優しくノックして入ってきたのは、生徒会で、風紀部長の彼方倫だった。
「倫ちゃん。久しぶり。生徒会どうなの?」
「良い感じだよ。それより、相談したいことがあって……」
倫は胸ポケットから写真を取り出した。
「この人は?」
「彼を調べてほしいの」
写真の中には、眼鏡をポケットに入れている、ハイネックの男だった。
「名前は、夏畑海(なつはたうみ)。彼は、CIA諜報員だったんだけど、2年前に殉職してしまった」
「2年前に⁉」
倫は無言で頷いた。そのあとに、「まあでも、小6の時の卒業式で亡くなったから、正確に言えば、1年と1か月」と続けた。
「じゃあ、パソコンにあったあの記事は、この人の事だったってこと⁉」
「どうでしょうね。2年前と記載しているから、少なくとも1年8か月は経っているはず」
紗季と歩美は頭を抱えた。その様子に、倫は「えっ」と声を出した。
「どうして一般人であるあなた達がその事件を知っているの?」
「だって、いきなりパソコンを開いたら画面に映っていたんだもん」
歩美は不思議そうに倫を見つめ返す。
「その事件は、表向きは事故として処理された。その事件の詳細、及び資料を持っているのは公安警察だけなのに」
倫は俯き気味に考えた。
「じゃあ、公安警察がここに侵入してきて、あの記事の内容を調べていたってこと?」
倫が二人に問うと、紗季は「そう言う事になるわね」と答えた。
「2年前に亡くなったのは、また別のCIA諜報員。女性諜報員だったんだけど、死因は溺死。一方で夏畑さんの死因は銃殺。女性の方は何とか事故死にできたが、夏畑さんの方はそういうわけにはいかなかった。だから、事件諸共闇に葬ったの」
倫が冷静に淡々と話している様子を見て、歩美は訝し気な顔をした。
「ちょっと待って、この事件の内容を知っているのは、公安警察だけなんでしょ?なんで政府の人間である倫ちゃんが知ってるの?」
「それは、公安の仲間だっていう人が、私のところに来て、その事件を教えてくれたの。同じ小学校だったお前なら何か知ってるだろって」
倫は写真を指さして言った。
「この写真もその時にもらったもの」
「その公安の仲間だって言ってたのは誰だったの?」
倫は口を噤んだ。ただ、10秒ほどしてから、意を決したように、紗季の方を見つめながら言った。
「松村、松村龍雅が、私に尋ねてきたの」
「ま、松村が⁉」
歩美よりも驚いていたのは紗季の方だった。
「そう。どうやら、公安の協力者らしい。何のかは教えてくれなかったけど」
「うーん……よくわかんないけど……とりあえず、彼の事について調べればいいってことだよね」
歩美がそう言うと、倫は「そう」と言った。
「じゃあ、先払いで払っておくね」
倫は財布を取り出し、1,000円札を机に置いた。
「うん。ありがと」
歩美は1,000円札を手に取った。
「ねえ、CIAってことは、米秀小学校ってことだよね」
紗季は歩美の方を見ながら言った。
「うん。となると……米秀小学校の人間に聞かなくちゃね」
歩美は、スマホを取り出すと、ある人物に電話をかけた。
「はあ⁉俺に着いて来いって?米秀小学校に?」
尚は自分の方に指を向けながら言った。
「そーう。お願い」
「無理だ無理。俺今から仕事だから」
尚は家庭科室の帰りだったようで、小麦粉を大量に抱えていた。
「尚くんってなんの仕事だっけ?」
「たこ焼き屋。持ち帰りOKだよ!寄ってく?」
「大丈夫遠慮しとくわ」
紗季はそう言って、その場から去った。
「ああ、米秀小学校に着いて調べてるんなら、雪に聞けよ。アイツも米秀小学校の出身だから」
「うっ……うそでしょ……。雪ちゃんに聞くのー?」
「まあ、それ以外に居ないだろうし、今日は絵菜も塾の宿題が残ってて、付き合ってくれないだろうし」
2人はそう言いながら、4組に続く教室へと歩いていた。
「え何?あたしに依頼の協力をしてほしいって?」
雪は尚と同じように、自分を指を指して言った。
(さすが幼馴染、なんか似てる)
「うん。手伝って」
「うーん、ま暇だし、手伝ってやってもいいぜ」
「よし。ありがと」
歩美はそう言って写真を見せてきた。
「この人は?」
「彼は夏畑海。CIAの諜報員だったが、1年前くらいに死亡。同じく2年前に亡くなった女性は、名前は不明。表向きでは事故死として処理されている」
「ふ―ん」
雪は写真を手に取ると、その写真をじっと見つめた。
「分かった彼に着いて調べればいいんだな」
「うん。だから、さっそく米秀小学校に行くよ‼」
「え?今から⁉」
雪は驚いて、歩美の方を向く。
「勿論。善は急げだよ‼」
「はあ⁉」
雪は歩美に手を引かれ、米秀小学校に行くことになった。
紗季が小学校の門にあるインターホンを押した。
「すみませーん。あのー保護者なんですけどー」
「はい。えっと……では門を開けますので職員室にお越しください」
インターホンから声が聞こえてきた。
3人の計画ではこうだ。
まず、一番背の高い紗季が、紗季に小学校に入り、残りの二人を、小学校の裏口から引き入れる、という作戦だ。
学校の間取りは雪が遠隔で紗季に教える。
(なんであたしがこんなこと……)
雪は内心そう思った。
耳にイヤホンを取り付けた。
イヤホンの向こうから紗季の声が聞こえてくる。
「侵入に成功。ここからどこに行けばいい?」
「そのまま真っ直ぐ行って左に曲がったら裏口に出られる」
「分かった」
紗季はそのまま、真っ直ぐ行って左へ曲がろうとした。
その時、ふと左を見ると、立ち入り禁止と書かれた張り紙のある部屋を見つけた。
「待って、立ち入り禁止の部屋を発見」
「そこ、鍵はかかっているのか?」
紗季はドアノブに手を伸ばした、すると、軽い感触だった。
「開いてるわ」
「……入ってもいいぞ」
雪はまるで、自分が所有者のような言い方をする。
「雪ちゃん?入ってもいいって何?」
「……」
雪は黙ったまま、その顔とともに、左手を下ろして言った。
「いや、別に……」
雪の顔には暗い影が落ちていた。
「気になるよ。やっぱり……雪ちゃん何者なの?」
歩美は雪に問う。雪は息を吸うと、意を決したように言う。
「あたしはお前らを信用していない」
雪はそう言うと、左手を再びイヤホンに手を当てた。
「入ったのか?」
「ええ、でもここは……」
紗季の言葉に雪は悲しげな顔をして俯いた。
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