テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
椏梳華 よる
第3話「ネオンの街」
朝だった。
公園のベンチ。冷たい空気。
「……さっむ」
コゲが体を起こす。
「野宿ってこんな感じかよ……最悪だな」
「環境としては劣悪だな」
ごマしオはすでに起きていた。
「え、寝てた?」
「最低限の休息は取った」
「寝ろよちゃんと」
「必要ない」
「出たよ」
しらたまもゆっくりと目を覚ます。
「……おはよう」
「おはよー、主人公」
「その呼び方やめてよ」
軽いやり取り。
だけど、どこか昨日よりも“現実感”があった。
3人は立ち上がる。
「で、どうすんの?」
コゲが伸びをしながら言う。
「ここにいても仕方ない」
「……歩こうか」
しらたまが前を見る。
自然と、進む方向は決まった。
――街へ。
しばらく歩くと、景色が変わる。
木々が減り、建物が増える。
やがて。
「……うわ」
コゲが思わず声を漏らした。
ネオン。
光る看板。
色とりどりの光が、街を照らしている。
まるで夜のような明るさ。
だけど――
「……誰もいない」
しらたまが呟く。
店はある。
道もある。
だけど、人の気配がない。
「貸切状態ってやつ?」
「異常だな」
ごマしオが冷静に分析する。
「本来、人がいるべき場所に人がいない」
「ヒトは?」
「見当たらない」
静かすぎる街。
音は、風とネオンの微かな唸りだけ。
3人はしばらく歩いた。
街の横には、木が広がっている。
自然と人工の境界線。
その境目に――
「あれ、見ろよ」
コゲが指をさす。
そこには、一軒の家があった。
森の中に置かれたような、古びた家。
「……ボロいね」
「構造的にも不安定だ」
「でもさ」
コゲが笑う。
「屋根あるだけマシじゃね?」
しらたまは少し考えてから、頷いた。
「……入ってみよう」
扉は、簡単に開いた。
ギィ、と嫌な音を立てて。
中は暗く、湿っていた。
床は軋み、空気は重い。
ベッドは汚れ、机にはホコリ。
椅子にはクモの巣。
「うわ……」
「劣悪どころじゃないな」
その時。
――ぐちゃ。
音がした。
3人の視線が、一斉に奥へ向く。
「……いる」
しらたまが小さく言う。
そこに、“ヒト”がいた。
昨日よりも、ひどい。
形は崩れ、液体のように広がっている。
床に溶けるように存在していた。
「……ァ……ァ……」
声も、ほとんど意味を成していない。
「……またかよ」
コゲがため息をつく。
「数増えすぎじゃね?」
「処理対象だな」
ごマしオが淡々と言う。
しらたまは、迷わず前に出た。
「……直す」
その一言。
昨日と同じように。
手を伸ばそうとする。
「――待てよ」
その手を、コゲが掴んだ。
「……コゲ?」
「直すか、消すか……だろ?」
いつもより、少し低い声。
「神サマ、そう言ってたよな」
「……うん。でも」
「だったらさ」
コゲはヒトを見る。
「きっと俺の能力は、ERROR。“消す方”だ」
しらたまの動きが止まる。
「……なに言ってるの」
「だってさ」
コゲは笑う。
「バグってんだろ?あれ」
「だからって――」
「直すのもいいけどさ」
少しだけ、真面目な声。
「全部それでいいのか?」
「……」
「効率で言えば、消した方が早い」
ごマしオが口を挟む。
「再現より削除の方がコストが低い」
「ほら、こういうこと」
「違う!」
しらたまが強く言う。
「助けられるなら、助けるべきだよ!」
「……綺麗事」
「綺麗でいい!」
「アンタさ」
コゲが少しだけ苛立つ。
「全部背負うつもり?」
「背負うよ」
即答だった。
少しの沈黙。
そして。
「……そっか」
コゲは手を離した。
「じゃあ、見てろよ」
そのまま、ヒトの前に立つ。
「コゲ、やめて!」
「一回くらい、試してもいいだろ」
手をかざす。
空気が、歪む。
「――ERROR」
軽い言葉。
だけど。
結果は、一瞬だった。
ヒトの体が、崩れる。
ぐしゃり、と音を立てて。
存在そのものが、ほどける。
修復のような過程はない。
戻るでもない。
ただ――
消えた。
「……え」
しらたまが呆然とする。
「……はや」
コゲがぽつりと呟く。
「直すより、楽だな」
「……当然だ」
ごマしオが言う。
「削除は単純処理だ」
「……」
しらたまは、何も言えなかった。
さっきまで“いたもの”が。
もう、どこにもない。
助けることも、できなかった。
「……これが、現実だろ」
コゲが振り返る。
その表情は、いつも通りだった。
軽くて、笑っていて。
でも。
どこか、違った。
沈黙のまま。
3人は家の中を見る。
「……ここ、使えるな」
コゲが言う。
「屋根あるし、ベッドあるし」
「衛生状態は最悪だがな」
「贅沢言うなって」
しらたまは、まだ動かない。
さっきの場所を見ている。
「……寝よう」
コゲが言う。
「明日もあるんだろ?」
しらたまは、ゆっくり頷いた。
「……うん」
その夜。
3人は同じ屋根の下で眠る。
昨日よりも、少しだけ距離があった。
同じ空間にいるのに。
見えない何かが、間にある。
それはきっと。
小さなズレ。
だけど確実に。
戻らない方向へ進み始めた――最初の一歩だった。
コメント
6件
一いいねねいただき
いちこめめめめめ
好き