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ズキン、と激しい頭痛が走った。軽い耳鳴りは常に鳴っているが、より一層激しくなった気がする。暗闇に慣れた目にブルーライトの光が刺さる。画面に映るデジタル時計には5:43との表示があった。
今日は3時台に布団に入ったと思っていたが、脳は覚醒状態だったみたいだ。全く無駄な時間を過ごした。
なんとなくスマホのロックを解除して通知欄を確認する。メッセージ通知は無く、ゲームアプリやSNSのおすすめ通知等が数件溜まっている程度だった。
特に興味があるものも無かったので通知を一括削除して画面を閉じ、ベッドの上に置いた。
こんな頭痛じゃ眠れないし、仕事もあるしそろそろ起きてもいい時間だ。上体を起こして軽く伸びをした。ベッドから降りると視界が揺らぎ、そのままその場に倒れ込んだ。
「っ、はぁっ、はぁ、っ」
若干の過呼吸。寝不足なのか薬の副作用なのかは分からない。
原因が寝不足なら、もう少し楽に眠りにつかせてほしい。
なんて無駄な事を考えながら、ベッドに手をかけて起き上がった。
覚束無い足でリビングに向かい、ソファに腰掛ける。
すると唐突に先程とは比にならない猛烈な頭痛に襲われた。同時に強い吐き気。過呼吸を起こして上手く息が吸えない。余りの苦しさに、その場にしゃがみこんだ。ぐるぐるぐるぐると視界が回る。とりあえず息、吸わないと。
「はぁっ、はぁ、ッ、げほっ、げほ、はぁっ、ウぐっ、」
頭の中も胃の中も見える景色もぐるぐる回っている。突然本能的に鼻と口を抑えた。この液体、吐瀉物?口から何か、出てきているのが見える。
指先が痙攣している。
痛い、痛い痛い痛い。
気持ち悪い。頭が痛い。全身の痙攣が止まらない。
呼吸が、できない、誰か助けて、
とりあえず、救急車、スマホは、
寝室に置いてきたんだった。
これ、死ぬやつかも。
まずい、倒れる、
*
先程から何度か元貴に電話を掛けているが応答が無い。
「元貴寝てんのかな。」
「ね、連絡つかないし。」
「家ん中見てくる。」
「あ、僕も行く。」
元貴の部屋の鍵は開けっ放しだった。不用心だなと思いながら入り、「元貴?起きてる?」なんて声をかながら寝室へ向かう。彼の家は何度か入ったことがあるから部屋の場所は何となく把握していた。
寝室のドアを開ける。直ぐにベッドが目に入った。しかし元貴は居なかった。確実に起きた痕跡がある。
「居ない、」
目に入ったのは1台のスマホ。
カバーを変えたのか、見覚えのない見た目をしていたが、画面を点けると何件か不在着信の通知が来ていた。
嫌な予感がした。
「探すよ。」
急いで元貴の姿を探す。無駄に多い部屋数に苛立ちを覚える。「元貴!元貴!」と何度も叫んでいるが返事はない。俺がリビングのドアを開けたその時だった。
「若井!救急車!早く!」
涼ちゃんが叫んだ。そこには酷い悪臭と吐瀉物、倒れて全身が痙攣している元貴の姿があった。
俺はスマホから119に電話を掛けた。
救急車が到着したのはそれから5分後だった。
*
元貴は脳出血らしい。幸い一命は取り留めたが、意識は戻るまで数週間かかる。後遺症が残る可能性も加味して置いて欲しい、との事だ。
若井も僕も、何も言わなかった。
若井はただ、虚ろな目でどこか遠くを見つめていた。
「御手洗行ってくる。」
僕は逃げるようにトイレに駆け込んだ。
気持ち悪い、
「うぐ、ぉえっ、」
僕は嘔吐した。
自分のせいで元貴は、なんて思ってしまった。
若井にこんな姿見せられない。
口からも鼻からも吐けるだけ吐いた。そうしている内に胃液しか出なくなった。息が苦しくなって、呼吸を整えてから個室を出た。
顔を洗ってトイレを出ると、廊下の壁に凭れる若井と目が合った。
「ゎ、若井っ、」
「…涼ちゃん」
どんな顔をしていいのか分からず、思わず目を逸らした。
僕が吐いていたことは若井には分からないだろうけれど、万が一バレたらどうしようかと不安になった。
「…長かったね。大丈夫?」
「うん、ちょっとお腹痛くてさ。」
苦笑いをする。笑顔はだいぶ引き攣っている感じがした。若井に、メンバーに嘘をつくなんて久しぶりの様な気がした。
そして若井の横をそのまますれ違おうと思った時。
「あのさ、涼ちゃん。」
僕は立ち止まった。背筋が凍った。
「なんかあったら、全部言ってよ。元貴が復帰できる様になるまで、俺ら2人がミセスなんだから。」
元貴は、復帰できるのかな。もし後遺症で呂律が回らなくなったりしたら…
「」
否、言う必要なんて無い。僕らは信じるしか無いんだから。