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優しい檻の中

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優しい檻の中

2 - すり変わる日常

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2025年07月28日

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湊   視点

四月の後半。

昼間は少し汗ばむくらいになってきて、キャンパスの中庭もにぎやかだった。


なのに――


「……あれ?」


声をかけようとしたゼミのグループが、俺の顔を見た瞬間、露骨に目を逸らした。


(……気のせいか?)


一歩近づいた瞬間、すっと距離を取られる。


その空気の“変化”に、胸がひやりと冷たくなった。


ついこの間まで普通に話してたのに。

グループLINEでも、最近返事が遅い。

昨日からログインすらできなくなってて、再発行しようとしても「メールアドレスが登録されていません」とか出る。


(そんなわけない。俺が設定したのに……)


「……って、どうなってんだよ」


ベンチに座り込んでスマホを握る。

嫌な汗がにじむ。

なのに、背後から聞こえた声はあまりに“やさしく”て、俺は条件反射で顔を上げた。


「湊くん、どうかした?」


「……あ、一ノ瀬先輩」


悠真先輩は、紙袋を片手に持って俺の目の前にいた。

中にはパンと、アイスコーヒー。


「ごはん、食べた? これ、買いすぎたからよかったら」


「え、……ありがとうございます……」


戸惑いながらも受け取ってしまう。

そして、そのまま先輩の隣に座った。


「……なんか、最近ちょっと、人間関係がうまくいかなくて」


ぽつりと漏らすと、悠真は静かにうなずいた。


「……やっぱり、そうなんだ」


「……え?」


「噂、流れてるみたいだよ。君のこと」


その言葉に、心臓が跳ねた。


「な、なんの……噂ですか?」


「誰かにLINE乗っ取られたとか、勝手に変なDM送りまくってるとか……」


俺は震えながら首を振る。


「違います。そんなことしてないです」


「俺は知ってるよ。でも……世間って、証拠もなしに騒ぐから」


悠真はそう言って、そっと俺の手を握った。


「大丈夫。俺は、湊くんの味方だから」


——その瞬間、泣きそうになった。


誰も信じられなくなっていた俺にとって、

その“優しさ”だけが、唯一の救いだった。


悠真  視点



湊の手は、思ったよりも冷たかった。


噂、SNSの乗っ取り、LINEのトラブル――

全部、俺が仕掛けたことだった。


パスワードはすでに解析済み。

通信ログも、位置情報も、写真も。

彼の“生活の輪郭”はすでに、俺の手の中にある。


「誰も味方じゃなくなった」

「でも悠真先輩だけは、優しくしてくれる」


――そう思ってくれれば、それでいい。


怖がらせる必要はない。

逃げ道を奪い、すべてを俺に委ねさせるだけ。


「もうちょっとで、“完全に君だけの世界”を作れるよ。湊」


心の中で呟きながら、俺は隣に座る彼の髪を、そっと撫でた。


「……疲れてるなら、今日はうちに来ない?」


「……え?」


「夕飯、作りすぎちゃったし。一人じゃ食べきれなくて」


そう言えば、断れない性格だって知ってる。

誘導も、支配も、もう簡単だった。


湊は小さく頷いて、俺の部屋に行くことを選んだ。


――これが、“監禁”の始まりだった。



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