テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
リクエストありがとうございました!
三角関係を書くのは初めてだったので不安な部分もありますが期待に添えていたら幸いです🥲
またのリクエストお待ちしております💕
「あー、喉乾いた。聖哉、俺の飲み物取ってきて」
床に大の字になって、天井のライトを仰ぎながら適当に命じる。俺の中では、こいつはいつまでも手のかからない、気のいいパートナーだ。
聖哉は首筋の汗を拭きながら、こっちを見てふっと笑った。
「いや、俺、勇馬の一個上ね?」
「……あー、はいはい。そうでしたね。じゃあ、一個上の聖哉くん、お願いしまーす」
投げやりに返すと、聖哉は「はいはい」と苦笑いして立ち上がった。反論もせず俺のわがままを聞く。これがいつものリズムだ。だから、油断してた。
数分後、戻ってきた聖哉がドリンクを差し出す。
「ほら、開けてあげようか?」
「それくらい自分でできるわ」
半分バカにされた気がして奪い取ろうとしたのに、ひょいっと躱された。そのまま、聖哉が俺の隣にすと、と腰を下ろす。
「冗談だよ。……でも勇馬、さっきの練習、ちょっと顔色悪かったから心配した。はい、これ。ゆっくり飲みな」
さっきまでの冗談めかしたトーンが、急に低くて優しいものに変わる。自分でキャップを開けて手渡してくる手つきまで丁寧で、なんだか調子が狂う。
「……ありがと。別に、ちょっと疲れただけだし」
ボトルを受け取った瞬間、指先に聖哉の指が触れた。……いや、触れたんじゃなくて、包み込まれた。
「……? 何だよ」
「手、冷たい。……勇馬はさ、いっつもそうやって強がって、無理するでしょ」
そのまま、俺の手に聖哉の手が重なる。
節くれ立った、自分よりひと回り大きな男の手。そこから伝わる熱が、冷たいボトルを握っていた俺の肌に痛いくらい響いて、心臓が跳ねた。
「……別に、無理なんてしてねーし」
「してるよ。それくらい見てればわかる。……たまには俺に甘えなよ、勇馬」
顔が近い。真っ直ぐな視線が、逸らそうとする俺の瞳を逃さない。
いつもは「バカ」だの「俺が兄貴分」だの言ってあしらっているはずなのに、こうして真正面から包み込むように見つめられると、自分が年下であることを嫌でも突きつけられる。
「……お前、マジで真っ直ぐすぎるんだよ……」
視線を逸らすのが精一杯で、顔が熱くなるのがわかった。すると、聖哉が楽しそうに喉を鳴らす。
「照れてるの? 可愛いね」
「照れてねーわ! ……っ、近ぇよ!」
突き放そうとして肩に手をかける。なのに、逆に引き寄せられた。抗う間もなく耳元に顔を寄せられて、熱い吐息が直接肌を撫でる。
「……勇馬。さっきから、俺のこと見ないようにしてるでしょ。……それ、逆効果だよ?」
低くて、甘い声。心臓の音がうるさすぎて耳がおかしくなりそうだ。俺が息を呑んで固まっていると、さらに追い打ちをかけるように、追い詰めるような優しさで囁かれた。
「もっと俺を見て。勇馬の知らないこと、俺が全部教えてあげるから」
逃げ場なんてどこにもなかった。
呆然とする俺の髪を、聖哉が満足そうにそっと撫でる。その手のひらの感触が離れた瞬間、俺はパンク寸前の頭を抱えるようにして、その場を飛び出した。
「っ、あいつマジで……!」
耳元に残る聖哉の熱い残響を振り払うように、俺は逃げ出した。
頭が沸騰しそうで、とにかくこの「甘ったるい空気」をぶち壊してくれる奴が必要だった。
向かった先は、スタジオの隅で黙々と柔軟をしていた拓也のところだ。
あいつなら、俺がベタベタ行っても「暑苦しい」とか「邪魔だな〜」って、いつもの不愛想な態度で俺を「普通」に戻してくれるはずだ。
「おい、拓也! 何真面目にやってんだよ。ちょっと相手しろって!」
俺は半ば勢いに任せて、拓也の背中に後ろからガバッと抱きついた。わざとウザいくらいに体重をかける。
(ほら、早く『だるい』って言えよ……!)
そう願っていたのに、返ってきた反応は予想とは真逆だった。
拓也は俺の腕をほどくどころか、自分の手を重ねて、俺の腕を優しく包み込んできた。
「……さっき聖哉さんと何話してたの?」
「……は?」
思わず、素っ頓狂な声が出た。
いつもなら無下にされるはずの腕を、驚くほど丁寧にホールドされて、俺は戸惑って拓也の顔を覗き込んだ。
「いや、何って……別に、あいつが変なこと言うから……」
「……変なことって何。……あんなに、顔真っ赤にして」
拓也は俺と目を合わせようとせず、俯いたままもじもじと指先を動かしている。
よく見れば、あいつの耳の裏まで真っ赤だ。掴んだ俺の腕を離すべきか、もっと強く握るべきか迷っているような、落ち着かない様子が手に伝わってくる。
「……拓也? お前、なんか今日おかしいぞ」
「……おかしくない」
拓也は視線を泳がせながら、俺の服の裾をぎゅっと掴み直した。
「……あんな距離で、あんな……優しくされて。勇馬だって、聖哉さんのこと……頼りにしてるんでしょ。俺より、全然大人だし」
その声は少し震えていて、でも、隠しきれない独占欲みたいなものが滲んでいた。裾を握る指先に力が入り、俺の体が拓也の方へ引き寄せられる。
「……聖哉さんに、あんな顔しないでよ」
「あんな顔って……」
「……今にも溶けそうな、そんな顔。……俺じゃ、そんな顔、させてあげられない?」
拓也がようやく顔を上げると、その瞳は少し潤んでいて、それでいて射抜くように真っ直ぐ俺を捉えた。いつもは冷たいふりをして避けていた視線が、今は逃げ場を塞ぐほどの熱を帯びている。
「……俺だって、勇馬のこと……。……聖哉さんに負けないくらい、大事にできるのに」
ボソリと、けれど確かな重さで紡がれた言葉。拓也はそれ以上言葉が続かないのか、またすぐに真っ赤になって視線を逸らし、俺の腕をギュッと抱きしめるようにして自分の額を俺の肩に預けてきた。
「……っ、拓也。お前、マジで……」
聖哉の、全部包み込んで導くような「大人の優しさ」。
拓也の、必死に「自分だけを見てほしい」と願う「不器用な優しさ」。
「……俺のこと、もっと見て?……お願いだから」
勇馬の肩越しに聞こえる拓也の心臓の音は、俺の鼓動と同じくらい激しく、速く打ち鳴らされていた。
「……休憩終了ー! 位置ついてー!」
ふみくんの声が響き、二人の間に流れていた熱い空気が一瞬で現実に引き戻される。
「っ、ほら! 行くぞ、拓也! 離せ!」
「……わかってる。……でも、今の、忘れないでね」
拓也は最後に俺の裾をもう一度だけ強く握ってから、パッと手を離し、耳を赤くしたままフォーメーションへと歩き出した。
一人残された俺は、聖哉に囁かれた耳と、拓也が握っていた腕の残熱に挟まれ、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
(……なんだよこれ、どうなってんだよ……!)
リハーサル終了の合図が響いた瞬間、俺は弾かれたように荷物を掴んだ。
「あー! 疲れた! 俺、先に帰るから! おつかれ!」
メンバーの返事も待たず、逃げるようにスタジオを飛び出す。
背中に二人の視線を感じた気がしたけど、振り返る余裕なんて一ミリもなかった。
聖哉の、あの逃げ場をなくすような甘い囁き。
拓也の、あの泣きそうに必死な「忘れないで」っていう声。
どっちを思い出しても心臓に悪い。一度距離を置いて、一人で頭を冷やさないと、明日どんな顔して二人に会えばいいのか分からなかった。
バタン、と重い防音扉が閉まる。
ようやく一人になれた廊下で、俺は「……っ、なんなんだよマジで……」と独り言を漏らしながら、火照った顔を冷ますように早歩きで駅へ向かった。
勇馬が嵐のように去っていったスタジオ。
バタン、という扉の音が消えたあとに残されたのは、重苦しい沈黙ではなく、どこか穏やかで、けれどピンと張り詰めた空気だった。
「……行っちゃったね、勇馬」
先に沈黙を破ったのは、聖哉だった。床に置いたタオルを拾い上げながら、その声からは、勇馬に向けていた「余裕のある甘さ」が消え、一人の男としてのトーンに戻っていた。
「聖哉さんがあんなに煽るからでしょ」
拓也も、呆れたように、でもどこか満足げな表情で口を開く。いつもの無愛想な仮面の下に、勇馬を想う穏やかな熱が滲んでいた。
「あはは、そうだね。でも、拓也もあんなふうに勇馬に甘えるなんて、反則じゃない?」
「いや、反則とかないし。……ただ、あの人のこと見てたら、自分でもびっくりするくらい……大事だなって思っただけで」
拓也は照れ隠しに、上着の襟を少し立てた。
聖哉はそんな拓也の横顔を見て、少しだけ眩しそうな目を向ける。
「そっか……。でもね、拓也」
聖哉がゆっくりと歩き出し、拓也の隣で足を止める。
「俺も、勇馬の隣にいたい気持ちは、君と同じだから。俺も負けないよ」
「……。わかってるよ。……俺だって、遠慮するつもりはないからね」
拓也は真っ直ぐに聖哉の目を見つめ返した。
そこにあるのは、相手を蹴落とそうとする敵意ではない。同じ人を大切に思い、幸せにしたいと願う者同士の、静かな闘志だ。
「……いいライバルだね、俺たち」
「……。……そうかな」
聖哉が拓也の肩を軽く叩くと、拓也も少しだけ、恥ずかしそうに口元を緩めた。
コメント
2件

めちゃくちゃ最高です!! もう尊すぎます💕 聖也君の大人な優しさも拓也君の不器用な優しさどっちも素敵すぎるし勇馬君も可愛すぎてずっとにやけてました😻 リクエストに応えていただき本当にありがとうございます!!