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君の関係/桃青/ノベル

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君の関係/桃青/ノベル

1 - 君の関係

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2024年01月09日

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「ここは、、、?」

目が覚めると病室だった。

「ぅ、、、ッ」

頭が痛む。

「あぁ良かった!目が覚めたんだな、、、!」

隣から聞き覚えのない男の声がした。

目線を向けてやると、桃色の髪をした顔の整った男が僕の手を握って座っていた。

この人は誰だろう。

「、、、貴方は、、、誰、、、?」

「、、、そっか、、、覚えてないんだな、、、自分の名前は言えるか、、、?」

僕の質問を他所に男が質問をしてくる。

自分の名前。僕の名前。名前。

おかしい。分からない。君の名前も、僕の名前も、、、もっと言うと存在も。

「、、、分からない」

「やっぱり、、、記憶が、、、いいか、、、落ち着いて聞いてくれ」

改まった顔をして僕に言う。僕は至って冷静だ。

「、、、記憶喪失になったんだ。俺の名前や自分の名前が思い出せないのはそのせいなんだ、、、」

少し悲しそうな顔をして君は言った。どうしてこんなことになってしまったんだろう。

「、、、なんで、、、?」

「、、、事故だよ、、、家族旅行中に、、、車が事故で、、、」

「、、、そう」

「、、、今の君に言っていいのか、、、分からないけど、、、実は、、、その事故が原因で、、、君の両親は、、、」

「、、、嘘、、、」

両親がどんな人だったか覚えてなかったが、きっと大切な人だった。覚えていないのに、穴が空いたように胸が空になったのはきっと、体がそう言ってるから。

「、、、ごめんね。少し時間が欲しいよね、、、しばらく1人になるといいよ。あと数週間で退院できるらしいから、、、ゆっくりしてね。」

胸の穴に優しさを注いでくれる君。誰だか分からないけど、どんな関係か覚えてないけど、きっと善人。

「、、、ありがとう」

僕のお礼を受け取ると男は椅子を立ち、病室から出た。

窓を見ると、晴れた空が広がっていた。ここがどこなのか、自分が誰なのか、何が起きたのか、、、何も分からない。

「、、、名前聞き忘れた」

「あ、目が覚めたんですね、、、!」

白いワンピースを来た女が病室に入ってくる。誰だろう。

「頭はどうですか?痛みますか?」

「、、、たまに痛いです、、、」

恐る恐る答える。誰なんだ。

「あ、私は看護師ですよ。大丈夫です。青野香音さんの体を心配してるだけです。」

「、、、青野、、、?」

サラッと言われた名前。誰だ?

「貴方のお名前ですよ。青野香音さん。」

僕の名前は香音と言うらしい。実感がない。

「ちなみに、先程来られてた男性は彼氏さんですか?」

ニコニコ、、、いや、ニヤニヤしながら問いかけてくる看護師さん。僕が知りたい。

「、、、わかんない、、、です、、、」

「そうですか、、、まぁ、お知り合いっぽいですし、記憶が戻るきっかけになれば良いですね。」

「、、、戻るんですか、、、?」

「はい。きっかけさえあれば記憶は戻ります。例えば、、、記憶が無くなる前と同じ生活ルーティンをしてみたり、初デートの場所へ行ってみたり、もう一度強い衝撃を与えてみたり、、、色々ですね。焦らずゆっくり行きましょうね。」

「、、、分かりました」




数週間後、僕は無事退院して桃色の髪の男、、、桃瀬里実の家にいる。どうやら、僕は桃瀬と恋人関係に居たらしく、同棲してすぐだったらしい。今度近所の人に挨拶に行こうねと話していたこともあったんだとか。

「俺の部屋と外は出ないでね」

「、、、どうして?」

「、、、落ち着くまで下手に外出しない方がいい。治ったら一緒に出かけよう?」

「わかった」

彼の言葉は納得が行く。確かになって思えた。優しい彼の声と言葉を聞いてると安心感を覚えるし、こんな状況だからか任せてもいいなと自然と思えた。

「よし、じゃあ今日は香音の好きなハンバーグを食べようか」

「、、、?」

「あ、ごめんね、、、覚えてないんだもんね、、、香音は、俺の作ったハンバーグが大好きだったんだよ。」

「、、、覚えてなくて、、、ごめんね」

仕方ないとはいえ、恋人の作った料理の味を忘れてしまったのは申し訳ない。

「でも、大好きだったんなら、、、きっとなにか思い出すかもしれないから、、、里実さんのハンバーグ食べたいな。」

僕なりにフォローすると、彼は一瞬暗い顔をしたあと、また笑顔を作って僕に言った。

「、、、こんな事じゃなんにも思い出せないかもだけど、、、頑張って作るね。」

「思い出せなくても、いいよ。忘れちゃっても恋人の作ったものはきっと、どこが温まるものだと思うし、、、だから、楽しみにしてるね。」

「、、、それは、、、嬉しいな。ご飯ができるまで自分の部屋で待ってるといいよ。」

彼はそう言うと、家の1番奥の部屋へ案内してくれた。窓一つもない部屋には、おそらく僕の好きだった物が沢山置かれていた。漫画にゲーム、、、特別変わったものはなかったが、この部屋への違和感があるのは何故だろう。

「、、、この部屋も、、、覚えてないよね、、、」

「、、、ごめんね」

「いや、いいんだ、、、このゲームは一緒に選んで買ったんだよ。そっちの本は俺がプレゼントした物。香音ってば、大事にするって聞かなかったんだ」

記憶の無い覚え話。申し訳なさと、どこかしらに覚えている違和感。不思議な感情はどこへ向ければいいのか全く分からないものだった。

「、、、ごめんなさい、、、本当に何も覚えてなくて、、、」

「いや、いいんだよ。ゆっくり戻してこうね。」

優しい彼の言葉に少しの安心を覚える。

ご飯が出来るまでこの部屋で待つ事は苦ではない。むしろ好きな物が沢山あって嬉しい。

せっかくだから、思い出せるきっかけになりそうなものを探すことにした。

「、、、ゲーム、、、どこまで進んでるんだろう、、、」

ゲームを起動してセーブデータを見てみると、空だった。

「、、、なんで進んでないんだろ、、、少しくらいやっててもおかしくないのに」

また違和感。この感情はなんなんだろう。僕はここに居ては行けないそんな感覚に陥る。

「ご飯の時に、、、里実さんに聞いてみようかな」

きっと納得のいく返事が返ってくると信じて。

次にクローゼット。僕のクローゼットなんだから、きっと見覚えのある服がどこかに、、、そう思ったのが間違えだった。確かに、見覚えのある服は並んでいた。しかし、匂いが違う。僕の匂いでも里実くんの匂いでもない。じゃあなんの匂いだ?新品の匂いだ。見覚えがあるのに、自分の物じゃない。慣れない新しい匂いがした。タグは着いてないようだが、やはりどこかおかしさを覚える。

「、、、変なの」

次に机の引き出し。机に付いてる引き出しはきっとよく使うし、なにか入ってるはず。期待を込めて引き出しを引く。しかし、何も入ってなかった。少しくらい小物が入っててもおかしくない気はしたが、こういう所に物は入れない人と自分に言い聞かせ、違和感を埋め合わせた。

コンコンとノック音が響いた。

「香音、ご飯できたから食べよう?」

「、、、わかった。」

リビングへ向かう廊下で里実さんへ質問を投げかける。

「里実さん」

「ん?どうかした?」

「僕は、、、ゲーム、、、あんまりやらないタイプだったんですか?」

「ん?あ〜、、、」

「セーブデータが空だったので、、、」

「、、、あのゲームは事故前日に買ったものだからね。進んでないんだよ。帰ってきたら里実くんとやるって、、、言ってたんだけど、、、覚えてないよね。」

「そう、、、だったんだ、、、」

やっぱり、彼の言葉には納得がいく。それと同時に少し悲しくなる。

「また今度一緒にやろうね」

「、、、はい」




彼の作ったハンバーグを食べる。

「どうかな?美味しいかな?」

「美味しいよ。」

こんな在り来りな返事しかできないが、それ以上の言葉は出てこなかった。心は冷たいままで、何も思い出せなくて、懐かしさも、何も浮かばなかった。美味しいのは美味しい。でも何かのきっかけになるかと聞かれたら否だ。この違和感ごと食べてしまえたら楽になれるのに。

「なら良かった!ご飯を食べたらすぐお風呂に入って早めに寝てね。まだ、完治したわけじゃないからさ!」

「わかった。」

彼の優しさは嬉しかった。苦しいほどに。

風呂の場所まで案内してもらい、風呂を済ませた。身に覚えのない風呂場は正直不安だったが、何も無く済ませることが出来て安心した。

自分の部屋へ戻ろうと部屋のドアノブに手をかけると、とあることに気がついた。鍵付いている。内側を確認すると、内側からは開かない仕様になっていた。大きくなっていく僕の違和感は、どう頑張っても抑えられないものとなっていった。

「ぅ”ッ、、、頭が、、、ッ」

ズキッと痛み出す頭。なにか思い出せそうで思い出せないむず痒さ。今日は早めに寝るのが正解だと身をもって確信した。

翌朝、僕の部屋に朝日が差し少し眩しかった。

「あ、起きたんだね。おはよう。」

「、、、おはよう」

ちょうど起きたタイミングで彼が僕の部屋に入ってきた。タイミングの良さに驚きながらも朝の挨拶を交わす。

「朝ごはん出来てるから、一緒に食べよう?」

「わかった」

リビングへ向かう廊下。彼の後を付いて行く。背が高く、がっしりした彼の体。この人に襲われてしまったらきっと、ひとたまりも無い、、、どうして今襲われることを考えたんだろう。恋人に襲われることなんてないのに。分からない。

「さ、早く食べよう」

気が付くと、目の前には美味しそうな目玉焼きとトースト。ぼーっとしてちゃいけないな。

味は、、、やっぱり美味しい。でもそれ以上の感想は出てこなかった。

「どう?美味しい?」

「、、、うん。美味しい。」

きっかけには、ならなそうだ。

「そっか!良かった良かった!あ、今日は有休を取ったから、一日香音のそばにいてあげられるよ。」

「、、、ありがとう」

ご飯を食べ、彼はアルバムを持って僕に見せてくれた。アルバムには僕の写真が沢山入っていて、彼は笑顔で思い出を語っている。僕は黙るしか出来なかった。覚えてないのももちろんそうだが、それ以上に体がこんなこと無かった。と必死に訴えているようにしか聞こえなくて、それしか頭になかった。

「それで、この時は、、、」

「ねぇ」

「ん?どうかした?」

聞くのは少し怖いが、聞かないと何も解決しない。

「、、、どうして、ツーショットが無いの。どうして、後ろ姿が多いの。

「、、、やだなwなんか変なこと疑ってる?wそんなんじゃないからね?w」

彼は笑って誤魔化すが、僕は不安で仕方なかった。この違和感が正しいものと信じたくなかった。

「香音、写真が嫌いって言ってたじゃんw普通に言っても撮らせてくれないからひっそり撮っちゃったwこんな可愛い顔してるんだから、ちょっとくらい撮らせてくれても良いじゃんかw」

写真が嫌いだったなら、、、まぁ、、、仕方がないよね、、、?

「大丈夫大丈夫!悪用とかしてないから!wも〜彼氏を疑うなんて、酷いなーw」

「ご、ごめん、、、」

そう言われればそうな気がして、強く出られなかった。僕達は恋人だから。僕に良くしてくれるから。怒らせたら、ひとたまりも無さそうだから。




違和感が消えるよう願いながらベットに潜る。早く寝てしまおう。

「、、、香音?」

僕の部屋に入ってくる里実さん。なんの用なんだろうと思いつつも寝たフリをした。すると、彼は僕に近付いて、僕の頭に手を置いた。

「、、、ごめんね。少し怖い思いさせたよね。でも大丈夫。俺は変な事してないし、ちゃんと香音の恋人だからね。」

そう言うと彼は僕の部屋から出ていった。僕を安心させるためにここへ来て頭を撫でてくれたと思うと、少し嬉しい気がした。こんなに良くしてくれる彼を疑うなんて、良くない。大丈夫だ。そう言い聞かせて眠りについた。

翌朝、部屋に置き手紙があった。彼からだった。

「仕事へ行くので一緒に食べられません。リビングにラップをかけて置いてあるので温めて食べてください。7時頃帰ると思います。俺の部屋と外に行かなければ何しても大丈夫です。無理はしないでください。」

そう書かれた手紙。まずは朝食を食べようとリビングへ。

リビングのダイニングテーブルには、ラップが掛けられた朝食が置かれていた。相変わらず美味しそうだ。

一人で食べる朝食は少し寂しくも思ったが、こっちの方が落ち着く気もした。

朝食を済ませると、途端に暇になってしまった。少し当たりを見渡すと、本棚が目に当たった。

「、、、どんな本なんだろう」

リビングに置いてある本棚、、、ということはきっと、里実くんも読む本。漫画では無いようだけど、、、本を手に取り中を見ると、難しそうな内容がずらりと書かれていた。人間の心理についての本のようだ。こんなの、何に使うんだろう。洗脳の仕方、騙す方法、相手を操る方法、、、胡散臭いような、何となく腑に落ちるような、、、どうしてこんなものが?

「里実さんって、、、心理学が好きなのかな、、、」

人の感情や心理に興味を持つ気持ちは分からなくは無いが、悪用して欲しくないと心底思う。

次に目に入ったのは、病気についての本だった。本を手に取ってみると、ある所に付箋(ふせん)が貼られて、そのページを見てみると記憶喪失についてのページだった。

「、、、里実さんなりに、、、治そうと頑張って調べてくれてるのかな、、、」

そう思いたかったが少し考えると、年季の入り具合的にここ最近買ったものじゃない。僕が寝てる間に?コソコソ調べる必要なんてあるだろうか?

「、、、ぅ、、、ッ頭、、、が、、、ッ!」

ダメだ。里実さんを変に思うと頭痛が来る。一昨日のドアの時だってそうだ。里実さんは良からぬことをしているんじゃないか。そう思うと違和感が大きく膨れ上がって、むず痒くなる。少し休もう。




目が覚めると、自室の天井が目に入った。

時計を見ると7時20分を指していた。随分と長い時間寝ていたらしい。

彼が帰ってきている時間だ。リビングへ行こう。

リビングへ行くと、彼は鼻歌を歌いながら晩御飯の支度をしていた。とても楽しそうに料理をする姿はこちらまで嬉しくなりそうだった。

「、、、ん?あ、起きたんだ。おはよ。」

自然に気が付いた彼はこちらを振り向き、優しい笑顔をくれた。

「うん、、、おはよう。」

「今日は、コロッケだよ〜揚げたてだからきっと美味しいよ」

「、、、ありがとう」

彼の無垢な笑顔を見ていると、なんだか疑った自分が馬鹿みたいに思えた。きっと大丈夫って、、、そう思えた。

「よし、出来た!さ、食べよっか!」

「、、、うん」

彼のご飯は美味しかった。それ以上の言葉は、僕には出なかった。

昼に寝てしまったせいで夜眠れない、、、寝れそうだけど眠れない、、、そんな今が嫌だ。ベットで寝たフリをし、自然と寝るのを待つ。

少し、ウトウトしてきたくらいに彼が部屋に入ってきた。今は何時か分からないが、きっと夜も遅い。何の用だろう?

「香音?」

僕の名前を呼ぶ君。なんだか寝たフリした方がいい気がして、寝たフリを続ける。

「、、、起きないと殴るよ?」

いきなり暴力的な発言をする君。驚きながらも、謎の対抗意識か目を開こうと思えなかった。

「、、、よし、寝てるな、、、」

なんだ、、、寝てる事の確認じゃないか。何を不審に思っていたんだろう。不信感が安堵になろうとしていた時、ベルトを外す音が聞こえた。これは、マズイと本能的に思い目を開ける。

「、、、里実、、、さん、、、?」

いかにも「今起きました」を演じて、彼に声をかける。

「何、、、してるの、、、?」

何も知らないよって顔をするんだ。きっと彼は今から僕に何かしようとした。何とは言わないけど、そんなこと知りませんって顔するんだ。

「、、、寝たかどうかの、、、確認に来たんだよ」

平静を装う彼。しかし無理がある。

だが、ここは何とか乗りきらないといけない。彼への不信感はこれで最高値だった。

「里実さん、、、こっち、、、」

腕を広げ、彼を迎え入れる。今だけでいい。騙されてくれ。

「、、、香音?」

「、、、大丈夫。ちゃんと寝るからね。いち早く治るよう努力するからね。」

「、、、わかった」

彼の下半身は言うまでもなかった。




今日も彼は居ない。仕事だから仕方ない。そう思いつつ、どう暇を潰そうか考えていた、、、いや、どう確信をつこうか考えていた。

昨日の出来事で、彼は僕の恋人ではないと思った。恋人関係で夜な夜な部屋に入って寝たかどうかを確認し、自分の欲を満たすだろうか?そんな強姦まがいなことをするか?一般的なカップルはしない。そんなこと、記憶が無い僕でも分かる。

彼の部屋だ。

きっと彼の部屋に行けば何かがわかる。そう思った時にはもう彼の部屋の前に立っていた。しかし、彼の部屋には鍵がかかっていた。これではどうすることも出来ない。

どこかにスペアキーが無いか探すことにしよう。自分の部屋の大切な鍵だ。持ち歩くのは分かるが、持ち歩く用だけでは不安だろう。きっとどこかにスペアがあるはず。

彼ならどこに隠す?

分からない。

会って1週間も経ってないんだ。わかるわけが無い。

分からないなりに漁る。自分を知りたくて。自分が誰なのか。どう生きていたのか。ただひたすらに知りたくて。

本棚を漁っていると、奥の方に隠されている鍵を見つけた。

「あった、、、!きっとこれで、、、!」

彼の部屋へ駆け足で行く。ここに何があるのか僕には分からないが、何があっても後悔しない自信があった。

鍵を開けると勢いよく戸を開ける。

「え、、、?」

彼の部屋には僕の写真で埋め尽くされていた。僕の後ろ姿。友達らしき人と笑ってる姿。着替えている姿。風呂に入った姿、、、健全から不健全まで揃っていた。

さっきからズキズキと頭が痛むが、そんなのはどうでもよかった。今はこの部屋の方が大切だった。

「なに、、、これ、、、」

僕が次に見つけたのは、僕の私服だった。しっかり僕の匂いがする、見覚えのある服。更には下着類まで出てきた。

そして、決めてになったのは僕の私物だった。母から貰った肩身離さず持っていたキーホルダー。それを見た瞬間何かが頭に過ぎった。

「最近、、、被害、、、が多い、、、これ、、、もっとき、、、い」

途切れ途切れの記憶。母のキーホルダー。なんの被害が多いんだ。分からない。分からないけど、、、彼がまともじゃないことはわかった。

写真の中には友達らしき人も少しだけ写っていた。ものによっては破かれたり、マーカーで消されたりしているが、ほんの少し見える誰だか部分でわかった。

「琉斗、、、くん、、、こっちは、、、理犬くん、、、」

ズキッと頭が痛む。

「ころちゃ、、、かわぃ、、、から、、、きを、、、ね」

「そう、、、す、、、おとこ、、、だら、、、って、、、ゅだん、、、ちゃだめ、、、」

途切れ途切れの記憶。繋げ。記憶を。僕が可愛いから気を、、、なんだ。男だから何しちゃダメなんだ。考えろ考えるんだ、、、

僕は彼と付き合ってなくて、僕は彼とどういう関係なんだ。一方的に愛されるのをなんと言えばいいんだ。

「それ、絶対ストーカーじゃん!」

「そうですよ!警察に相談すべきです!」

はっきり聞こえた記憶。きっと理犬くんと琉斗くんの声、、、

そうか、、、

ストーカー、、、

僕は彼にストーカーされていたんだ、、、

今はっきり思い出した。僕は家族旅行なんて行ってないし、帰り道で思いっきり殴られて、、、それで、、、

「あーあ、、、見ちゃったの?」

彼の声だ。いつもの暖かい声じゃない。冷たい声。ゾワッと背筋が凍る。

「ぁ、、、ご、ごめんなさ、、、」

「あ、謝ってくれるんだ?じゃあずっとこのまま居てくれるってこと?」

「そ、それは、、、ッ」

「だよね〜知ってた。」

こちらへゆっくり近付いてくる彼。

「上手くいってたのになぁ、、、」

それに合わせてゆっくり下がる。

「ま、次はもっと上手くやれる気がするんだ」

「な、何する気、、、?」

「心理学も学んだしさ。だから、上手く行ける気がするんだ。」

何の話をしているんだろう。怖い。ただひたすらに怖い。

「だから、、、上手くいったら、、、好きって言ってね。」

「何言って、、、ッ」




君が目を覚ます。

「、、、おはよう」

「、、、ここ、、、どこ、、、?貴方、、、だれなの、、、?」

怯えた声で君がそう言うから、俺は抱きしめてあげた。今度は先走らないよう、気を付けよう。

「だ、だれなの、、、?」

「怖がらないで。君の恋人だから。」

優しい声で君に伝える。今度こそ上手くいくから。

「そ、そうなの、、、?」

「うん、そうだよ。」

短期間で2度も強く殴られるなんて、、、可哀想な君。少し脳に影響が及んだようで、言動が少々幼くなった気がした。まぁ可愛いからなんでもいい。

少し照れたような、困惑したような顔をこちらに向けるから、優しくキスしてあげた。真っ赤になった君はとっても可愛かった。

「な、、、ッなにするの、、、っ!」

「恋人って、、、こういうの沢山するんだよ?」

嘘の関係で真実を伝える。

「そ、そうなの、、、?」

「うん。そうだよ。だから、、、沢山しようね。」

記憶がなくて困惑してるなら、新たに記憶を植え付けてあげよう。

愛が重くて恐怖してるなら、愛の一部を綺麗に見せてあげよう。

また、ダメだということをやるのならずっと監視しててあげよう。

この関係が嘘だと言うのなら、ねじ曲げてやろう。

こんなのは良くないと言うのなら、殺してやろう。両親のように。

「ね、ねぇ、、、君は誰なの、、、?」

「ん?俺はね、、、里実って言うんだよ」

「里実、、、くん、、、えへへ、、、いい名前、、、だね、、、?」

恋人であることを受け入れた君。

あぁ、俺が見たかった君は今の君だ。

「ねぇね、僕、、、何も覚えてないんだけど、、、何でかな、、、?」

「香音はね、、、悪い人に襲われて記憶がなくなっちゃったの、、、」

「えっ、、、」

嘘の関係で嘘を伝える。

「大丈夫。もう二度とそんな目には合わせないからね。」

「里実くん、、、」

「俺とずっと居ればもう大丈夫。何も怖くないよ。俺が守るからね。」

「、、、うん、、、」

不安そうな目で見る君が可愛い。

俺と恋人になってくれた君が可愛い。

騙される君が、狂おしいほど可愛い。




「君の関係」

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