テラーノベル
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――その瞬間。
ピコン。
明るい通知音がテーブルに響いた。
なつのスマホが光り、
画面にはポップアップ。
《今日会えるよな?》
いるまの呼吸が、一瞬止まった。
なつは「あ、来た」と軽く言って
スマホを 手に取る。
「言い方つよ S系だったんだ」
ケラケラ笑うなつ。
その横顔に、いるまは無言で目を向ける。
胸の奥がざわざわして、
コーヒーの味すら分からなくなる。
「いつ会おっかな〜」
なつは楽しそうに揺れながら言う。
その無邪気さが、さらに胸に刺さる。
「……今日、会うつもりなの?」
思わず、声が少し低くなる。
「え?そのために女装してんだけど
どんな子なのか気になるし。
なんか“愛してくれそう”って
雰囲気あったしさ〜」
“愛してくれそう”
その言葉に、いるまの拳がテーブルの
下でゆっくり握られた。
「なつ」
「ん?」
「……なんで、会うんだよ」
思わず本音が滲む。
それを隠しきれない。
なつは首を傾げて、
本当に不思議そうに言う。
「え、愛が知りたいから?
俺ってそういうやつじゃん」
それは分かってる。
分かってるけど。
「……危ないって言ったろ。
知らないやつに会うの、やめとけよ」
「いるまが心配性すぎなんだって〜」
なつは笑いながら、
通知に指を伸ばす。
返信しようとしている。
“今日会えるよ”の一言を
打とうとしている。
胸の奥に熱いものが込み上げて、
気づけば、いるまの手がひょいっと
伸びた。
なつのスマホを、ふっと奪うように
掴んだ。
「……っ!?
ちょ、いるま?」
声も出ないほどの勢いで。
「今日はやめとけ」
低い声だった。
自分でも驚くほど。
「……なんでそんなに怒ってんの」
なつは目を見開いて、
不安そうに細める。
その顔を見た瞬間、
いるまの胸が強く締め付けられた。
「怒ってねぇ。ただ……」
ただ――
“俺以外に可愛いなんて言われんなよ”
“知らないやつにそんな姿見せんなよ”
“誰かに触れられるの、見たくない”
全部飲み込んで、
「……心配なんだよ、お前のこと」
それだけ言った。
なつは少しだけ赤くなって、
視線を落とす。
「……そんな言い方ずるくない?」
「お前がずるいんだよ」
奪われたスマホを見つめたまま、
なつはゆっくり顔を上げた。
その目は、
怒ってるわけでも、
泣きそうなわけでもない。
ただ、
“気づいてしまった”みたいな揺れ。
「……いるま」
小さく名前を呼ばれるだけで、
胸が跳ねる。
「…なんだよ」
いるまは視線をそらしたまま、
手に持つスマホをぎゅっと握る。
沈黙が数秒。
そしてなつは、
ぽつりと落とすように言った。
「いるま……もしかして嫉妬してる?」
その問いはやさしい声だったけど、
刃物みたいに真っ直ぐ刺さった。
心臓が一瞬止まる。
息がうまく入ってこない。
嫉妬、なんて。
そんなこと、口に出したら全部壊れる。
「……嫉妬なんか、してねぇよ」
嘘。
でも、もう後戻りはできない。
なつは目を細めて、
テーブルに肘を置きながら、
少し寂しそうな笑みをした。
「だって、そうじゃなきゃ……
そんな顔しないじゃん」
“そんな顔”
自分がどんな顔をしているかなんて
わからない。
けど、なつには全部見透かされてる。
いるまが何も返せずにいると、
なつはスマホにそっと手を伸ばした。
触れそうで触れない距離で――
まるでお願いするように。
そして。
「……俺の邪魔しないでよ」
その一言は、
静かで、優しくて、残酷だった。
続けて、
もっと胸に刺さる言葉を落とす。
「わかってくれるでしょ?」
わかってる。
なつが“愛を探してる”って。
誰かに求められたくて、
誰でもいいから安心したくて、
そうやって生きてること。
だからいるまは……
なつの進もうとする道を、止められない。
止められる立場じゃない。
けど。
(――邪魔って言うなよ)
その言葉だけは痛かった。
喉がつまって、声が出ない。
なつはスマホを取り返すと、
画面を見つめながら言った。
「今日……会っちゃダメ?」
許可を求める声。
でもその相手が“いるま”っていうのが、
また心を締めつける。
「……」
返事ができない。
なつは少しだけ笑って、
寂しそうに視線を落とした。
「いるまは俺の味方でいてよ。
ね?」
それは“恋人”じゃなくて“相棒”に
向けられたお願い。
それ以上でも、それ以下でもない。
胸の痛みをごまかすように、
ゆっくり息を吐いた。
なつは悪気なんてなくて、
ただ“いるまなら分かってくれる”と
信じてるだけで。
俯きそうになる視線を必死で持ち上げて、
いるまは笑った。笑うしかなかった。
「……わかってるよ。
お前が好きなようにしたらいい」
声が少し掠れていても、
なつは気づかない。
スマホにまた通知が来て、
顔が明るくなる。
──まただ。
胸の奥がちりちりして、
指先がじんと熱くなる。
このまま帰したら絶対危ない。
いや、本当は危険だからじゃない。
ただ離したくないだけだって、
自分でも分かってる。
でも理由を取り替えないと、
そばにいられない。
いるまは席を立つなつの手首を掴んだ。
「……危ないから送ってく」
短く、低く。
押し殺した感情がそのまま滲んでいた。
「え? なんで?」
「今日の相手、初めて会うんだろ。
人通りも少ねぇし……ほっとけねぇよ」
——本当は嫉妬で頭が焼けてる。
なのに、それだけは絶対に言えない。
「俺は……お前の相棒だろ?
危ない目に遭われたら困る」
やっと絞り出したその言葉は、
“好きだ”の代わりにいるまが使える
精一杯の告白だった。
なつはぽかんとして、
そのあと困ったように笑った。
「……いるまってほんと優しいよね」
わかってない。
でも、わかってなくていい。
今は送っていられる、
それだけで十分だった。
ー
駅前の薄暗い路地に近いカフェ前。
人通りはあるけど、夜風が少し冷たい。
「ありがとね、いるま」
なつが微笑んで言う。
女装で整えられた顔はまるで
本物の女の子みたいで、
街灯に照らされて少し儚い。
「俺が送りたいって言ったから
気にするな」
いるまはそう言いながらも、
繋いでない手が名残惜しそうに
わずかに動いた。
本当は、このまま家まで連れて
帰りたいくらい不安で…嫉妬で…苦しい。
なつは軽く手を振って、
指定された待ち合わせ場所に歩いていく。
その背中が遠ざかる瞬間、
いるまの胸がぎゅっと痛んだ。
——頼むから、優しくしてやってくれよ。
——…いや。違う。触らないでほしい。
矛盾だらけの願いが喉につっかえる。
ーー
少し歩いた先、
街灯の下にひとりの男が立っていた。
黒のコート、整った髪、背は高い。
スマホを見ていたが、なつの足音に
気づくと顔を上げた。
「あ、なつちゃん?」
なつはふわっと笑って駆け寄る。
「うん、初めまして!」
その声が弾んでいて、
さっきまでいるまと話してた時より
柔らかかった。
男はじろりとなつを見て、
目の色が変わる。
「写真より可愛いね」
「え、ほんと? よかった……」
なつは素直に照れて笑ってしまう。
——その笑顔は、本当はひとりにだけ
向けてほしかったのに。
いるまは少し離れた道の影から、
見えないように立ち止まっていた。
送っていくだけのつもりだったのに、
足が勝手に止まった。
なつが男の前に立ち、
その男がなつを値踏みするように
見ている。
その光景だけで胸が軋む。
分かってる。分かってるのに。
なつの声が聞こえる。
「じゃあ……行こっか?」
笑っている。
無邪気に。
いるまの知らない誰かに向けて。
その瞬間、
いるまの拳が震えた。
ーー
ツアーLIVEのビジュ良すぎませんか
横アリ連番するか悩んでます🤔
コメント
2件
どうしよう好みすぎる作品を見つけました … !!! 🥹🥹 ツアービジュほんとに良かったです … 紫くんのハーフアップお団子イケメンすぎました ‼️