テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ちょっと系統の違うお話を。
りょさん視点。
みなさんこんにちは、またはこんばんは、もしかしたらおはようございます、藤澤涼架です。
な、なんと今僕は、恋愛相談を受けています。ちょっと聞いて欲しいことがあるって言われて、外だと話しにくいって言うから僕の家に呼んだ。そうしたら、好きな人ができたんだよね、って突然の告白。
そりゃぁもう驚いて、えええ! って叫んじゃった。声でっか、と眉を寄せられましたけど、叫ぶでしょこんなの。だってありがたいことに忙しくさせてもらってるから、恋愛なんてする暇あったの!? ってなるじゃんこんなの。
ずっと前から好きで叶わないからって諦めていたものの、最近好きが抑えきれなくなってきたなんて可愛いことを言うんだよ? あの完全無欠で向かうところ敵なしみたいな大森元貴くんが仔犬みたいな顔して!
こりゃ大ニュースだと一人でドキドキしてたら、好奇心が前面に出過ぎてたみたいで元貴に鼻を摘まれた。決しておもしろがってるわけじゃないんだよ、ここ数年? もしかしたら10年近く? は元貴のそう言う浮いた話を聞いたことがなかったからちょっと前のめりになっちゃっただけで。
「ど、どんなひとなの?」
「……そうだよねぇ」
「? なにが?」
「いや、こっちの話。えー……笑顔が可愛くて努力家?」
ほうほう。それだけで既になんかいい人そうだね。その人のこと思い浮かべてるのか、話す元貴の表情もやわらかい。
「決めるところはしっかり決めるし、すごく俺のことを理解してくれてる」
そっか、ずっと前から好きだったんだもんね、付き合いは長いってことだよね。気難しい部分がある元貴を理解してくれてるってだけですごい。僕なんて10年以上一緒にいてもちょっと扱いに困るときがあるのに。
「何してる人なのか訊いても大丈夫?」
「んー……同業者?」
「わ、芸能人!?」
「まぁ……」
歯切れ悪いなぁ……芸人さんとかアイドルとか種類がいろいろあるから難しいのかな? え、まさかとは思うけど……
「……一応確認なんだけど、例の彼女じゃ」
「ないから。あれは真相話したでしょ。ってか有り得ないってことを一番知ってるだろうよ!」
バンって机を叩いて叫ぶ元貴に、だよね、と頷く。
そりゃぁね、基本的に僕らは一緒にいるし、忙しすぎてそんな時間ないし、あんなふうに匂わせするくらいならはっきりと言うタイプだよね、元貴は。
大体にしてスマホのケースにしたって偶然に過ぎないのにこじつけが過ぎると思う。世界にどんだけのあのケース使ってる人がいるんだよって話ですよ。ジャケ写だってこっちがどんだけ話し合いを重ねてあれに決めたと思ってんのよ、失礼だよね。
話が逸れちゃった。
「でもさ、なんで僕に相談? 嫌なわけじゃないけど、なんの役にも立てないよ?」
「そんなことないよ、だって相手男だし」
「へぁ?」
なんかサラッと重大なカミングアウトをされた気がするな??
「……引く?」
僕の反応に不安そうに元貴が顔を曇らせた。慌ててブンブンと首と手を振る。
「まさか! びっくりしただけだよ」
本当の本当に拒否反応とか偏見とかはない。ただなんとなく、元貴の横に立つ人は才能あふれる女優さんかなぁとか思っていたから驚いただけだ。
多様性が叫ばれて久しいし、僕らもジェンダーレスを謳っているから、理解のある人が増えてきて嬉しい限りだ。人を思う気持ちに性別なんて関係ないよね。
「……抵抗はない?」
「ないよ! 性別を超えるくらいその人が好きってことでしょ? すてきなことじゃん!」
真剣に伝えると、そっか、と元貴は安心したように笑った。おぉ、そんな優しい顔できたんだ……本当に心からその人が好きなんだって分かる表情になんだか嬉しくなる。
元貴は寂しがり屋のくせにプライドが高いから、誰かに素直に甘えることが苦手だ。そんな彼が付き合いの長い僕に伝えるのは、内容のこともあるけれどたくさんの勇気が要ったことだろう。それだけ信用してくれていることは素直に嬉しいし、誰かに吐き出したくなるくらい恋心が募ってしまったなんて、ロマンチックな話じゃないですか。
だからそれを少しでも伝えたくて、
「元貴が好きになる人だもの、きっとすごく素敵な人なんだろうね」
と言うと、元貴は乾いた笑いを浮かべた。
「……そうだね」
褒めたのになんでちょっと微妙そうなの? 何が気に入らないの? ……まぁいいや、気を取り直して相談役を続けよう。まずは状況を確かめるところからかな。
「その人に恋人はいないんだ?」
「いないと思う」
「同性に抵抗があるとか?」
「いや、大丈夫だった」
ふむふむ。そこが大丈夫な時点で結構なハードルを越えているのではないだろうか。大丈夫だと言い切ったということは、なんらかの形で本人に確かめたのかな? そんな話ができるくらいの仲なら、随分と仲がいいのではないだろうか。どうやって確かめたかにもよるからなんともいえないけど。けど、そう言ったプライベートなことまで話せる仲って、もう深い仲なんじゃないの?
お相手さんがフリーで偏見がないなら何が問題なんだろうか。どうやってアプローチすればいいかっていう話なら、本当にお役に立てないと思うんだよね。なんせろくに恋愛なんてしたことないもの。同性異性問わず、可愛いなとか綺麗だなとかかっこいいなとか素敵だなと思うことはたくさんあるけれど、恋してるなって思ったことはない。なんとなくそんな雰囲気になって、ってことで全くの未経験とは言わないが、学生時代はバイトで忙しかったし、上京してからはすぐに元貴に誘われて、バイトと活動でそんな余裕もなかった。だから相談役には全く向いていないと思う。
恋愛に興味がないわけじゃないけど、どちらかといえばそういった欲に薄い方だとは思う。そもそもあまり人に対して興味を持っていないのかもしれない。大切な人はもちろんいるけれど、それだって少ない方だと思う。
それでいうなら若井の方が適任な気がするんだけど。
「二人でご飯行ったり出かけたりしたことはあるの?」
「あるよ。あるけど、全然俺の気持ちには気付いてないと思う」
そうなんだ……意外と積極的に動いていたんだ、全然知らなかった。いつも元貴は忙しそうにしてるけど、そんな中でも時間を作るって、相当好きじゃん。
「はっきり訊いちゃうけど、脈はなさそうって感じなの?」
「……そんなことはないと思う……、思いたい、けど、付き合いが長い分、踏み込めないというか……相手がそう言う対象に俺を見ていないと言うか」
あー、なるほどね、伝えることで長年の関係に悪い変化があったら辛いもんね。長く一緒にいるとそれが当たり前になっちゃって、いざアプローチをしても伝わらないこともありそうだ。
それなら地道にいくしかないのかも?
えーと、笑顔が可愛くて努力家で、決めるとこ決めて元貴をよく理解している、ずっと前からの知り合い……ってあれ? そんなん一人しかいなくない?
いや、待て待て待て、慌てるな藤澤。下手なことを言って元貴に怒られたくはない。ひとつずつ確認しよう。
えーと、笑顔が可愛い……これは当てはまる。普段クールに決めているからこそ、笑った顔はちょっと幼くて可愛いらしい。僕らと馬鹿なことをしたり美味しいもの食べて笑ってる顔は可愛いと言っていいだろう。
努力家、これは本当にそうでしょ。元貴も言っていたけど陰でめちゃくちゃ努力してる。あまり表に出さないけど、ダンスもボディメイクもギターも、全部努力によって得たものだ。だからこそ決めるとこはバッチリ決める。努力家で決めるとこ決める、うん、間違ってないね。
元貴のことを理解している、これはまさしくでしょ! 幼馴染で元貴と音楽がやりたくてずっと元貴を追いかけ続けて、今は横に立って一緒に歩いてる。言葉にしなくても通じ合えるし元貴の意図することを的確に汲み取れるし、若井ほど元貴を理解している人間はきっといない。
長く付き合っていた彼女がいたから昔は無理だと思っていた、これもそうだよね、異性愛者だって言ってるようなもんだし。でも別れてからだいぶ経つし、若井とならそういうセクシュアリティの話をしていてもおかしくはない。若井に相談できないのも納得だ、なんせ本人なんだから。
「……涼ちゃん?」
急に黙った僕に元貴がどうしたの? と首を傾げる。
そんな元貴の手を握って力強く宣言する。元貴がなんか嫌な予感がすると呟くがこの際無視をする。
「僕に任せて!」
「は?」
「不肖藤澤涼架、全力で元貴の恋を応援させていただきます!」
ねぇ、だからなんでそんな遠い目をしながら深い溜息を吐くのさ? 僕に相談したってことは、そう言うことでしょ? 任せなさい、元貴と若井の邪魔はしないから!
続。
さぁ、どうなる!
コメント
21件
勇気を出した魔王に拍手です👏 まぁ魔王は気づいてもらえることを期待はしてなかったんだろうけど笑笑さすが鈍感な💛ちゃん 魔王はきっと苦労するんだろうな笑笑
Keiさんでは珍しいテイストのお話な気が🤭 そこで自分だと思わないのが💛ちゃんらしいというか、でも本人相手に相談するとも思わないかと思ったり😂 これから若様を巻き込んでどんな展開になるのか楽しみです✨ 個人的には「最近好きが抑えられなくなってきた」が昨今の魔王を思い出してキュンとなりました笑
天然すぎて可愛い笑笑笑