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セイカが湯殿から戻ると、部屋の中央にユイが静かに座っていた。
背筋を伸ばしたその後ろ姿は、怒りと哀しみを孕みながらも、カンレイ随一の美しさを湛えている。
「ユイ、さっきは……」
「もう、あのような振る舞いはおやめください」
静かな声だった。
だが、そこには揺るがぬ拒絶があった。
「ああ……本当にすまなかった。城内では二度と—–」
「城の外でも、です」
言葉を重ねようとして、セイカはそれ以上を飲み込んだ。
ユイはただ小さく頷き、視線を落とした。
昼食の後、酒の残る身体を横たえたセイカは、ほどなく眠りに落ちた。
ユイはその傍らに座り、兄の顔にそっと手を伸ばす。
額の傷。
閉じた瞼。
変わらぬ鼻筋と、優しさを知る唇。
「……兄様……」
指先が、確かめるように触れる。
過去の記憶が、胸の奥から溢れ出した。
ユイは静かに着物を脱ぎ、眠る兄の唇に口づけた。
その温もりに、胸が締めつけられる。
二度目の口づけの途中、セイカの手がユイの手首を掴んだ。
「……ユイ……何をしている……」
目を覚ましたセイカは、涙に濡れた弟の頬を見つめる。
その雫を、無意識に指で拭った。
「兄様……俺は……兄様を、愛しています……」
言葉にした瞬間、堰が切れたように感情が溢れた。
覆いかぶさるユイを前に、セイカは抵抗しようとして—–できなかった。
「やめなさい……俺たちは……」
理性はそう告げていた。
だが、身体はもう、弟の存在を拒めなかった。
ユイの手が触れた瞬間、セイカの内に抑え続けてきたものが崩れ落ちる。
立場も、理屈も、すべてを失い、セイカはユイを抱きしめた。
抱き返される腕の細さに、胸が締めつけられる。
「……ユイ……」
名を呼ぶ声は、懇願に近かった。
互いの体温を確かめるように、呼吸が絡み合う。
初めて知る感覚に戸惑いながらも、二人は離れることができなかった。
不器用で、必死で、ただ相手を想うことだけに集中して—–
やがて、言葉を失うほどの余韻の中で、静かに終わりを迎えた。
腕枕の中、ユイは初めて安らいだ表情を浮かべていた。
セイカもまた、同じ温もりに身を委ねていた。
(……これは……)
快楽でも、欲でもない。
ただ、弟を失いたくないという想いだけが胸を満たしていた。
涙が一筋、頬を伝う。
それはユイも同じだった。
二人は見つめ合い、泣きながら微笑み、何度も静かに口づけを交わした。
父と母が深く愛し合ったように—–
セイカとユイもまた、その夜、魂の奥で結ばれたのだった。