テラーノベル
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※冴凛
※キャラ崩壊(主に冴)
※なんでも許せる人
突然だが、もし「誰かの時間を停められるボタン」という物があると言われたら、信じるだろうか。
そんな都合のいい話があるか?AVじゃあるまいし。きっと大半の奴がそう言って笑い飛ばすのが普通だろう。
現に、俺も数週間前まではそう思っていた。
そう、数週間前までは
時間が足りねぇ
そう思うようになったのは、スペインに渡る1ヶ月のこと。冴は新しい環境でサッカーをすることに内心不安を抱えていた。
もちろん、サッカーの強豪国として名高いスペインの下部組織でプレーすることに期待や高揚感を抱いていたのは事実だ。
だか、その一方で「今のままでいいのか」「もっと自分の武器を磨くべきなんじゃないか」と、1ヶ月前にも関わらずそんな不安が絶えなかった。
しかし、冴はいつまでも不安に支配されるような生ぬるい人間では無い。
やがてこの不安は練習への原動力となり、冴は以前にも増してサッカーに打ち込むようになった。
自分の練習メニューを一から見直し、十三歳という若さでアスリート並みの食事管理を徹底。
そう、全ては世界一のストライカーとなり”糸師冴”という名を世界に刻むため。
その為ならどんな茨の道であろうと喜んで歩こうじゃないか。
そう意気込み、冴はわずか一か月で成せるすべてを注ぎ込んだ。
が、その途中、冴は思わぬ壁にぶち当たった。
時間が足りない
単純な話だが冴はこの問題に酷く頭を悩ませていた。
サッカーの練習は以前よりもできている。それは事実だ。しかし、忘れてはならない。いくら天才と呼ばれようと冴はまだ中学生なのだ。
朝早くに学校へ行き、つまらない授業を長々と受ける。授業が終わりようやく帰れるかと思えば今度は近々行われる行事のリハーサル。
しまいには帰り際に出される大量の課題。
これらを全てこなしていると当然、サッカーへの練習時間は削られていく。
冴にとってその時間は本来ドリブル練習やストレッチに充てられるはずのもの。削られていくのはやはり惜しい。
だから今日もまた、失った分を取り戻そうと、学校への不満を零しながら自室で軽いボールタッチを繰り返していた。
「まじで時間足りねー。宿題とかやる意味あんのかよ」
「わかんないけど、俺の担任は将来のためーとか言ってたよ?」
「はっ、少なくとも俺の将来に数学はいらねーと思う」
「算数は⋯?」
「それはいる」
冴の反応に、近くでストレッチをしてた凛は不満そうにぷくっと頬を膨らませた。
「じゃあさ、もし時間を止められるボタンがあったら押す?」
「あ?んだそれ」
「もしもの話だよ!俺だったら押すかなー無限にサッカーできるし、学校で居眠りしてもバレねぇ」
いたずらっぽく笑う凛に向かって、冴は宙を舞ったボールを片手でキャッチし、そのまま凛の額へ軽くデコピンをお見舞いした。
「いたっ⋯!?」
「バーカ、んなもんに頼らなくたって俺は世界一になれんだよ。ぬるいこと言ってんな」
「いってぇ⋯もー、冗談じゃんかー!」
ヒリヒリと痛む額を抑えながら、凛はまた頬を膨らませる。
幼子のように拗ねる凛に冴は「ははっ」っと笑いかけ、くしゃくしゃと頭を撫でてやった。
「兄ちゃんまだ寝ないの?」
横になったままスマホを見つめる冴に、凛は覗き込むようにして声をかけた。
「ん、これ見終わったら寝る」
「ふーん、俺はもう眠いから寝るね」
「おー、お子ちゃまはあったかくしてさっさと寝ろ」
「なっ⋯!お子ちゃまじゃねぇし!」
子ども扱いするような冴の言葉に、凛はふてくされたように布団へ潜り込んだ。
しばらくして、枕元から「……おやすみ」と小さな声が漏れる。
その健気さに、冴の口元には自然と笑みが浮かんだ。
スマホに目を戻すと動画は終了し、広告が入っていた。
「⋯俺も寝るか」
動画アプリを閉じ、眠りにつこうとした時
ふと、ホーム画面に視線が止まった。
「なんだ?このアプリ」
ホーム画面には入れた覚えのないアプリがインストールされていて、名前は⋯時間停止ボタン?と表示されている。
「んだこれ……ウイルスか?」
怪しすぎるそのアプリに、冴は削除するつもりで指を伸ばした。だが、画面を見つめたまま、夕方の凛との会話が脳裏に浮かぶ。
「そういや、あいつも言ってたな……時間を止めるボタンがあったらどうするか、って」
冴は少し考えた後、長押ししする指を画面から離した。
「ぜってぇ、嘘だと思うけど⋯開くだけ開いてみるか⋯」
危ないとわかっていてもやはり好奇心には勝てない。すぐに削除するつもりでいたが、本当に使えるのかだけ確かめてみようと思う。
トンっ、とスマホ画面を軽くタップしアプリを開いた。
すると、画面が白く光り、ローディングの表示の後に文字が浮かび上がった。
『誰の時間を止める?』
「うわっ⋯なんだこれ!?」
次の瞬間、画面いっぱいにリストが並ぶ。
そこに並んでいたのはクラブの仲間、両親、そして凛。俺の身内の名前ばかりだった。
「⋯⋯は?なんで俺の身内全員が⋯」
思わず声が漏れる。怪しいなんてもんじゃない。身内の名前が一斉に晒されているなんて、普通にヤバすぎる。
てか、よく考えたら時間を止めるとか、漫画とかAVのタイトルでしか聞いた事ねぇぞ
「やっぱ、消した方がいいよな⋯⋯」
このアプリは危険すぎる。削除どころかスマホを買い換えた方がいいまである。
冴は再びホーム画面に戻り、アプリに指を伸ばした。
しかし、またもや冴は長押しする指を画面から離した。
「もし、本当に時間を止められたら⋯」
さっきのリストから推測するにこれは恐らく”人の時間を止めることができるボタン”だ 。
つまり、誰かの時間を止めている間は相手を好きなようにできるということ⋯
冴は目線をすやすやと眠る凛の方へと向ける。
もし、凛の時間を止められたら⋯
冴には秘密がある。
夜、いつも自分より早く眠ってしまう弟の寝顔にそっとキスをしていることだ。
本来なら、キスは恋人同士がするものらしい。
だが、俺には恋人どころか好きな奴すら一度もできたことがない。
昔、クラスのマドンナと言われる女子に告白されたことがあるが、俺はその女に一ミリも興味がなくてあっさり振ってしまった。
周りからは「もったいねー」とか散々言われたが、仕方ないだろ。興味ないんだから。
――でも。
恋愛に一切興味がない俺にも、誰よりも好きな存在が一人いる。
凛だ。
深緑色の艶のある髪に、長い睫毛。絵に描いたようなEラインに、澄んだターコイズブルーの瞳。
クラスのマドンナどころか、その辺の芸能人だって敵わないほど整った顔立ちをしていると思う。
おまけに健気で、(サッカーに)一生懸命だ。昔から俺にベッタリなのも変わらないし、なにより俺以外の前では基本冷たいって所がたまらなく好きだ。
(実際、この事実に興奮して3回は抜いた。)
だからこそ、凛の初めては全部俺がいい。
サッカーを教えるのも、キスするのも、そういう行為だって⋯
でも、この気持ちを凛に伝えたら、きっとあいつは俺に幻滅するだろう。
実の兄に恋愛感情を抱かれているなんて知ったらどう思うか。俺にだけ向けていたあの笑顔が一瞬にして絶望に変わる姿なんて、考えただけで生きた心地がしない。
この想いは俺の胸の中だけにしまっておこう。
凛のためにも、そして俺の命のためにも。
⋯ただ、眠る横顔にそっと口づけることだけは許してほしい。
そんな思いを抱えたまま、俺は毎日を過ごしてきた。
しかし、「時間停止ボタン」こんな都合のいい物が目の前にあったとして、男たるもの使わないわけが無い。
これがもし本当なら、俺は凛の時間を止めて
あんなことやそんなこと⋯
やべぇ想像しただけで勃ってきた。
だって、このボタンを使えば凛の処女は俺が貰えるってことだよな?
やべぇ最高すぎる⋯
凛を自分の意のままにできる。そう思った瞬間、胸の奥がざわめいた。
けれど同時に、「もし本当に手を出してしまったら?」という問いが頭をよぎる。
兄である自分がそんなことをしていいのか、凛の気持ちは考えなくていいのか、と罪悪感の波が一気に冴に押し寄せる。
「俺のエゴだけで凛に手を出すのは違うか⋯」
さっきまでの興奮が嘘かのように消えていく。
それは凛の兄である故の自制。
やはり、冴はどこまでも弟思いの兄だった。
しかし⋯
「あと2週間か⋯」
ふと、カレンダーを見ると日付はスペインへ渡るちょうど2週間前になっていた。
「2週間後にはスペイン⋯凛にしばらく会えなくなるな⋯」
なら、スペインに行く前に一度だけ⋯そう考えた途端、さっきまでの「弟思いのお兄ちゃん」は一体どこへ行ったんだよ、と自分で自分に突っ込みたくなる。
スペインに行ったら少なくとも3年⋯いや、4年は凛に会えない。もしもその間、 変な奴に目をつけられて襲われでもしたら⋯
冴の思考はどんどん自分に都合のいい方へと向かっていく。
そんなの嫌すぎる!自分が居ない間、知らない男で処女喪失してるとか俺の命が持たない。
ならやっぱり俺がスペインに行く前に貰っおいた方が絶対いい。凛も何処の馬の骨かも知らない野郎に奪われるよりか、俺にあげた方が安心だろ。
うん、そうしよう。これは凛のためだ。決して俺が凛の初めてを奪いたいだけとかそういうんじゃない。⋯まじて本当に。
よし、そうと決まれば明日さっそくこのボタン試してみるか。
冴はそう心に決め、静かに瞼を閉じた。
すんごいキャラ崩壊してる気がする🙄
2話完結の予定なので一応まだ続きます
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