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てのひらくるくる
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『おかえり。』
その一言が、もう聞こえない。
寂しい空間に、電気は点いていない。
暗い。深夜に一人。
玄関に飾られた写真立て。
二人。
笑顔で、明るいのに。
何で居ないの?
何処に居るの?
指輪が光る。
そっとキスを落とす。
涙が零れる。
『らっだぁ、帰って来てよ。』
_______
交通事故から約半年。
忘れる様に仕事にのめり込んだ。
ものの、メンタルは危うく、メンバーや色んな人から停められた。
SNSは心配の声が飛び交う。
明るく取り繕い、笑顔を振りまく。
最近は眠れなくなった。
病院では鬱病と不眠症と診断され、薬を貰った。
睡眠薬を一度に飲み込む。
酷い吐き気に襲われて吐き出す。
吐き出したくなくて、口を押さえて飲み込む。
死にたい。
でもまだ生きたい気持ちもある。
腕を切る。
血が流れて。
足を切る。
痛みが襲う。
痛みすらも逃げる手段として。
日に日に心は荒んでゆく。
酒は好きだった。
でも飲まない。
楽しく会話ができるから。
ゴミが増えるから。
部屋は汚さない。
綺麗なまま保つ。
ベッドへ向かう。
血まみれだった。
風呂が沸いていたはずだ。
風呂へ向かう。
服が擦れるごとに痛む。
少し熱めに設定した風呂が傷を刺す。
血が滲む。
ゆっくりと浸かった。
薬で眠い。
もう一つ薬を開ける。
飲む。
飲む。
飲む。
飲む。
飲む。
ベッドに横たわる。
ふらふらとした足取りでは寝室に辿り着くのがやっとだった。
眠る。
半ば気絶の様に。
倒れ込む。
ふわふわと意識が遠ざかる。
目が覚めて。
3時半
喉が渇いている。
水を飲みたい。
ふと外を見る。
月は明るいが外は真っ暗だ。
そんな闇に見惚れていた。
そんな中に君の姿が見えた。
其処にいるの?
僕も行きたい。
そっちに。
「一緒に行こう?」
うん。
窓から冷たい風が部屋に流れる。
カーテンが揺れて、ベッドシーツは皺が寄ったまま。
布団の中には誰も居ない。
二人は手を引き合って、空へ進む。
朝になり、悲鳴が上がる。
慌ただしいサイレンが鳴り、一人、運ばれる。
空いた部屋に一つの写真立て。
其処には二つの指輪。
映る二人は幸せだった。
コメント
1件
編集者の寺島あおいです。冒頭の『おかえり』がもう聞こえない——その一行で、すべての喪失が伝わってきました。写真立ての中の二人と、今独りきりの部屋。指輪にキスを落とす場面がとても痛くて、読んでいて胸が締めつけられました。静かなのに叫び声が聞こえてくるような、丁寧な心理描写に心を揺さぶられました。みどりいろさんの、感情の置き方がとても繊細で美しいです。続きが気になりますが、無理のないペースで紡いでくださいね🌷