……それから数週間が経ったが、僕と亜季さんは学校内では会う事も話す事も控えていた。
そうしようと、2人で決めた訳ではないが自然とそうなっていた。
それは多分、僕と亜季さんが一緒にいる所を葵さんと仲村に見られたくないという思いが、少なからず僕と亜季さんの中にあったから…。
とは言っても、学校が終われば僕と亜季さんは学校の外で待ち合わせをして、いつでも好きな時に会っていた。
ちなみに、この頃になると“亜季さん”ではなく、“亜季ちゃん”という呼び方に変わっていた。
ところで葵さんはと言うと、亜季ちゃんの言う通り、授業中でも休み時間でも関係なく、何かを思い立った様に突然教室を出て行く事が度々あった。
亜季ちゃんは人助けと言っていたが、どんな事をしてるのか不思議で仕方なかった。
不思議だとは思ってはいたけど、ずっと聞けずにいた。
それに、何故そんな葵さんの行動を、あの松下が許していたのかは謎だった。
「先生…‥」
「佐藤…わかった。気を付けて行ってこい」
「はい…」
いつも、そんなやりとりが2人の中であった。
もちろん初めの頃、クラスメートは葵さんの行動を不審がっていた。
しかし松下が言った一言が、葵さんに対する不信感を一掃した。
「佐藤は体が病弱で、時々教室を出て行く時があるかもしれない。みんな温かい目で見守ってあげてくれ。いいな!」
こんな風に言われたら、それ以上追求する者はいないだろう。
だから、それからというもの、葵さんが突然教室を出て行っても陰口をたたく生徒はいなくなった。
やはりこういう時の担任の先生の一言は絶大で絶対だった。
だから、クラスメートの殆どが葵さんを応援するかのような雰囲気になっていった。
「佐藤さん、クラスの連中が何か言ってきたら俺に言ってくれよなっ。俺はクラスの中心的な人間だから、みんなにガツンて言ってやるからよ!」
休み時間、千葉が葵さんに話しかけていた。
「あっ‥ありがとうございます」
葵さんは引きつった表情で応えていた。
「おいっ!? 誰がクラスの中心だって? もう一回言ってみろっ」
千葉のすぐ横には千葉の頭を鷲掴みしている松下がいた。
残念ながら千葉は前々から松下に目をつけられていた。
「まつしっ…じゃなくて、先生っ!」
千葉は気まずそうな顔をしていた。
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