとったと思う。」
何かを訴えかけるようなその目から、リュウキの思いを感じ取る。
「……まぁ、俺が言いたいのはそれだけ。」
そう言って、少しだけ笑ったその顔が、
なんだかいつもより、大人に見えて。
「……、なんかお前…、かっこええな、」
「え、まじ?やったね。笑」
「…たっくんの影響ちゃうん。」
「あ?元のカッコ良さやて。」
「…っ、ふは。ちゃうかった、やっぱ可愛いやわ、お前は。笑」
「は?どこに可愛いがあったんや今!笑」
「そういうとこや。笑」
なんやねん、なんて不服そうにしながらも笑うリュウキは、やっぱり可愛ええ奴で。
「…ねぇ、まじでこんな貰っていいと?」
「おん、逆に助かるわ。」
袋いっぱいに入れた荷物を持ちながら、2人で玄関に向かう。
ドアを開ける前に振り返って、寂しいそうな顔をしながら、リュウキが声を掛けてくる。
「……じゃあ、カイリュウ。まじでおめでと。元気でね、?」
「おん。ありがとうな、…お前も元気でな。」
「絶対また会おうね。」
「ふは…っ、…おん。せやな、」
「俺も応援しとうけん、頑張ってね…っ、じゃあ、またね、、?」
「…っ、…またな、」
ドアがガチャリと閉まって、1人になった空間で、初めてしっかりと別れの挨拶を交わした寂しさが、ふいに襲ってくる。
リュウキの言葉につられるように、またな、なんて口にしてしまった自分が、実は人一倍それを願っていることを、自覚する。
「……さ、やるか…っ、」
寂しさを振り払うようにドアに背を向け、リビングに戻ると、引越し作業を再開した。
……
趣味の物を置いている棚に手をつけ、丁寧に梱包していると、そこにずっと置きっぱなしにしていたCDに目が行く。
「……あ、これナオヤのやんけ…、」
昔、ナオヤに借りたまま返していなかった事に今更気付いて、少しだけ躊躇いながらも、ナオヤに電話を掛けた。
「…もしもし?ナオヤ?」
「カイリュウ?!なー!あんたいつ行くねんっ!日付くらい教えてや!!」
「おま、うるさ…っ!!声でかいねん!笑」
プツッ、と呼出音が切れて、俺が言葉を発した瞬間に聞こえてきたナオヤの馬鹿でか声に、少しだけあった緊張感が吹き飛び、笑いながらも安堵する。
「そら声もでかなるわ!で、いつ行くねん?ちゃんと言わなナオ怒るで?」
「…っ、あーもう…っ、明後日や、明後日。」
「っ、はぁ?!あ、明後日ぇ?!あんたなんで早くそれを言わへんねんっ、ばか!!!」
「っ、しゃあないやろ、!俺かて急に決まっとんねん…っ、、で、今お前に借りとったCD見つけてん、今日の夜おまえん家に持って行…「まって、だめ。あかん、来やんといて。」
「、はっ、?なんでやねん、」
「夜、家おらへんもん。せやから明日持ってきて。あ、うちやないで?お店にな?」
「……っ、なんで店やねん、」
「ナオ忙しいねん、ええから絶対持ってきてよ?明日やで?来なかったら許さへんから!」
「っ…あーはいはい…っ、わかったって…っ、」
「絶対やからね?じゃあ待ってるから!」
「おん…、」
ナオヤの押しに負けるようにそう返事をすると、じゃあね、と電話を切ろうとするナオヤの声が聞こえてくる。
「……あっ、、」
「え、なに、?」
それを聞いた瞬間、無意識に小さく出た声をナオヤに拾われて、迷いながらも口を開いた。
「……ランは、?」
「…ランちゃん、?」
「……おん、」
「買い出し行ってるけど、?」
「っ…あー、そうなんや。…まぁ、2人で大変やろけど、よろしくな。」
「…話したいんなら、ナオに言うんやなくて、直接話しや、?」
「、別にそんなこと言うてへんやろ…、」
「…まぁとにかく明日やで?絶対来てや?待ってるからね!」
「っ、あ、おい、ちょ…っ、!」
そのまま切れた電話に、なんやねん、と独り言を言い放つ。
“それってさ、カイリュウの中での色々やろ?…それをどう思うかは、ラン兄に聞かんと分からんくない?”
リュウキのそんな言葉を思い出して、つい、
ランは?なんて聞いてしまった。
ランは、…ほんまは、
俺は、 ほんまは。
ランに、
何て、言って欲しかったんやろう。
手に持ったままのCDを見つめながら、”明日やで?”と念を押すナオヤの声が、ずっと頭に響いていた。
***
(🦅視点)
「…っ、ナオヤごめん、遅くなっ…、
「ランちゃん、!おかえりっ、ねぇ、ちょっと…!」
たっくんと話した後、急いで買い出しを済ませて店に戻ると、ナオヤが俺を見た瞬間、腕を掴んで隣に引き寄せた。
「ん、?なん…?」
「今、カイリュウから電話あってん…っ、」
「えっ?!」
思わず大きく反応してしまいながら、ナオヤの話に耳を傾ける。
「それがさ…、カイリュウ、明後日行っちゃうんやって。」
「っ、え、、…明後日……、、?」
「うん…、」
急に現実を突き付けられて、頭が追いつかない。
“お前が無理矢理引っ張らんと、ほんまにふらっと行ってまうで。”
セイトの言葉をふと思い出して、胸がぎゅっと苦しくなる。
……本当にこのまま、
ふらっと行くつもりなんや。
俺に、何も言ってくれんままで。
……何も、言えんままで。
「……でね、?…カイリュウ、明日、店に来るって。」
「っ、え…、?」
「……もう、明日しかないんやで、?ランちゃん。」
「……っ、」
ナオヤのその言葉が、胸の奥に、大きく、重く、響き渡っていた。
***
仕事を終えて、家に着くと、
そのまま重い体をソファーに預けて、
頭の中で静かに、現実と向き合っていた。
明後日からはもう、カイリュウと本当に会えなくなる。
これから夢に向かって、
忙しい日々を過ごして、
きっと、たくさんのファンができて。
“ファン1号”なんて、
遥か遠い存在になっていく。
「……っ、、」
“お前が1号なら、心強いわ”
カイリュウのその言葉を思い出しながら、
歌ってくれたあの曲を、スマホで再生した。
何度も何度も、
曲を聴くたび、
‘君と夢を見よう’
俺とカイリュウの事が、重なっていく。
“…えっと、一応ダンサー的なのやってて。”
“ダンス?おーええやん!なんや、俺と似とるやん”
“俺は歌の方。かっこよく言うと夢追い人やな”
“へー!…なんか嬉しいかも、”
“俺もなんか親近感沸くわ、急に。”
初めて海の家に来たとき、俺の緊張を解くように、カイリュウは話を振ってくれて。
見つけた”同志”という共通点に、
お互い、緊張が少し解けて。
冗談言ってからかいながらも、
カイリュウはきっと、俺が馴染めるようにって、ずっと考えてくれていた。
生意気言っても笑ってくれて、優しくて。
そんなカイリュウの事を、いつからか、
「先輩」という枠で見なくなっていた。
知れば知るほど、面白くて、可愛くて、
……魅力的で、掴めなくて。
“ランがおって、よかったなって思ってん。”
そう言われたとき、心臓がドキドキと音を立てた。
俺から、カイリュウから、
どちらからともなく、
顔を、近づけそうになった時。
泣きそうだったカイリュウに、
誰よりも、笑っていてほしいと願っていた。
きっと無意識に、
カイリュウの事を、特別な存在だと感じていた。
“おはようさん”
カイリュウの一言から始まる朝が、嬉しくて。
それが聞けない日は、寂しくて。
電話して、”寂しいよ”と、素直に口にした。
‘何を考えて 想って 僕の隣にいるの’
そんな気持ちがきっと本当は、
ずっと胸の奥にあって。
カイリュウが初めて家に来たあの日、
それを確かめるように、キスをした。
‘願いも 祈りも ほんのちょっと痛いよ’
夢が叶ったと知ってから、
嬉しい、良かった、おめでとう
全部本当の気持ちだったのに、
活躍する未来に俺はいなくて、
離れていく事ばかりを考えて、
それを願うのが、苦しくなって。
‘君がいい’
‘全部伝えるから’
“……あの時、逃げないで向き合ってって、ナオに言ったの、誰やったっけ。”
“好きなら待たせんな”
“……自分の気持ちに、正直になっていいんだよ、ラン。”
掛けられた言葉が、
聴こえてくる歌詞が、
胸をぎゅっと、強く締めつける。
‘いつだって重なり合って 空に浮かんで 君と夢を見よう’
“……ランなら、行けるよ。”
曲を止めて、カイリュウがあの日、
すごいと言ってくれた自分の動画を再生しながら、たっくんの言葉を、思い出していた。
***
(☕️視点)
朝起きて、昨日すっかり綺麗にした部屋を眺めながら、適当に朝ご飯を口にする。
何年も、苦楽を共にした家。
何年も、願い続けていた上京。
色んな思いが重なって、少し緩みそうになった涙腺を、必死に抑え込む。
“明日やで?来なかったら許さへんから!”
ナオヤの押し付けるような声を思い出しながら、CDを手に取って、鞄に突っ込んだ。
……行くなら、開店前にちょっと顔出して渡す方がええやろ。
そう考えながら、身支度をして、家を出た。
……
海沿いを歩くと、相変わらずキラキラと輝く海が、目をやたらと刺激する。
ずっと何年も、歩き慣れたこの道が、
今日で最後になるんかと思うと、
足取りが、少しだけ重くなる。
……上手く足が進まないのは、
それだけが理由じゃない。
それは、自分でもわかっていた。
きっと、
ランの顔を、見てしまったら。
寂しさを、抑えられる自信がない。
「……ナオヤのやつ、なんで店やねん、、」
ナオヤに感情をぶつけるように独り言を言いながらも、店に着いて、勝手口のドアノブを捻った。
「っ、おい、開いてへんやんけ……っ、」
なんやねん、まだ誰も来てへんのかい…っ、
そう突っ込みながら、そういえば俺がいつも一番乗りやったななんて、思い出して溜め息をつく。
「あいつほんま…っ、」
ぶつくさ言いながら、ナオヤに電話しようとスマホを触りながら店の入口に回ると、前を見てなかったせいで誰かにぶつかり、慌てて顔を上げた。
「っあ、すんませ……
「っ、!カイリュウ…っ、」
「…っ、、、ラン…っ、」
ランの顔を見た瞬間、
動揺したのと同時に、ふと、
初めて会った日の事を、思い出していた。
……あの日も確かこうやって、
ランとぶつかったんよな。
なんや男前やな、なんて怯んでたら、うちの新人なんてナオヤが言い出して。
「…っ、おはよ、、?」
「、え、?」
「おはよう、カイリュウ…っ、」
「っ、…あ…っ、おん、…おはようさん…っ、」
出会った時の事を考えていたら、
おはようなんて不意に言われて、
戸惑いながら、ぎこちなく挨拶を返すと、
ランがなぜか小さく笑い出す。
「っ、ふふ…っ、」
「、え、…な、なんやねん、?」
「いや…っ、…俺、初めて来た時も、カイリュウにぶつかったなぁって。」
「…っ、覚えとんの。」
「覚えとうよ。…カイリュウ、なんかちょっと怖かったもん。笑」
「は、?!おま、どこがやねん?!お前こそイケメンでスカしとったやんけ!」
「はぁ?!スカしとらんやろ!笑」
「ん、まぁそれは嘘やけど。笑」
「おい嘘かい。…まぁ、カイリュウも全然、優しかったけど。笑」
「…っ、ふは、なんやねん。笑」
「ふふっ、そっちだって。笑」
最初は、
好青年で、なんでも出来て、イケメンで。
なんやこいつ!なんて思ったりもしたけど。
今じゃこんな、生意気で、人の事からかって、
くだらない事で、笑い合える。
……あかん、
何を浸っとんねん、
今日でもう、最後やいうのに。
「っ……カイリュウ、…あのさ…っ、」
「……っ、ナオヤは?」
「え、?」
「まだ来てへんの?…んじゃあ、これ、渡しといてくれへん…っ、あいつに頼まれ「カイリュウ。」
鞄に突っ込んだ手を掴まれて、思わず動きが止まる。
「……カイリュウ、話したい。」
「……っ、」
「お願い。」
顔を見れずにいると、俺の手を掴む力が強くなったのを感じた。
“ラン兄だって、カイリュウのためやって、……本当は、言いたいことあるのに、言えてないかもしれんやん”
リュウキの言葉が、
頭を過ぎって、離れない。
「……っ、…わかった…、」
そう返事をすると、そのままランは俺を引っ張って歩き出した。
***
引っ張られるままについて行くと、
俺が歌を聴かせた、あの階段に腰を下ろした。
あの時とは違う、朝の空気を吸いながら、
身に纏う緊張感を悟られないように、必死に平然を装っていると、ランが口を開いた。
「……明日、行くんやろ。ナオヤに聞いた」
「…っ、…おん、そうや。……お前も、ここあと少しやし、ええ思い出作れよ。」
「……ええ思い出ってなんよ、」
「あるやろ、なんかいろいろ。笑」
「適当やん。笑」
「うるさいねん、自分で考えろや。」
「……考えられんよ、カイリュウがおらん思い出なんて。」
「……っ、」
あほ。
やめろや、
……人がせっかく、冷静でおろうとしとんのに。
「ふっ、なんや、今頃寂しなったん?…もう遅いねん、」
「遅くないやろ。」
「え?」
かわした言葉をかわされて、
真っ直ぐに、俺に向き合うラン。
「俺も行く。」
「……は?どこに、」
「東京。」
「っ、え、?お前、なに言うて…っ、」
「ああもううるさい。俺も行くから。」
「…っ、は?っ、い、行くって、明日やで、?」
「明日は無理やけど、ここ終わったら転がり込むけん。」
「転がり込むって、なんやねん…」
「カイリュウんちに転がり込む。」
「は?おいっ、勝手に決めんなや…っ、」
「勝手に決めんと、逃げるやん。」
「……っ、おま…なん、っ、急に、意味わからへんねん…っ、」
次々に信じられない言葉を畳み掛けられ、頭が追いつかないまま、ただただ動揺していると、さらに言葉を続けるラン。
「……ねぇ、なんで、あの曲俺に歌ってくれたん。」
「……別に、好きな曲なだけや、」
「俺、あの曲聴いた。何回も。……恋の歌やろ、」
「……っ、たまたまや、そんなもん…、」
「……たまたまで、I love youなんて歌うん。」
「っ…、」
……ほんまは、
曲を探すふりして、最初から、
あの曲に決めてた。
言えなかった気持ちを、
内心、……届けばいいなって、
そう思いながら、歌に込めていた。
ずっと、ランと一緒に、夢を見ていたくて。
ずっと、これからも、隣にいて、名前を呼んでほしくて。
未来が、どうなるかなんてわからへんけど、
それでも、ほんまは。
「……カイリュウ。…俺、カイリュウが好き。」
「、え…っ、?」
歌に込めた、気持ちを、
ランが、口にして。
揺れる瞳に吸い込まれて、
目が、離せなかった。
「……カイリュウのためやって思いながらずっと言えんやったけど、やっぱり失いたくない。…やけん、決めた。俺も東京に行って挑戦する。カイリュウの事も諦めん。…夢も、カイリュウと一緒に追いたい。」
「っ…、ラン、、」
俺を見つめるその目が、
真っ直ぐで、素直で、熱くて。
その言葉に、今にも、
抑えていた想いが、溢れていきそうで。
「…ねぇ、なんで、あの曲だったのか、教えてよ、」
‘未来は見えなくて 形もなくて’
「………、ランに、、聞いて欲しかったから…、」
‘揺れる波の様’
「……なんで聞いてほしかったの、」
‘だからこそ 永遠を誓うよ’
「っ……、ランのこと、…、…好きやから…っ、」
そう言った瞬間、ランの顔が近付いて、
唇が、重なる感触がした。
***
(🦅視点)
“好き”という言葉が、
カイリュウの口から出た瞬間に、
抑えきれなくなって、キスをした。
「っ、ん、…、」
ゆっくりと、唇を離して、
ずっと聞きたかった事を、口にした。
「……あの時、キス、したのも、?」
「、え…っ、」
「かいりゅう。」
「……っ、…ランから、言ってや。」
「ふふっ、なんそれ。…ええよ?俺は、カイリュウが好きだからキスした。はい、次カイリュウね。」
「っ、……、おれ、も…、」
「ちゃんと言って?笑」
「〜っ、/…ほんまにおまえは、、っ、…好きやから以外、あらへんやろ…っ、!」
「ふふ…っ、うん。…良かった、やっと聞けた。」
そう言うと、照れたように
唇を噛み締めるカイリュウに、
好きだという気持ちが、
止めどなく、胸の中に広がっていく。
「俺、絶対行くけん。ちょっとだけ待っとってくれる、?」
「…いつ来んねん、」
「あ、寂しいんや。笑」
「あほっ。お前来たら家狭なるやろ…っ、いつまで快適でおれるんかの確認や。」
「素直やないなぁ…俺がおったほうがええやろ?ご飯作れんくせに。笑」
「っ…おま、!ほんまに生意気なやっちゃな…っ、笑」
「……本当は寂しいくせに。」
「っ、……、寂しいで、…そら。」
「……あ、やっと素直になった。…かわい。」
「うるさいねん…、」
やっと、好きだと、寂しいと、
素直に口にしてくれたカイリュウが、
堪らなく、愛おしくて、可愛くて。
また、顔を近付けると、
今度はカイリュウからも近付いて、
どちらからともなく、キスをした。
「っ、、、きゃ〜!!♡♡♡」
「「っ、え、?!//」」
急に聞こえてきたその甲高い声にびっくりして、2人で同時に振り返ると、やばっ、みたいな顔をして、ナオヤが急いで隠れようとしていた。
「っ、ちょ、おい!!おまっ、今更無理やろアホ!!//」
「あはは〜っ、、やっぱりぃ、?笑」
「/…っ、え、ナオヤ、いつからおったん…?」
「え〜?今来たとこやけどぉ〜?♡」
「おまっ、絶対嘘やんけおい…っ!!/」
「んふふ♡ねぇ、そんな事より…っ、おめでとう〜!♡♡も〜!ほんまに遅すぎやねん!ナオに感謝してやぁ?笑」
「……っ、/お前朝からうるさいねん…っ、ほれ、CD。渡したからな!じゃ…っ「あんたアホなん?帰すわけないやろ?」
「は、?」
「なんのために、ナオが今日この店貸切にしたと思ってんねん。」
「え、?貸切…?ナオヤ、俺聞いとらんよ…っ、?」
「だって言ってへんもん♡今日、カイリュウの送別会するなんて♡」
「っ、、え、?は、送別会、?ほんまに…、?」
「なに?拒否権ないで?あんたが明日行くなんて言うから、今日しかないやろ?…さっ、早く準備すんで?…あ、2人も、呼びたい人おったら早く連絡してなぁ〜?」
軽い足取りで、楽しそうに店の中に消えていくナオヤを呆然と眺めながらも、カイリュウと顔を見合せて、その粋な計らいに、思わず微笑み合った。
***
(☕️視点)
「なぁカイリュウ。お前なに俺に何も言わんと行こうとしとんねん、?おかしいやろぉっ、!」
「セイト、ちょ、飲みすぎ。まだ始まったばっかやから。笑」
送別会が始まって間もなく、なぜかすでにほろ酔いのセイトが絡んできて、それをやんわりと抑え込むエイキ。
「おい、誰やセイト呼んだの。エイキはええけど。」
「ナオに決まってるやん♡笑」
「おいなんやねんっ、エイキはええっておかしいやろ!お前と俺の仲やんけぇ…っ、」
「ふはっ、嘘やがな。笑 ありがとうな…っ?」
半分泣きそうなセイトの肩を、ポンと叩きながら宥めていると、店に何人か入ってくる姿が目に映る。
「カイリュウ、やっほ。笑」
「リュウキ、おい昨日ぶりやな。笑」
「ね。絶対会おうねって言ってから、早すぎやん。」
「そら、またに取っとってや。」
「……てか、ラン兄から連絡来て、聞いたよ。ちゃんと言ったんやん。おめでと!かっけーやん?笑」
「っ、…おん。ありがとうな、お前のおかげや。」
リュウキの後ろから、たっくんとハヤトが歩いてくるのが見えて、ランが声を掛けにやってくる。
「リュウキ、たっくん、ハヤト。みんな来てくれてありがとう」
「ラン兄おめでと。お幸せにね!」
「リュウキ、ありがとね…っ、」
「ラン、連絡ありがとね。…決めたんやね?上京。」
「うん。…たっくんのおかげばい。まじでありがとうね、」
「ふふっ。カイリュウともお幸せにね、?」
「…っ、うん…、ありがとう…っ、」
ランと2人のやり取りに耳を澄ませながら、小っ恥ずかしくなっていると、ハヤトが俺達に声を掛けてくれた。
「ラン兄、カイリュウ、おめでとう!ハヤト、東京出身だからなんでも聞いてね?笑」
「おー、そうやったと?あんがと、頼もしいわ。」
「あ、俺も東京出身だから、何でも聞いてよ。笑」
「おいなんやねん、たっくんまで。急に2人で都会マウント取んなや!笑」
たっくんにそう突っ込むと、みんなが笑い出す。
出会って日が浅いのに、なんだかずっと友達だったような、そんな空気をみんなが纏っていて。
余計に、ここにいられなくなることが、寂しくなっていく。
「え、リュウキくんやっけ?大学生なん?わっか!」
「はい、大学生っす!」
「……ほんで?あのたっくんって人と付き合うてんの?自分年上キラーなん?笑」
「いやなんすかそれ…っ、そんなんじゃないっすよ。笑 セイトさんは?誰と付き合ってんすか?」
「え?俺は〜、こん中で一番可愛い子。笑」
「え、誰すか?」
「ちょっと!リュウキくん!?ナオ!ナオしかおらへんやろ?!」
初めましてでも、自然と会話をしていて、
「ハヤトくんだっけ、?もしかしてお酒弱い?」
「あっ、はい…っ、すぐ赤くなっちゃって…、」
「あははっ、分かる。俺も弱いから。」
「え?エイキさんも、?」
「うん。…だから、無理しないでね。」
「はい…っ、ありがとうございます…っ、」
「でも、…赤くなってるの、可愛いよ。笑」
「っ、え、?!/も〜、やめてくださいよ…っ、/」
送別会なのに、……出会いもあって、
「なぁ、カイリュウやっぱ行かんといてよぉ〜寂しいやんかぁ〜…」
「おい泣くなや…っ、お前には、セイトがおんねんから大丈夫やろ…っ、」
「……とか言ってカイリュウも泣きそうやん。」
「はっ?セイトおま、うるさいねん…っ、砂のせいや、砂!」
「……カイリュウ、?カイリュウには、俺がおるよ?」
「「ひゅ〜♡」」
「っ、おま…っ、/おい、ナオヤ、セイト!ひゅ〜やあらへんねん!ランもおまえ…っ、いらんこと言うな、!!/」
「あははっ♡も〜カイリュウってほんまに照れ屋なんやから〜♡」
ずっと、支えてくれた人達が、
泣いてくれて、
楽しそうに、笑ってくれて。
「カイリュウ、…みんな集まってくれて、良かったね。」
「…おん。ほんまに、ありがたいわ、みんな…、」
「……カイリュウが、愛されとるからやない?」
「……まぁそうやな。笑」
「あははっ。まじそういうとこカイリュウやわ。笑」
「ふはっ。ええやろ、そういうとこも。」
「……うん。大好き。」
「……っ、/…ラン、お前…っ、なんか、素直になりすぎてへん…っ、?/」
「ええやん、だって好きやもん。笑」
好きな人が、側にいてくれる。
俺にとって、ずっと、
これからもここは、大事な場所で。
「はいはい、みんな集まって〜!このプロのカメラマンをタダ働きさせといて、自由にせんでや〜?」
「お前ほんまに腕ええの?笑」
「ちょっとカイリュウ?あんたが1番知ってるはずやねんけど?」
「おいカイリュウ、ナオを茶化すなって。あれでもプロなんやから。」
「ちょっとセイちゃん?」
「ぐふふ。すんません。笑」
「もー!…あ、えーっと、リュウキくんとたっくんはもうちょい左で〜、ハヤトくんはうーん、エイキの隣に行ってくれる〜?セイちゃんは隣空けといてや?♡で、カイリュウとランちゃんは真ん中ねー!いーい?いくよー!」
指示通りにみんなが並んで、
ナオヤの合図する声が、店に響き渡る。
「はいっ、チーズ!」
カシャリ、とシャッターが降りる音がして、
一瞬みんなが静まりかえる。
ギュウギュウに8人が集う構図に
なんだか笑っていると、
窓の外から、波音が心地よく響いていて。
俺は、生まれて初めて、
やっと、苦手だったこの海を、
好きになれたと、感じていた。
end.
コメント
32件
長編お疲れ様でした!カイランがやっと…!2人の夢と恋が叶って私も幸せです笑💞🦅が今まで言えてなかった分気持ちが溢れ出て溺愛してるのが最高です👍👍これからも永遠に溺愛してて欲しいです笑 最近はこのお話をモチベに頑張ってたんですけど終わってしまったと思うとめちゃめちゃ寂しいです😢みちさんの作品、解像度がめっちゃ高いから感情移入しすぎて感動回はいっつも涙目でした笑これからもずっと応援してます!
最終回早ぁ😭 めっちゃ感動し過ぎて涙溢れてきた😭 タクリュキ回、セイナオ回、ランカイ回 どれもめっちゃ良かった🥹 曲でこんなに最高なストーリー書ける人ってなかなかいないと思う🥰 次の曲のストーリーも楽しみだなぁ🎶
長編ありがとうございました😭🙇🏻♀️SeasideStoryが出てくるタイミングが最高すぎました😭‼️今までの出会いがランカイのためにあったみたいでやばかったです😭💕カイラン、たくりゅき、セイナオ、全部違う恋で全員らしい恋で…🥹💖楽しすぎました…😆🎶最後まで読めてよかったです💕素敵な作品ありがとうございました💖ずっっと応援させていただきます💞