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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第十二話 言葉にしないこと
会う日まで、まだ少し時間があった。
だから、その日の二人もいつもと変わらなかった。
『今日めっちゃ眠い』
『寝れば?』
『そういうことじゃない(笑)』
『じゃあ何』
『話したい』
『それなら寝れないね』
『だから困ってる』
そんなくだらない会話から始まった。
いつもなら、そこから自然に話題が広がっていく。
けれど、その日は少し違った。
相手の返事が、いつもより短い。
『今日どうだった?』
『普通』
『学校は?』
『普通』
『疲れた?』
『ちょっと』
彼女は画面を見つめた。
まただ。
前にも何度かあった。
何かあったとき、相手は決まって「大丈夫」と言う。
詳しく話そうとはしない。
以前なら、そのまま話題を変えていた。
でも最近は、少しだけ気になっていた。
『ねえ』
『ん?』
『話したくないことなら、無理に言わなくていいからね』
しばらく返事がなかった。
『……どうしたの?』
『いや』
『なんかあった?』
少し間が空いて、
『ちょっと嫌なこと思い出しただけ』
と届いた。
彼女は、それ以上聞かなかった。
『そっか』
『うん』
それだけ。
でも、しばらくすると相手から、
『ごめん』
と届いた。
『なんで謝るの?』
『せっかく話してるのに、変な感じになった』
『そんなの気にしなくていいよ』
『でも』
『じゃあ、今日はくだらない話しよ』
『くだらない話?』
『うん』
『例えば?』
彼女は少し考えて、
『今まで食べた中で一番おいしかったもの』
と送った。
『急すぎ(笑)』
『いいから』
『うーん……』
そこから二人は、本当にくだらない話を始めた。
好きな食べ物。
苦手な食べ物。
コンビニでつい買ってしまうもの。
夜中に食べたくなるもの。
『それ絶対おいしい』
『でしょ』
『今度食べてみる』
『おすすめする』
少しずつ、相手の返事がいつもの調子に戻っていく。
彼女はそれだけで安心した。
何があったのかは知らない。
聞こうと思えば聞けた。
でも、今は聞かなくてもいい気がした。
知りたいと思うことと、
聞いていいことは、同じじゃない。
そんなことを、少しだけ分かるようになっていた。
しばらくして、相手からメッセージが届いた。
『ありがとう』
『また?』
『うん』
『今日は何もしてないよ』
『それでも』
その言葉を見て、彼女は少し笑った。
『じゃあ、また今度話聞く』
『うん』
『話したくなったらでいいから』
『分かった』
それから二人は、またいつもの話をした。
会ったら何を食べるか。
どこを歩くか。
そんな話をしているうちに、
気づけば夜が深くなっていた。
『そろそろ寝る』
『明日起きられる?』
『たぶん』
『信用できない(笑)』
『じゃあ起こして』
『どうやって?』
『メッセージ送って』
『朝からサイト開くの?』
『頑張って』
『無理(笑)』
最後はそんな会話で終わった。
サイトを閉じたあと、彼女は少しだけ考えた。
相手のことを、もっと知りたい。
でも、全部知りたいわけじゃない。
話したくないことまで無理に聞きたいわけじゃない。
ただ、いつか本人が話してくれるなら、
そのときはちゃんと聞きたい。
そんなふうに思った。
そして、
その気持ちは彼女自身もまだ知らないうちに、
少しずつ二人の間にあるものを変えていった。
コメント
4件
そうなんですよね! なんかあったのは知ってるけど、 話せるときでいいよ!って待って、違う話するってことは、 少しでも辛いことを忘れられるようにしてくれてるのも優しさですよね! 嬉しいです!ありがとうございます!
うわ、めっちゃいい話だった……。 「知りたいと思うことと、聞いていいことは同じじゃない」って一文、めっちゃ刺さるわ。 無理に詮索せず、でもちゃんと待ってる距離感がすごく優しくて、こういう関係いいなって思った。 何気ない会話の中に、ちゃんとお互いを想う気持ちが溢れてて、読んでてじんわりした。 M.Sさんのこういう空気感の描写、すごく好きです。