第3話 涙
夏休みはあっという間に終わり登校日となった。通常授業に戻り昼休みには佐伯と宇佐美と3人でご飯を食べる。その生活は二学期に入っても変わらなかった。ただ、1つ変わったことと言えば、、。
―昼休み―
昼休みになったことを合図するチャイムがなり終わると同時に教室の扉が開く。
宇佐美「○○ちゃん迎えに来たよー!」
佐伯「リトくん声でけぇ」
昼休みになると2人が教室に迎えに来るようになった。宇佐美の大きな声で名前を呼ばれるだけでも注目を浴びるのに学年の人気者である2人だと言うことがより、注目を集める。そのためそそくさとお弁当を持って2人の元へと向かう。
宇佐美「○○ちゃんもし良かったら今日一緒に帰らない?」
『いいけど、』
(どうして私と帰りたがるんだろう)
「じゃあ放課後なったら俺とテツで教室に迎えに行くね」
『わかった』
放課後になり3人で校門へと向かう。
宇佐美「てか夏休み終わって早々テストとか鬼畜だな」
『だねー、今回自信ないや』
佐伯「けど最近知ったんだけど○○ちゃんって毎回テストの成績上位だよね」
私たちの学校ではテストが終わると順位が書かれた表が廊下に張り出される。
『たまたまだよ』
佐伯「いや俺勉強ダメダメでさぁ」
そう照れくさそうに笑う佐伯は可愛らしい。
『でも佐伯くん運動神経すごくいいよね!去年の体育祭大活躍だったじゃん』
佐伯「え、いやそんな!逆に体動かすことしか出来ねぇから、」
最近の佐伯は笑うようになった。別に笑わなかったという訳では無いが気を使っているようでハッキリ意見を宇佐美に言うことがあっても私に言うことはあまり無かった。
去年の体育祭は先輩によると知っている中で1番白熱した体育祭となったらしい。佐伯はリレーのアンカーを務め宇佐美は借り物競争ならぬ借り人競走に出た。
そして佐伯が出たリレーでは佐伯のチームは1位のチームと半周の差があり勝敗は明らかだった。だがアンカーである佐伯があっという間に1人2人と追い越し1位になったのだ。
宇佐美「まぁあれはほんと凄かったわ」
佐伯「ははっ、」
そう宇佐美に褒められ照れ笑いをする。
『いやほんとかっこよかったよ!』
宇佐美「俺も去年がんばったんだけど」
顔を覗き込ませムッとした様な顔で言う。
『確かに宇佐美くんも大活躍だったね』
この学校の借り人競争はルールの1つとして男子は人を連れていく場合はお姫様抱っこ、女子は方を組みながらゴールに向かうというルールがある。
そこで宇佐美が去年選んだ人は佐伯だ。青春の場だと言っても去年は女子を連れていく人は少なく男子高校生が同じ男子高校生をお姫様抱っこし走るのは大変な事だ。だが、宇佐美は佐伯のことを見つけるなりすぐさまお姫様抱っこをしゴールに1番のりで到着した。
(あの時の観客席や生徒席の盛り上がりは半端なかったな、)
『確かに宇佐美くんも凄かったなぁ』
宇佐美の方に視線を向けるがまだ不満そうな顔をしている。
『か、かっこよかったよ!』
宇佐美「そっか」
満足したかのように笑顔になる。
『てかあの時のお題ってなんだったの?』
借り人競走でのお題が合っているかはその係の人が確認する。そのお題が全体に発表されることはない。
宇佐美「あー下に兄妹が居る人だよ」
『え、下に兄妹いるの!?』
なんというか宇佐美と居る佐伯は無邪気で甘えん坊なイメージが強く一人っ子か末っ子とばかり思っていた。まぁこれは宇佐美のお兄さん属性が大きく関わっているのだろう。
佐伯「妹が1人、あと兄もいる。意外?笑」
『ちょ、ちょっとだけ』
別に悪い意味ではないが、根っからの末っ子だと思っていたがまさか妹がいたとは驚きだ。
宇佐美「でも嬉しいな○○ちゃんが去年俺たちのこと見てくれてたとは」
『まぁ2人はみんなの注目の的だったし見てなくても体育祭後もその話で持ち切りだったからね』
佐伯「今年も体育祭楽しみだなぁ」
宇佐美「だな笑」
「え待って見てあれ」
「は、?なに、だれあいつ」
『ん、?』
宇佐美「どうしたの?○○ちゃん」
『今なんだか視線を感じて、』
佐伯「誰もいないけど、気のせいか?」
『そうかも!』
―玄関前―
宇佐美「ねぇ今度みんなで勉強会しない?」
『あーいいね!楽しそう』
佐伯「やった楽しみだな!」
こうして私たちは今度勉強会をする約束をし今日は解散をした。
―2年D組―
昼休みのチャイムが鳴りA組に向かおうとする。
A「リト今日久しぶりに一緒にご飯食べない?」
B「イッテツも久々に食べよー」
この2人は同じクラスのAとB。俺とテツが○○とご飯を食べるようになる前は教室で食べていたのだがたまにこの2人が椅子を持ってきて近くで食べることがあった。
宇佐美「あー悪い俺校庭で食べるからさ」
佐伯「お、俺も」
A「最近ノリ悪くないー?放課後も遊んでくれないし」
宇佐美「ごめんね俺ら行かなきゃ」
B「前まで誘ったら毎回来てくれてたじゃん」
そういい宇佐美の袖を掴む。
宇佐美「女の子が気安く男子に触っちゃダメだよ」
手を払い笑いながら言うが目は笑っていない、俺は知っている。リトくんは優しいから女子相手にきつく言えないことを、、。
A「あの子?昨日一緒に帰ってた」
佐伯「見てたの、」
A「別にたまたま見かけただけだし、あんな子のどこがいいの?私の方があの子より痩せてるし可愛いのに」
一瞬眉間に皺を寄せるが直ぐにいつもの顔に戻る。
宇佐美「人は見た目以上に中身が魅力的だと思うんだよね」
佐伯「そーいうことだから俺たちもう行くんで」
宇佐美の手を引っ張り教室を出る。
―廊下―
宇佐美「テツ、イッテツ!」
佐伯「ん、どうしたの?リトくん」
さっき彼女らが○○のことをバカにした事が頭から離れない。イライラする。
宇佐美「顔怖いわ、あいつら○○ちゃんに何もしなかったらいいけどな」
佐伯「そうだね」
―数日後―
宇佐美「悪い今日俺ら居残りになっちゃったから一緒に帰れない、!」
佐伯「すぐ終わるといいんだけど、終わる時間がわかんねぇからな、、」
前に一緒に帰った日からずっと私たちは3人で帰っている。クラスも階も違う彼らと会える時間が昼休みだけではなく放課後の帰り道にも会えるというのはとても楽しみとなっていた。
『いいよいいよ!気にしないで!居残りかぁ、大変だね頑張って!』
宇佐美「爆速で終わらすわ」
佐伯「○○ちゃんのおかげでやる気出てきた」
そういえば彼らの話し方も少し変わった気がする優しい話し方だがどこか距離を感じていたが今も優しいが言葉にするのは難しいが、最近は友達になれたのだと改めて思う。
―放課後―
一人で帰るのはこんなに寂しいものだったのかと思い出す。2人はまだ学校にいるんだなと思うと家までの足が重く感じられる。
A「ねぇあんた今暇?」
『あなたは、?』
(誰だろう、。)
B「なんでもいいから早くついてきて」
言われるがままついて行くと人気の少ない路地裏のような場所に着いた。
A「あんたさリトとどういう関係?」
『どういうって、ただの友達です』
B「なんでリトがあんたなんかと、それにイッテツにも手出してんでしょ?2人が優しいからって何様のつもり?!」
怒鳴られるのは苦手だ。
『手を出すだなんて、そんなんじゃ』
A「男好きのあんたにピッタリな人連れてきたの感謝しなさいよ」
そういい後ろから現れたのはガタイのいい男2人。身長は佐伯くんより少し高いぐらいだろうか。
『私、帰る』
B「待ちなさいよ、これからが楽しみなのに」
a「へぇこの子?本当にいいの?可愛い」
b「いい具合にムチムチじゃん俺大好き」
そういい壁に追い詰められ両腕を掴まれる。ビクとも動かない、男の人がこんなに力があるとは当たり前だが驚いた。
『離して』
睨みつける。
A「じゃ、後は頼んだから」
a「あれ見ていかねぇの?」
B「誰があんたらがやってるのなんか興味あるわけ?」
b「ひでぇ、まぁいっか」
AとBが去る。
『待って、!』
a「誰も来ないよ」
制服のボタンに手をかける。
『無理無理、ほんといや!』
aの股の下に蹴りを入れる。すると掴んでいた両腕を離したため逃げようとする。だがbに腕を捕まれ壁に叩きつけられる。
『いたっ、』
b「ははっ、気が強い子も好きだよ俺」
無理やりに服を脱がしボタンがちぎれる。
『やだ、やめて、』
恐怖で腰が抜け地べたに座り込む。宇佐美も佐伯もまだ学校にいる、誰も助けには来ないだろう。それにスマホもカバンの中に入っているがカバンはもう1人の男のそばにあるため取れない。
「何してんの?」
その声が聞こえたと思えば奥に立っていたaが地面に倒れた。
a「ってぇな!誰だお前!」
緋八「はよその子から手ぇ放せよ」
久しぶりに見た緋八の顔は鬼のように怖い顔をしていた。
『マナくん、!』
名前を呼ぶ声は届かず無言で男を殴り続ける。
b「なっ、テメェ覚悟しやがれ!」
背を向けている緋八の頭を目掛けて殴りかかる。
赤城「腕大きく振りすぎだよ、そんなんじゃ当たらない」
殴ろうとする腕を掴み地面に叩きつける。
b「なんだよこいつら、!くそっ」
a「お前ら顔覚えたからな!」
捨て台詞をいい走って逃げる。
助かった。と同時に恐怖と恥ずかしいという感情が込み上げてきた。
緋八「○○」
優しく名前を呼びながら近く。
『やだ、来ないで、』
制服を握り前を隠す、足が動かない。泣いちゃダメだ、心配をかけてしまう。
緋八「もう大丈夫やで、」
自分の着ていた学ランを脱ぎ羽織らせると優しく抱きしめ頭を撫でる。
緋八「ええんやで泣いても、俺の前では我慢なんかせんでいい、、」
私の肩に埋めるマナくんの顔から涙が出ていることに気がついた。
『、、なんでマナくんが泣いてるの』
小さい頃からそうだった。公園で遊んだ時怪我をした私を見て泣いたり小学校の運動会を見に来て私がリレーで1位になった時は私より喜んだ。彼は優しく嬉しいことも辛いことも自分のことかのように喜んだり悲しんだりしてくれる。
緋八「ごめん、。辛いのは○○やのに俺、、」
私のためにこんなにも泣いてくれる人が居るだなんて思いもしなかった。
『ありがとう、。』
これまでの感情が爆発したかのように私は泣き、彼に抱きついた。
「怖かったよな、もう大丈夫やから」
―数分後―
『本当にありがとうございます』
赤城「いいよ気にしないで、何より無事でよかった。てかマナ目腫れるんじゃない?」
緋八「うるさいなぁ!もう格好つかんやん、、」
私より泣いた彼の目は赤くなっていた。
赤城「それにしても僕たちがたまたま路地裏に入るのを見かけたから大丈夫だったけど、なんでこんな状況に、、」
『、、、』
思いつくかぎりのことを話した。彼女らが宇佐美や佐伯の名前を出していたことや制服を見るからに同じ高校の子だということを。
赤城「リトくんやテツくんがモテるのは想像できてたけど○○ちゃんがこんな目にあうとは、」
緋八「リトもテツも何して、」
2人は家まで送ってくれた。
―玄関ー
『本当に今日はありがとう。マナくんとウェンくんが来てくれて本当に良かった、、。』
この2人は本当にヒーローのようだ。
『あ、学ラン!』
緋八「取りに行くから今日は持ってて!またな」
赤城「またねー」
2人は大きく手を振り帰って行った。
家に帰りスマホを見ると宇佐美と佐伯から連絡が来ていたことに気がついた。
宇佐美「家ついたら連絡して」
佐伯「今居残り終わったけどやっぱりもう家?」
その連絡に続き2、3件返信が来ない心配の連絡が入っていた。
『ごめん家帰ってすぐ寝ちゃったんだ!居残りお疲れ様!』
このような文で2人に返信をする。わざわざ私のことで2人に心配をかけたくない。
そして数分後緋八と赤城からも連絡がきた。
緋八「○○、今日はゆっくり休んでな」
赤城「○○ちゃん、もし困っていることがあるなら僕に相談してね」
『ありがとう!ブレザー洗濯して返すね!』
と緋八に返信をし
『ありがとうございます!もしまた何かあったら頼らせてもらいます、!』
と赤城に返信をした。
なんて優しい人たちに恵まれたのだろう、と少し嬉しく感じた。
―次の日―
私は学校を休んだ。彼女らに会うのは怖かったしもし会った時に冷静でいられ自信がなかった。
お昼過ぎになり、玄関のチャイムがなる。
(え、だれ?)
『はーい、』
玄関の扉を開けるとそこには緋八と赤城が居た。
赤城「やっほー来ちゃった」
緋八「ごめんな急に来てもて」
2人を家にあげお茶を出す。
緋八「○○の家は久しぶりやな、あー落ち着く」
『あの、2人学校は、?』
赤城「早退しちゃった」
語尾にてへっという文字が見えたのは気のせいだろうか。
緋八「やっぱ○○学校休んでたんやな」
赤城「大丈夫じゃないなら大丈夫じゃないって言ってもいいんだよ」
心配そうに見つめる2人には申し訳ない。
『いや、本当に大丈夫、なんだけどその、気持ちが落ち着かなくて』
赤城「それを大丈夫じゃないって言うんだよ」
赤城の目はとても真っ直ぐで全てを見透かされているように感じる。
『宇佐美くんや佐伯くんに心配かけたくなくて』
緋八「え、2人に言ってないん?」
『うん』
赤城「今日は○○ちゃんに元気を出して貰おうと思ってきたんだから、じゃじゃーん」
そういい赤城がカバンから出したのはトランプだった。
―4時間後―
現在時刻は17時になる。
緋八「いやぁババ抜きも7並べもスピードも全部おもろいなぁ!」
『それにウェンくんのマジックも凄かった!』
赤城「2人が楽しんでくれて良かったよ。あ、でも僕今からバイトだから先帰るね」
『え、わかった、!ありがとうウェンくん、元気出たよ!』
「なら良かった」と微笑み帰って行った。
『あ、これ昨日のうちに洗濯したんだ!ありがとう』
畳んでいた学ランを渡す。
緋八「そんな急がんでも良かったのに」
『迷惑かけたくなくて、』
緋八「迷惑なんか思わんよ」
そういい頭を撫でる。私の記憶している緋八とは違い背丈も手も大きくなった彼に安心感や懐かしさを感じる。
『そういえば昔はよくここでお飯事とかしてたよね、ほぼマナくんのお芝居だったけど』
緋八「あーあったなぁ!○○俺のお芝居好きでいっつもやってやって言ってたからなー」
そんなこともあったな。と昔を思い出して笑みがこぼれる。高校は中学の友達が居ないところに来たためこのように懐かしいと思う事が無かった。
緋八「俺ももーそろ帰ろかな、」
『そっか、。』
緋八「なになにー?俺が帰ると寂しいん?」
ニヤニヤと前屈みになり上目遣いをし悪い笑顔でこちらを見つめる。
『うん。ちょっと寂しいかも、笑』
少し驚いた顔をし私の後ろにあるベッドに手をかけ顔を近づける。
(こ、これは壁ドンじゃ、それに顔が近い、)
顔が暑くなっているのが自分でもよく分かった。私の首に手をかけ抱きしめる。
『え、?』
緋八「ちょっとだけ、ちょっとだけやから。」
『マナくん、。』
多分あれは小学低学年の時だった。緋八の両親が台風で仕事から帰る事が出来ない日があった。窓は閉めているが雨音や雷音が響き渡り私と緋八は私の部屋で夕飯を待っていた。
ゴロゴロと雷が落ちる音がし窓が光った。
『今の凄いね、』
窓に向けていた視線を緋八に向けると体操座りをし、膝に顔を埋めている姿を見つけた。
『え、マナくん大丈夫、?』
緋八「お、おへそ持ってかれる、、」
私の家族はあまり冗談を言う家じゃなかったが、雷様におへそを持っていかれるという話は知っていた。だが物知りな緋八がそれを信じ、涙目になりながら一生懸命におへそを隠す緋八は私の目には少し可哀想だが可愛く見えた。
『大丈夫、大丈夫だよ』
背中をさすり落ち着かせようとしていたら緋八が抱きついてきた。
緋八「ほんま怖いし、もう無理、!なんで○○は平気なん、?」
『雷いつもは私も怖いんだけど、マナくんと居ると怖くないんだよね』
いつも私を支えてくれて悲しい時には元気を与えてくれる私のヒーローでありお兄ちゃんみたいな彼を弟のように見えたというと彼に怒られてしまう。
『変わってなくて良かった、、。』
見た目が変わってもやっぱり彼は彼なんだと実感する。
緋八「じゃあもう帰るけどほんまに大丈夫?お母さん今日も遅いんやろ?俺ん家泊まる?」
『ううん、マナくんとウェンくんのおかげで元気になったし明日も学校だから遠慮しとくね』
そう言うと悲しそうに口角を下げる。
緋八「そっか!でも今度俺ん家遊びに来て!○○の話したら是非遊びに来てって!」
『ほんと?じゃあまた今度いくね!お母さんにもよろしく伝えといて!』
緋八「りょーかい!」
こうして緋八は家に帰った。