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朝、遠くでカラスが鳴いていた。薄暗い部屋の障子の隙間から差し込む柔らかい光が、僕の瞼を優しく照らす。ふと目を覚ますと、どこか体が重い。やっぱり昨日の人影の所為で、眠りが浅かったのかもしれない。起き上がり、まだ静まり返った廊下を歩くと、祖母が台所で味噌汁を温めていた。「おはよう、元貴くん。朝ごはんもうすぐできるよ」「うん、おはよう、、、」
あの人影のことを話すべきか迷ったけれど、きっと気の所為だと思われるだろう。それに、実際何かされたわけじゃない。僕は気持ちを切り替えて、朝食の席についた。
-午前中は兄と一緒に畑仕事を手伝い、汗をかいた分だけアイスが美味しかった。
午後は川まで散歩して、水に足をつけたり写真を撮ったりして過ごした。
そして、夕方。涼しくなった風に誘われて、またひとり家を出た。昨夜と同じ道。昨日は不安を感じたけれど、今日は少しワクワクドキドキしていた。もしかしたらもう一度、あの人影に会えるんじゃないかって。その時だった。
昨日見かけたあたりのカーブを曲がった先、古い公民館の前に、誰か座っていた。
麦わら帽子。白いシャツ。田舎らしい、けれど何処か都会的な雰囲気もある人は、僕に気づくとふわっと微笑んだ。「、、、やっぱり昨日の夜見かけたの君だったんだ。急に帰っちゃうからびっくりしたよ」
一瞬、心臓が跳ねた。この声、この空気、どこか儚げな雰囲気。彼は立ち上がり、僕に一歩近づいた。「こんばんわ!観光の人?それとも、、、」「あ、えっと、、、帰省、です。祖父母の家が近くにあって」「そっか。僕はずっとこの辺に住んでる、藤澤涼架って言います!」
名前を聞いた瞬間、胸の奥で何かが静かに動いた。
-僕はあの夏、たしかに恋をした。