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「今日皆に集まって貰ったのはレオン様の……そして、俺達にも大きな影響を与えるだろう大切な事柄を伝えるためだ」
食事が終わってひと息吐いたところで本題に入る。各々好きな飲み物を用意して話を聞く準備は万端だった。
「いやに仰々しいね。良い話? それとも悪い話?」
「悪い話ではない。俺は歓迎しているし、お前達もそうであって欲しいと思うよ」
「えー、何だろう。セドリックさん早く聞かせて」
ルイスは話の続きを急かしてきた。他の隊員達も口には出していないが、期待するような眼差しで俺の顔を見つめている。
「それじゃあ、心して聞いてくれよ。公表はまだ先だから、他言しないように」
レオン様の婚約者が内定したこと。そのお相手はジェムラート公爵家のご令嬢である『クレハ・ジェムラート』様であることを皆に伝えた。
「レオン殿下のご婚約者様が!? それはおめでとうございます!!」
「ジェムラート家……王家と血縁関係にあり、家柄としては申し分ない。順当に候補として上がっていた令嬢が選ばれたんだな……」
ミシェルは素直に受け入れ、クレハ様がどのようなお方なのかと興味津々だった。クライヴは冷静に、レオン様の相手として相応しいかどうかを考察しているようだ。
レオン様の立場上、そう遠くない未来にこのような相手が決められるのは既定路線。婚約者が出来たということ自体に驚きはあまりない。ミシェルやクライヴの反応は大体予想通りだったが、問題は――――
「なぁ、レナード。ジェムラート家の娘って宰相とこの息子の相手じゃなかったっけ?」
「それはフィオナ様だね。クレハ様はその妹君だよ。見たことはないけど……」
「ま、どっちでもいいや。俺らにも関係があるって言うから何かと思えば……セドリックさん、大事な話ってそれだけなの?」
「それだけって……重大事だろ!! レオン様の婚約相手が決まったんだぞ。お前達も今後、お側でお守りする機会だってあるだろうに」
クラヴェル兄弟は詳細を聞いた途端に関心が無くなってしまったようだ。主の婚約者がどうでもいいとまでは言わなかったけれど、彼らの態度はそう捉えられても仕方ないものだった。
「私達がお守りする対象はレオン殿下のみですからねぇ……」
「大切なお嬢様だとは思うけど、そういうのは警備隊……主に一番隊の仕事でしょ。俺らが率先してやる必要ある?」
身も蓋もない。こういう奴らだと分かってた。レオン様以外の人間を敬う気配は皆無である。それが婚約者であっても変わらない。俺はクレハ様の人となりを知っているから、こんな部下の振る舞いを口惜しく思ってしまう。
レオン様はクレハ様を溺愛していらっしゃる。自らが婚約相手として強く望んだ方なのだ。ぞんざいな扱いをさせるわけにはいかない。
「始めにも言ったが、この事はまだ正式に発表になってはいない。他言無用を忘れるな。近いうちにお前達にも紹介して頂けるだろう。胸中で何を思おうが勝手だが、決してそれを表には出すなよ。特にルイス」
「はぁ? 何で俺ばっかり……」
名指しで忠告されたのが不満だったのか、ルイスはぐちぐちと文句を垂れ始めた。
「私はとっても楽しみです! ジェムラート家のご令嬢といえば……その美しさは天使か、はたまた妖精かと称されるほど。事実姉君のフィオナ様はとてもお綺麗な方です。妹君もさぞ可憐でいらっしゃるはず……クライヴさんは見たことないの?」
「無いな。フィオナ様だったら時々王宮にもいらしてるから見た事あるけど、妹君は全く……」
「お気楽でいいな、ミシェルは。俺は見た目よりも性格が気になるよ。ボスに迷惑かけるようなワガママなお嬢様だったらどうしよう」
「その心配には及ばない。クレハ様は素直でとてもお優しい方だ。容姿に関しても噂と相違ない」
食い気味に反論してしまった。クレハ様の情報が無さ過ぎるとはいえ、勝手なイメージを付けられては堪らないからな。
「セドリックさんはお会いしたことがあるのですね。しかも、ずいぶんと好意的な印象をお持ちの様子。我々にもクレハ様がどのようなお方なのか、教えてくれませんか?」
レナードにも促されたので、クレハ様が婚約者となったのはレオン様の希望であること……そして、それに至った経緯を説明する。彼女の事を知れば、こいつらの適当な態度も改善されていくだろう。そんな希望を抱きながら、俺が知っているクレハ様の人物像を語ったのだ。
後にこの兄弟が、クレハ様の護衛に任命されることになろうとは……想像もしていなかった。