テラーノベル
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翌日。
「先輩、おはよう!」
凪の元気な声が響く。千歌は思わず顔を上げる。
「おはよう……」
小さく返事をし、鞄を抱きしめる。
心の奥では、凪に会うのが嬉しいのに、父に見つかったらどうしようという不安が混じる。
「今日も歌ってくれるんですか?」
「……今日は無理」
「えー、なんでですか!ちょっとだけでも!」
笑顔でせがむ凪に、千歌は思わず後ろに一歩下がる。
「……ごめん、ちょっと今は……」
凪は一瞬、戸惑った顔をする。
「そう……ですか」
でもすぐに笑顔を作り、「じゃあ、また今度!」と言って去ろうとする。
千歌は胸が締めつけられる思いだった。
——無邪気な笑顔が、余計に切なく見える。
——でも、今はこれ以上近づけない。
凪が立ち去った後、千歌は静かに息をついた。
心の奥では、凪のことをもっと知りたい、近づきたい気持ちと、父に知られる怖さがせめぎ合っていた。
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