突発短文、若様視点のお祝い文。
ここ最近、俺たちの知らないところで涼ちゃんは交友関係を広げていた。知らないところ、と言うと語弊がある。俺たちも共演したことのあるアーティストや芸能関係者と、いつの間にか仲良くなっている、というのが正しい。
以前ある番組で初手は藤澤が得意だと元貴も言っていたとおり、声を掛けやすい、癒しオーラが出ているからだろうか。フロントマンである元貴には社交辞令って感じで、俺はそのついで(決して卑下ではなく俺もそのくらいが丁度いい)なのに対し、涼ちゃんには友好的な笑みを浮かべ、嬉しそうに声をかける人が後を絶たない。
その結果、友人とまではいかないが、顔見知りよりちょっと親しい程度の関係を、いつの間にか築いていた。
あれだけ大々的にSNSでも告知しているし、俺と元貴も日付が変わった瞬間に祝っているのもあって、今日が涼ちゃんの誕生日ということを知る人は多く、会う人会う人がお祝いしてくれる。
ソロを動かし始めた影響で元貴がいないことも関係しているだろう。保護者というか番犬というか、鬼の居ぬ間に、というやつだ。元貴が近くにいるとこわくて声を掛けられないんだよね、きっと。
純粋にお祝いを述べ、ちょっとした世間話をするだけだから、時間もあるしまぁいいか、と眺める。終始にこにこの涼ちゃんは嬉しそうで可愛いし、おめでとうの数だけ、涼ちゃんが愛されている証拠だから。
――そう思っていたのは15分前までだ。
「今度ご飯行こうよ!」
「え、行きたいですー」
「ほんとに? じゃぁいつ空いてる?」
「えっと、しばらくは忙しくて……」
あーあ、お祝いで終わっておいてくれたらよかったのに。
控え室まで押しかけてきた男は、見たところアーティストやタレントさんではなく番組スタッフのようだ。俺も何度か挨拶を交わしたことがある。
元貴がいたら、あそこまであからさまにアプローチしないのにね、俺しかいないからってさぁ。
はは、ふざけんな。
「ちょっと飲むくらい行けるでしょ?」
「うーん……」
困ったように涼ちゃんが眉を下げる。
スケジュールはいつもいっぱいで、元貴ほどじゃないにせよ、俺たちだってそこそこ多忙だ。元貴が制作した楽曲の練習もあるし、ライブに向けての準備だってある。
スパッと断れない涼ちゃんの優しさに漬け込んで、押せば行けると判断したのか、ぐいぐいと攻め込んできている。
俺の顔から表情が消えていくのを認めたマネージャーが、あの、とスタッフに声を掛ける。
スタッフの男はそれをちょうどいいとばかりにスケジュールを掘り下げようとし、なんなら今からとか、と言い出す始末だ。
今日を俺たちが譲ると思ってんの?
我慢の限界に達し、静かに立ち上がる。
ゆっくりと涼ちゃんたちに近づいていくと、マネージャーが、あーあ、と顔を覆った。ごめん、フォローよろしく。
なんとか断ろうとしている涼ちゃんを後ろから抱き締めた。
「そろそろ返してもらえます?」
「え……」
「ちょ、若井……」
俺の低い声に男はすくみ上がり、涼ちゃんが焦ったように俺の名を呼ぶ。
焦りの中に安堵の色があるの、バレないと思った?
「涼ちゃんは俺たちのなんで」
にこっと笑い掛け、細めた目でじっと男を見据える。
恐怖に顔を歪ませ、えっと、とか、あの、とか音を発する男を、マネージャーがありがとうございますー、と外へと連れ出した。
「……もう、怖がらせちゃだめじゃない」
わずかの沈黙の後、涼ちゃんが呆れたように言った。
抱きしめたまま、髪のかかるうなじに顔を擦り寄せ、だってあいつが、と呟くと、
「あいつとか言わないの」
またお世話になるかもしれないでしょ、とやわらかく叱責される。
不貞腐れる俺の手を涼ちゃんが優しくさすり、若井、ともう一度名前を呼ぶ。
力を緩めると俺に向き直り、今度は涼ちゃんが正面から抱きついてきた。
「でも、ありがと」
そして俺の頬に触れるだけのキスをくれた。
ちなみにこの話を元貴にしたら、にこにこの笑顔でよくやったと俺を褒めた。頬にキスは拗ねられた。
そして、二度とそのスタッフの男を見ることはなかった。
「俺らの涼ちゃんに手を出そうなんて……ねぇ?」
と、魔王は語った。
初めて短くできた。
何度でも言います、生まれてきてくれてありがとう。
コメント
5件
💙様のナイトが好きです✨ あと、出番がほとんどないのに魔王の圧が好きです🤣✨
💙がお姫様を守る騎士のようでかっこいいです🤭✨