コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ふらふらと歩いてきたまふゆは、私を見つけてすぐに右隣りに座った。
「……いた」
「私のこと探してたの?」
「うん」
「なら連絡してくれればよかったのに」
その言葉に返事はせず、私にもたれかかってきたまふゆ。
「ちょっと。腕、動かしにくいんだけど?」
「手……」
「は?」
そう言って、私の鉛筆を持つ手に手を重ねてきた。しかし、私は今こうして絵を描いているのだが……。
「座るならこっち。左手なら描かないから」
「……絵名が移動してよ」
「はあ……?」
今日のまふゆは図々しいみたいだ。しかし、どことなく元気がないみたいなので、今日だけは言うことを聞いてあげようと思う。
「はい移動。ほら、左手」
「ん……」
手を取って、少し口元が緩んだまふゆ。その表情は少し心臓に悪い。それから私の手を大切そうに繋いだ。恋人繋ぎだ。
やっぱり私にもたれかかってきて、密着する。私の絵を堂々と覗かれる。少し描きにくいが、まあいいだろう。
「探してたって、ずっとセカイを?」
「うん。でも絵名が来てからだよ」
「来る前は?」
「じっとするのが出来なくて、歩いてた。でも途中でミクとリンに会って話してたかな。絵名が来たことを二人に教えてもらった」
「なるほど」
私に会いたかったのなら、連絡してくれればいいのに。呼ばれたらセカイにすぐ行くし。暇じゃないけど。
「連絡しなさいよ。迷惑じゃないから」
「じゃあ、次からそうする」
「そもそもなんで私を探してたのよ」
「また夢を見たから……」
例のいなくなる夢か。ちょっと前も見ていたし、流石に少し心配になる。
「何か、人間関係とか嫌なことあった?」
「ないけど。どうして?」
「そんな夢ばっかり見るのって、ちょっと心配になるじゃん……」
「絵名がいれば大丈夫」
「え?」
「……迷惑だった?」
「そうじゃくて。意外っていうか……」
まふゆの私に対する信頼度はここ数十日で大きくなったらしい。頼られてる、悪い気はしない。しかし、頼られというよりかは、甘えていると言ったほうがしっくりくる。手を繋ぐという心の落ち着かせ方が、可愛らしいからだろうか。
まふゆの手が繋がれた左手。ふと、握って、開いて、握って、開いて、という動きを繰り返してみる。ぐーぱーぐーぱー。
「どうしたの?」
「手の体操?」
するとまふゆはリズムをワンテンポ遅らせて真似してきた。ぐーぱーぐーぱー。ぱーぐーぱーぐー。
恐らく、私はまふゆに母性を感じている。また、まふゆは無意識に私を親に見立てていると思う。
「まふゆって、結構子供だよね」
「…………」
その言葉を言った途端、固まった。そして、拗ねたのか、まふゆはもう動きを繰り返さなくなった。繋いだ手は、離さなかった。