テラーノベル
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オーディションがあった日から数週間。俺はスマホを見る気力すらなく、ほとんどを寝て過ごしていた。
なんとなく通知を確認するとメールが届いていた。
「メール、…確認だけしとくか」
あまり動いていない頭でスマホを操作する。期待せずに確認した俺の目には嘘かと思ってしまう内容のメールが来ていた。
「えっ?……合格?」
きちんとした文章の下に太文字で『あなたは合格しました』と書かれていた。
「痛った!」
驚きのあまり、スマホを掴んでいた手の力が緩んでしまい、スマホを顔に落としてしまった。
「ま、マジで、俺が合格?誤送信じゃなくて?」
さっきまで動かなかった体がいつの間にか起きていた。届いたメールを 嘘だと思いながらしっかりと確認する。後日集まる場所が記されており、誤送信だとしてもいかないとダメな気がし、カレンダーに印をつけた。
「誤送信だとしても、嬉しいものは嬉しいな」
自分でも分かるほど、今の俺は笑顔だろう。この日から俺は少しづつ、まともな生活を送れるようになった。
「ここが、集合場所?」
集合場所に来たはいいものの、人がいない。
間違えたかと思ってメールを確認しようとした時、可愛らしい声が聞こえた。
「あれー?集合場所ってここじゃなかったっけ?ねえ!集合場所ってここであってる?」
「うぇ、あっえ?」
急に話しかけられ、変な反応をしてしまう。
俺の反応が面白かったのか可愛らしい声の持ち主はニコニコ笑っている。
「何その反応、面白すぎ」
「えっ、だ、だって、君が急に話しかけるから!誰だってびっくりするでしょ!」
「ごめんごめん。悪気は、多分ない!多分だけどね!」
「何なのそれ!多分って、そこは確信持てよ!」
くだらないことを言い合う。ずっと誰かとこうやったふざけた話はしてなかったから、楽しいと思えた。
「いやー、面白い!ねえ、名前教えて!」
「な、名前?」
「うん!だって、ここにいるってことは君も合格したんでしょ?てことは、水ちゃんと同じグループにはいるってことだから今自己紹介してもいいかなーって!」
一気に話が進む。もうなのが何だからわからない状態だけど、自己紹介だけはする。
「えっと、俺は、青。よろしく 」
「青ちゃん!」
「えっ?青ちゃん?」
唐突なちゃん付け。まあ、さっきも自分のことちゃん付けで呼んでたし、人のこともちゃん付けするのは自然なことだと考えることにした。
「ダメ?嫌ならやめるけど、」
「全然嫌じゃないよ!呼びたいように呼んでいいよ!」
「やったー!ありがと!あっ、俺の名前は水!水ちゃんって呼んでいいよ! 」
「わかった。よろしくね、水ちゃん」
「うん!よろしく!」
水と名乗ったこの子は、茶色っぽい髪の中に白や水色が入っていて、おしゃれだなと思ってしまった。
「水ちゃんはね〜、チョコミントの妖精なの!」
「チョコミントの妖精?」
「うん!チョコミント好き?」
「まあまあ?」
そんなこんなで雑談をしていると人が次々と部屋に人が入ってきた。中には私服の人もいたけど、ほとんどがスーツを着たり、黒い作業着?みたいなのをつけていた。
「すみません。遅くなりました。えーと、ここに集まった皆様は、今回のオーディション合格者になります」
「誤送信は絶対にないので、自分のことを疑わないように」
そう言われて、自分のことが恥ずかしくなった。きっと俺は自分の力を自分自身で使えないものだと思っていたんだ。
「ねね、青ちゃん。今日打ち上げあるみたいだけど、行く?」
「えっ、あ、打ち上げ?」
「うん。さっき説明で言ってたけど、もしかして聞いてなかったのー?」
「ごめん、全然聞いてなかった」
水が教えてくれたおかげで、俺はすぐに帰らずに済んだ。ちょっと抜けてるところあるなとは思ったけど、意外としっかりしているようで、羨ましいと思ってしまった。
打ち上げに来たのはいいものの、まだメンバーとなる人たちともしっかりと話をしていない。緊張しつつ、お酒を飲む。先輩たちが色々話しかけてくるけど、俺は嫌われないように立ち振る舞う。だって、もう二度と裏切られたくないから。
「青ちゃん!飲んでるー?」
「飲んでるよ。水ちゃんは飲み過ぎじゃない?ほどほどにしないと、二日酔いになるよ」
「えー?でもお酒美味しいからいいや!」
ニコニコでどんどんお酒を飲む水を見ながら俺を少しずつお酒を飲む。
打ち上げが始まってから二時間が経ちそうになったところで、今日はお開きになった。案の定、酔った水を一人で帰らすには心配になり、今日は俺の家に泊まらすことにした。
「ごめんねー?泊めてもらって」
「別にいいよ。こんな酔った状態で帰らすの心配だから」
「じゃ、泊めてもらう代わりに、水ちゃんが青ちゃんの悩み聞いてあげる!」
「悩み?なんで急に」
水の前では、笑顔で過ごしていたはずなのに、水は俺が悩みを抱えていることを見む抜いていた。
「だって、青ちゃん、苦しそうだもん。先輩たちの前でもさ、嫌われないように振る舞ってる気がしてさー」
「………本当に話してもいいの?」
「いーよ。まだ信用できてないかもしれないけど、青ちゃんのこと、傷つけはしない。これだけは約束する」
さっきまで酔ってたのに、急に酔いが覚めたように真面目な声で優しく笑う水。
そんな水を見て、俺はぽつりぽつりと自分のことを話した。俺が話している間、水は何も言わずに、ただ話を聞いてくれた。
「青ちゃんは、充分なほど頑張ってるよ。だから、これからは無理しないで行こ。泣きたい時は泣いていいし、甘えたい時は水ちゃんに甘えておいで!」
今日初めて会ったのに、俺はもう水のことが好きになっていた。だって、こんなに優しく、包み込んでくれるような人に会ったことなかったから。
コメント
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いやあ、よかったです……!「青ちゃん」「水ちゃん」の呼び方がもう自然で、初対面とは思えない距離感の縮まり方が丁寧に描かれていて好感が持てました。水ちゃんが酔ってるのに急に真面目なトーンで「傷つけはしない」って言い切るシーン、あそこ好きすぎます。青が過去の裏切りを抱えながらも、少しずつ水に心を開いていく流れ……第9話でここまで来たなら、この先どうなるかもっと読みたくなりますね。
#iris
suzu🎲⭐️🎼⏳🪽🎺
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