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母が死んでから半年がすぎた頃、町中にとある張り紙が張り出されていた。
『ワンダーサーカスショー! 』
アメリカからロンドンにサーカス団がやってくる!
どうやら街にサーカス団がやってきて屋内の会場で芸をするらしい。時間は1週間後の昼12時からだそうだ。
ちょうどその日はシフトがなく休日だった。でもこんなことでお金の無駄遣いは良くないと思って、興味はあったけど諦めた。
その日、仕事から帰ると2人が玄関に立っていて、手にはあのサーカスのチラシを持っていた。
『ダニエルいつもありがとう!』と言ってチラシと入場料を渡してきた。いつもふたりには月の初めにお小遣いを渡しているけど、入場料はそれより何倍も高い。2人が貯金していたのを渡してくれたんだろう。
僕は受け取れないよと言って返そうとしたけど、
アレックス「行ってきてよ!せっかくの休日だし、たまにはダニエルも楽しまなきゃ!」
アーサー「そうそう!ただでさえ君はあんま休まないんだから!」
そう言ってチラシと入場料を無理やり手渡して、家事をしに部屋の中へ入って行ってしまった。
そうして僕は1週間後、サーカスを見に会場へ行った。結構な人が集まっていて、まぁまぁな広さの会場を埋めつくしていた。
どうやらそのサーカス団はそこそこ有名らしく、ファンのような人を何人か見かけた。
席に着いてしばらくしてショーが始まる時間になるとはじまりの合図のbeepという音が鳴り響いた。(beepというのは英語圏のブザーのような音のこと)
するとステージに僕と同じくらいの少年が出てきた。 見たことないくらいすごく派手な格好だ。赤と白のストライプ柄のシルクハットのような形をした大きな帽子に、すごく色の濃いピンク色の髪に水色の輝く大きな瞳が印象的だった。ニカッと笑いながら彼は大きな声でこう言った。
『レディース&ジェントルメン!ようこそ私たちのショーにお越しくださいました!これから皆さんに見たこともない不思議なショーをお見せします!どうぞ最後までお楽しみください!』
少し変わった声だなと僕は思ったが、でもそれよりアメリカ流の喋り方が特徴的で興味を惹かれた。
『申し遅れました!僕はジャックです!これから最初の芸を見せるよ!』
だいぶハードルを上げていたけど大丈夫かとみんなが心配していたが、杞憂だった。
ジャックは次の瞬間、頭に被っている帽子を取るフリをして頭を取った。
ザワつく会場、あちこちで上がる悲鳴。僕もここまでとは思わず腰を抜かしてしまった。かと思えば彼は自分の首を手に持ったまま話し始めた。
『ご安心を!ただのお家芸です!僕の家系に代々伝わる手品で、種も仕掛けもございません!』
むしろあってくれよ。マジで。
それからというもの、色んな人が代わる代わる出てきて、頭を取るくらいに凄い芸を沢山見せた。最初に頭を取って見せた少年は今やっている芸の解説をしたり、どさくさ紛れにジョークを飛ばしたりして会場を湧かせていた。
あっという間に時間が過ぎて、気づけばショーが終わる時間になっていた。8時間半がこんなに早く感じたのは初めてだった。
その日はこれまでにないくらいに笑って驚いて笑い疲れて、凄く楽しくて、満たされていて、辛いことを全て忘れられた。
帰る時には外はもうとっくに暗くなっていて、弟たちが心配すると思って急ぎ足で家に帰った。
ワンダーサーカスショー END