テラーノベル
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祝杯の宴は大いに盛り上がった
勝利し帰還した夜はいつもこんな感じだ
セイカはかなりの酒豪だ15歳くらいから屈強な男達と酒を酌み交わし始めれば嫌でもそうなる
だがセイカの凄いところはどれほど呑んでも酔っ払うような事はない記憶をなくしたり突拍子もない事をしでかす事はない
ただこの日の夜は違った
「ユイ、俺は今日は別の部屋で寝るからな、俺が戻ってこないと案ずるなよ」
「なんで、兄様、どこで寝るの?」
「いや、俺はちょっと側近達と重要な話がまだあるんだ、遅くまでかかるから、だからお前は先に部屋へ戻り今晩は広々と布団を使え、わかったな」
セイカはユイの頭をクシャクシャっと撫でた
(兄様、なんか変なの..)
その晩、ユイは一人寂しく床についた
隣の床にはいつもいるはずのセイカが居ない、
無性に寂しくなり、ユイはセイカが使っている床の方に寝転がった、布団と枕からはほのかに愛するセイカの匂いがする、なにを思ったか起き上がり畳んでおいてあるセイカの就寝用の着物を纏った、全裸の上に纏う事でセイカを身近に感じる事ができようやく少し安心する事ができた、
セイカの着物を着てセイカの布団で寝る
(兄様に包まれているみたい..でも寂しいよ、今までこんな事があっただろうか?兄様が城に居る時に離れて寝た事なんかなかったのに!
仕方がない、大事な話しだって言ってたし..なんの話しだろ?俺も居るべきなんじゃないの?)
ユイは暫く悶々としていたが最後はセイカの言った事を信じ、自分はセイカに言われた通りにするべきだと自分に言い聞かせた
朝は弱くいつもセイカやばあやに起こされるユイだが今朝は違った
身支度を整えると城のどこかにいるセイカを探しに行った
「兄様はどこだ?」
廊下ですれ違った侍女に聞いた
「ユイ様、おはようございます。殿でしたら大広間の奥にある部屋にて眠っておいでです」
「そうか」
「あ!ユイ様、今はまだ行かれない方が良いかと..」
「なぜた?」
「あの、その、ま、まだ殿はゆっくり眠っていらっしゃるかと..」
「もうよい!」
侍女の話し方になにか違和感を感じた
(兄様、兄様、酔っ払って怪我とかしてないよね、呑みすぎて吐いちゃったとか?なんにせよ嫌な予感がする)
酔っ払い達がまだゴロゴロ寝ている大広間を足速に通り過ぎ奥にある部屋の扉を勢いよく開けた
(!)
ユイが目にしたのは、娼婦らしき女二人を両脇に抱え寝てるセイカの姿だった
三人とも一糸纏わぬ姿でそこら中から男の体液の匂いがする
ユイは初めて戦場以外で人に殺意を抱いた、しかも女に
(くっ!)
唇を噛みすぎて血が滴り落ちるのがわかった
ドッドッドッ!わざと大きな足音を立て殆ど被さってもいない布団をめくった
「おい、女!早くここから出ていけ!」
ユイの大きな声と凍てつくような冷たい眼差しに娼婦達は飛んでおきた
「側近の方にございますか?申し訳ございません、お殿様は昨晩は大変ご乱心だったものですから、私達もクタクタになってしまい..」
「よい!そんな話は聞きたくもない!おい、この女共に金貨をやれ」
ユイは扉のところで様子を伺っていた城付きの兵士に言った
「は!畏まりました」
「早く、出ていけと言ってるだろうが!」
ユイは声も細く男らしい声ではない、それが珍しく大声で怒鳴った
あまりの怖さに女達は裸のまま部屋を飛び出していった
セイカは..ユイの大声を聞いてもまだぐうぐう寝ている
「兄様!起きてください!兄様!」
ユイはセイカをゆすった、一糸纏わぬセイカの身体がこの時ばかりは憎らしくさえ感じてしまった
「う、ん..ユイ..?どうしてお前がここに居る..あれ、女達は..?」
「あの娼婦達は帰らせました、お金もちゃんと渡しておきました、兄様..なにをしているんですか!城主たる者が!」
セイカはやっと上半身を起こした
「なにをそんなに怒っている、城主であるが俺は妻も居ない独り身だぞ、女と遊ぶくらいは当たり前だろ、全くお前ちょっとおかしいぞ」
二人は暫く見つめ合った
ユイの艶びた黒い瞳がとても悲しそうに潤んでいる、そして唇を噛んだところからまだ微かに血が滲んでいた、
「わかった、俺が悪かった。昨夜は呑みすぎて少し羽目を外してしまった。心配かけてすまなかった」
セイカは立ち上がるとユイの頬をキュッと引っ張った
「いつまでもそんな顔をするな、カンレイ一の美貌が泣くぞ!よし、湯を浴びてくるからな」床に転がっていた着物を適当に羽織るとそのまま消えていった
「ここにある布団も枕も全て燃やせ!よいな!」
兵士にそう言うとユイも部屋を出た、部屋を出ても尚セイカの体液の匂いが鼻に残っている
(兄様のばか!兄様のばか!あんな娼婦なんかを抱くなんて!)
ユイの心は千切れそうだった
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