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遊園地を出る頃には、空が茜色に染まっていた。
風が少し冷たくなってきていて、
賑やかだった一日が、嘘みたいに静かに終わっていこうとしていた。
最寄りの駅までの道を、二人は並んで歩いていた。
ずっと歩いてるのに、話すことはもうあんまりなかった。
けど、沈黙が気まずいわけじゃない。
今日は、そういう日だった。
ロボロが、ふと立ち止まった。
見上げると、電線越しに月が出ていた。
「なぁ、ゾム」
「ん?」
「今日のこと……たぶん忘れへんと思う」
ゾムは驚いたようにロボロの顔を見た。
でもすぐに、どこか優しい笑みを返す。
「そっか。それ、めっちゃ嬉しいわ」
「なんか……ぜんぶ思い出せたわけちゃうけど、今日歩いてる時、ずっと変な感じしてて。懐かしいのに理由がなくて、でも……嬉しかってん。ずっと」
「……」
「俺な、自分の“楽しい”が、今日ほんまに“楽しかった”んやって、確かめられた気がする」
ゾムはなにも言わなかった。
ただ「うん」とだけ頷いて、少しだけ顔を背けた。
その横顔は、夕焼けに照らされてほんの少し滲んで見えた。
駅に着いて、改札前。
いつもなら「またなー」って手を振って終わるはずだったのに、
その日は、別れ際にロボロがポツリとつぶやいた。
「……ありがとう、誘ってくれて」
それだけ。
でもゾムは、それがただの礼やないことに気づいてた。
ほんの少し、何かが戻ってきてる。
名前も、記憶も、言葉にもまだならん感情も。
全部、静かに…ゆっくりと。