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ガレイダス
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ゐちごあいすっ!🍓🍨
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ゐちごあいすっ!🍓🍨
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風が匂わせる春の気配、ふわりと膨れるカーテン。日差しはガラスをすり抜けて、研究所の内装を、机の上の紙面を、研究者の横顔を淡く照らす。
そう、それは何の変哲もない穏やかな昼下がりのことだった。
穏やかな。
穏やか。
穏やかな昼下がりって、徹夜明けの研究者が暴走しかけてる様を指す言葉だっけか?
「違うと思うよ」
「オマエだよスレイ」
オレの飼い主。兼、研究者。白衣を纏うラベンダーは、今日も今日とて睡眠不足らしい。オレはその事実を誰よりも知っている。
だってこいつ、オレが昨日寝落ちするまで起きてたし、オレが今朝目を覚ました時も澄まし顔で起きてた。部屋の電気はつけっぱなし、本の栞も引き抜かれ、これでどうして徹夜していないなどと言えようか。
馬鹿じゃねぇのかな。普通に考えて業務効率落ちるだろ。
「スタリ」
そんな馬鹿が、不意にオレを呼んだ。メモに落としたペン先を見つめて、顔を上げないまま。
「……お前頑なにオレのことアイスって呼ばないんだな」
オレの名前はIcetarry、あだ名はアイス。既に定着しきったあだ名があるにもかかわらず、わざわざ別の呼び名を提案してきた変人、ことこいつ。
「スタリ」
「なんだ?」
「外に出た方が良いよ」
「なんで?」
「爆発するから」
音が止まる。万年筆が紙と擦れる音。空気が凪いだ。
つい先程まで忙しなく動かしていた手元を指差しながら、スレイはそう宣う。
へぇ、爆発するんだ。
「なんで?」
「爆発するように作ったから」
「なんで?」
「とにかくスタリは安全な位置に避難して」
「オマエは?」
「ボクは……まぁ……ボクって最強だし……」
既にダメな気配がする。ダメすぎてあまり年上として見上げる気になれない。
彼はこちらにしっしっと追い払うような仕草をした。もう少し良いジェスチャーはなかったのか問い詰めたいが、まぁ今回は見なかったことにする。
「はぁ、わかったよ。出ればいいんだろ?」
「聞き分けが良くて助かるよ」
「オマエも巻き込まれんなよ」
「大丈夫、爆発するのあと3秒後だからどうせ手遅れ」
「は?」
なんかとんでもないセリフ聞こえたけど、おい、待て。
慌てて壁裏に隠れる。
しかしまあ、そんな些細な抵抗も。
大爆発の前では無意味というもので。
その日、研究所は研究所の主が起こした事件のせいで、瓦礫と灰の山になったってわけ。んでもって、オレたちはコメディみたいに全身黒焦げになったってわけ。
ふざけんな。
◇ ◆ ◇
優雅なお茶の湯気がガゼボに満ちる。フィルさんの淹れる紅茶は、茶葉の種類か淹れ方か、とにかくふわりと優しい香りがするのだ。
少なくとももう、焼け焦げたコンクリートの匂いに肺を満たされるなんて経験はしたくない。
「……大変だったわね……」
「たぁ、たいへん?」
ふたりの言葉に遠慮なく「大変だった」と頷きつつ、茶菓子に手を伸ばす。さく、ほろほろ。素直に口の中でほどけてくれる甘い感触が、どこぞの意地っ張りとは程遠くて。無駄な感慨に浸っているオレを、柔らかい声が労る。
「たぁ、やすむ? ねる?」
「寝ない」
「なんで?」
「寝ると奴が放置される」
そう、奴。奴は今、瓦礫を片付けるマシーンと一緒に復旧を頑張ってるらしい。こんな事態を見越すくらいなら爆発を予防してほしいものだが。
特に復旧作業の戦力にならないオレは、スレイ本人から「遊びに行ってきなよ」と言われてしまい。ふらふら研究所の周りを歩いているうち、通りがかったフィルさんとドールと一緒に茶会をすることになった、というわけだ。
「不思議よね。どうして大変なことになるのにずっと寝ないのかしら……」
苦笑する綿の声を聞きながら、少しだけ紅茶を啜る。ミルクのまろやかな甘み。世話焼きさんの味。
「オレも昔気になって聞いたんだが、楽しいあまり時間が消し飛ぶとか言ってたぞ」
「たのしい? ぉるたのしいしってる! たのしい、しあわせ!」
軽やかに椅子から降りたドールが、そのままこちらの足に飛びついてくる。慣れたものだ。腹が減った、なんていうから即席の飯を与えていたら、いつの間にか懐かれていたのだ。……完全にコスパの良い餌付けじゃないか。
フィルさんからも菓子をもらってるみたいだし、料理得意組のオレたちがいなきゃ飢えて死ぬんじゃないだろうか。オレとオマエじゃ大して年も変わんないっていうのに。
でも、いつかこいつも、恥を覚えて自立しだすんかな。
「……ないな」
負の感情ないもんな。恥とか物理的に存在しない。
じゃあ、一体どうするんだ?
「フィルさん」
「ん、なにかしら?」
「ドールに何か教えていたりするのか?」
「なにか、っていうのは〜……具体的に?」
「教養とか」
教育とか。知識とか。続いた類義語たちは飲み込みつつ、顎に指を添えるフィルさんを眺める。彼女が首を傾ける拍子に、雫のピアスがゆらりと澄む。
「そうね〜……本の読み聞かせはやっていたりするわ」
確かにそんな気がする。優しい声が寓話を語っている様子はかんたんに浮かび、オレはなるほどと頷いた。
「他には?」
「そろばんとか」
「おお」
「本の読み聞かせとか」
「おお?」
「そろばんとか」
「さっきも言ってなかったか?」
「本の読み聞かせとか」
「本の読み聞かせとそろばんしかやってねぇじゃねぇか」
フィルさんってボケるんだ。
「ふふ、ごめんなさい。本当はそろばんも教えてるわけじゃないのよ」
「なんで今悪化させた?」
くすくす笑うフィルさん。心から楽しそうな淑女。
悪戯好きな年下たちに影響されてしまったのか、彼女はたまにオレたちを揶揄うようになった。大の大人が何をやっているんだと呆れたいところではあるが、そんなもんかと強引に自分を納得させる。そうでなきゃオレがツッコミで過労死する。
「そろばんは隣でやっているだけよ〜」
「なるほどな」
「一級の腕を見せてるわ〜」
「???? ちゃんとすごいのやめろ。そこまでくると教えるためじゃないだろ」
「だって教えてるつもりないもの」
「正論だった」
……こんな話を延々としていたら、せっかくのお茶が冷めてしまいそうだ。隙を見計らってカップを手に取り、最後のひとくち分を身体に流し込んだ。ソーサーに置いた途端すかさずおかわりが注がれる。どうやら逃す気はないらしい、作戦失敗。
フィルさんが傾けている間だけきっと魔法がかかっている、見た目と釣り合わない容量のティーポット。本日のお茶会の主役、いや主役は茶菓子なのか? 知らないな。残念ながら常識的であることと常識があることは別なのだ。
こんな時スレイがいれば……
「……今頃ここも大惨事だっただろうな」
「? なにか言ったかしら〜?」
「何も」
「べる〜、たぁ〜!」
ふと、足元の方から名前を呼ばれる。そろそろ構えという風に上目遣いで頬擦りしてくる彼の頭を、「どうした?」と撫でてやる。彼は満足げに笑って、溌剌と答えた。
「おなかすいた!」
「あらあら〜。そうね、ほら、お茶菓子があるわよ。たくさん食べてちょうだい」
「えへへ〜」
宥め上手なフィルさんが、クッキーを摘んでドールの口元に持ってくる。ドールはオレから離れないままそれに食いついて、もふもふ幸せそうに食べる。フィルさんが、上手く作れてよかったわ〜、と呟く。
恐ろしいことに、ほぼ毎日レベルで開催されるこのお茶会、ほぼ毎日レベルでフィルさんが全部準備しているのだ。それはもちろん、全然クオリティが落ちる気配のないお茶菓子も含めて。フィルさんはお菓子を作るのが本当に好きなんだろう。
「そうね、でも、確かに新しいお菓子作りもそろそろ考えた方が良いかもしれないわね」
「そうか?」
だから、既に充分だとは思うんだが。
「あんまり同じのばかり作っていると飽きちゃうかもしれないでしょう? こう見えて私、本屋さんでたくさんレシピ本を買っているのよ〜。きっとその中に役立つものもあるわ」
懐からレシピブックを取り出すフィルさん。いつも持ち歩いているようだ。
本を上から覗き込んだ。パラパラ送られていくページに合わせて、色とりどりの付箋も裏返されていく。既に見たところか、几帳面だな。
辿り着いたのは本の中程。紙を捲っていたフィルさんの指が止まって、とんとん、とイラストに触れる。
「そうね、これとかどうかしら?」
「……上級者用って文字が見えるんだが?」
「そうね、きっと作れるわよ。ふたりで頑張りましょうね」
「えっオレも作るのか?」
「そうね、ふたりで頑張りましょうね」
「いやいやいやオレ菓子は素人だが!?」
「でも料理は得意なんでしょう?」
「そ、れはそうだが」
スレイという奴の生態は未だ謎で、目を離すとすぐ飯を抜こうとするくせに、オレが作った晩飯だけはまともに食う。おかげでオレは自然と料理当番をすることになり、流されるまま料理が得意になってしまっていた。
「じゃあ同じじゃない?」
「同じじゃないだろ、多分……」
とはいえ菓子を作ったことなんてない。料理と大した違いはないのかもしれないが、それはそれとして初見で上級者向けを手伝わされるというのには冷や汗が出る。
しかし、そのあまりに強引な説得を止めるほどの理由もなく。ウッキウキなフィルさんによって、突発お菓子メイキングがスタートしてしまった。
オレを差し置いて。差し置かないでくれ。
ちなみに試食係はVoidoll。……美味しいとこピンポイントで掻っ攫ってっただけだろ。この野郎。別にいいけどさ。
コメント
1件
わあ〜第2話もすっごく面白かった!!😭💕 研究所ぶっ飛ばしておいて次のシーンで優雅に茶会ってギャップがたまらん! スタリのツッコミが冴えわたってて、フィルさんの天然ボケに何度も笑ったよwww 「そろばんと本の読み聞かせしかやってない」の流れマジでツボった😂 ドールの無邪気さも相まって、この3人の空気感がほっこりするね…♡ スレイはまた何かやらかしてそうで心配だけど(笑) 次回も楽しみにしてるよ〜!🌸