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文化祭当日。
合唱部の発表を終えた京介は、舞台裏で息を整えていた。
そこへ匠海がやってくる。
「京介、よかったで。歌……めっちゃ響いとった」
京介は俯いたまま答える。
「……ありがと」
匠海は少し沈黙してから、静かに切り出した。
「……避けとったんは悪かった」
その言葉に、京介の胸が一気に熱くなる。
「……だったら、なんで俺を避けたんだよ!」
思わず声を荒げていた。
匠海は驚いたように目を見開く。
京介は続けた。
「俺が断ったからだろ? お前、俺に本気だったくせに……なんでそんな簡単に、”生徒会長”に戻れんだよ!」
京介の声は震えていた。
匠海は拳を握りしめ、吐き出すように言った。
「……簡単ちゃうわ! お前を好きなん、止められへん。せやけど、拒まれてんのに、押しつけんのも違うやろ!」
「俺は……お前が俺を見てくれるまで、待つつもりやった」
京介の胸に、チクリと痛みが走る。
(……待ってくれてたのに、俺が勝手にイラついてただけ……?)
二人の間に重たい沈黙が落ちた。
その時、体育館から響く音楽や歓声が届く。
祭りの熱気の中で、二人だけが切り離されたように立ち尽くしていた。
京介は、震える声で言葉を探す。
「……俺、なんでこんなにお前に腹立ってんのか……今わかった」
匠海が目を向ける。
「……なんでや」
京介は唇を噛んで、真っ赤になりながら言った。
「俺……匠海に避けられんのが、嫌だった。……怖かった」
「……それって」
匠海の声が揺れる。
京介は視線を逸らしながらも、絞り出すように。
「俺……お前のこと、”まだ”って言ったけど……たぶん、もう”好き”なんだと思う」
匠海の目が大きく見開かれる。
「京介……!」
京介は顔を覆ってしまう。
「でも俺……どうすればいいのか分かんねぇ……」
匠海は一歩近づき、京介の肩にそっと手を置く。
「……それで十分や。今、そう言うてくれただけで……めっちゃ嬉しい」
京介は俯いたまま、肩に触れる匠海の手を握り返した。
文化祭の喧騒の中、二人だけの世界が静かに動き始める。