テラーノベル
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本格的に寒さが厳しくなってきたこの頃、シェアハウスの居間には、いかにも冬の到来を告げる存在が鎮座していた。それはこたつである。
「出ました、悪魔の家具〜」
そう言いながらも、誰よりも早くこたつに潜り込んだのはたっつんだった。みかんの入ったカゴを引き寄せ、足をもぞもぞと動かすその様子は、完全に自宅のそれである。
「ほんまこれ出したら終わりやで。人間ダメになるやつや」
「もうダメになってる人が何か言ってる」
えとが笑いながら突っ込むと、たっつんは「細かいことはええねん」と言ってみかんを剥き始めた。
じゃぱぱはペットボトルを数本持ってきてからこたつの端に腰を下ろし、口を開く。
「はい、みんなちゃんと水分取ってくださーーい」
「さすが、ありがとう」
じゃぱぱのさり気ない気遣いにみんな改めてさすがだな、と感じる。
「よし、ゆあんくんゲーム準備できた?」
「うん、もうはじめれる」
即答するゆあんくんに、じゃぱぱは満足そうに頷いた。そんなやり取りを聞きながら、えとはこたつ布団のふちに顎を乗せ、じんわりと伝わってくる熱に目を細める。
「あったか…」
声が自然と小さくなる。
寒さで強張っていた指先が、ゆっくりとほどけていく感覚。布団越しの熱は決して強くないのに、体の芯に溜まっていた冷えを確実に溶かしていった。
「えとさん、顔眠そうすぎる」
どぬくがくすくす笑う。えとは「うるさいな〜」と返したものの、その声には力が入っていなかった。
ひろは人でいっぱいのこたつのそんな様子を見て周りのソファーからどこか微笑ましそうに目を細めている。
なおきりはこたつに入りながらも背筋を伸ばし、なぜか少しだけ大人ぶった口調で「冬っていいよなぁ 」と言った直後、うりに「その言い方なんなん」と突っ込まれていた。
シヴァともふはというと、ひろと同じくソファーに座り、テレビの方に目線を向ける。
そんな、取り留めもない時間の中で、 えとはいつの間にか目を閉じていた。
最初はただ、まばたきの回数が増えただけだった。
次第に首がゆっくりと傾き、こたつ布団にもたれるような形になる。呼吸が静かに整い、肩の力が完全に抜けたところで、じゃぱぱがそれに気づいた。
「寝てるな、これ」
小声で言うと、近くにいたひろがそっと覗き込む。
「ほんとだ」
えとの寝顔は無防備で、起きている時の軽快な雰囲気とは少し違って見えた。
「布団、かけ直す?」
シヴァの提案に、なおきりが「だねー」と小さく立ち上がり、こたつ布団を少しだけ引き寄せた。
ほんのわずかな動きにもえとは反応しない。
「完全に落ちてるな」
うりが声を潜めて笑う。
その言葉に、みんなもふふっと笑う。
夕飯の時間は近づいているはずなのに、誰も時計を見ようとはしなかった。
こたつの中で眠るえとを囲むこの空気が、あまりにも穏やかだったからだ。
外では冷たい風が吹いている。
けれど、この部屋の中だけは、冬の厳しさを忘れさせるほど、静かで、あたたかかった。
それからしばらく時間が経ち、のあがご飯出来たよ〜と声をかける。
みんなではーいと返事をした後に顔を見合わせる。
「えとさんどうする?起こす?」
ゆあんくんの問いにじゃぱぱは一瞬考え、首を横に振った。
「気持ち良さそうに寝てるし、起こすの罪悪感」
「ゆっくりさせとこうか」
「せやなぁ」
たっつんも同意するように頷くと、みんな静かにこたつから出る。
食後、各自が再び居間に戻ってくる。
当然のように、こたつは第二ラウンドに突入していた。
えとはまだ寝ている。
「起きないね?」
どぬくが不思議そうに首を傾げる。
「このまま朝までいくんちゃう?」
「さすがにそれはないでしょー」
たっつんが言った、その直後。
「ん…?」
くぐもった声が聞こると、 布団がもぞもぞと動き、えとの頭がゆっくりと持ち上がる。
「うーん…」
寝起き特有の、完全にスイッチが入っていない顔。
「おはよ〜」
ひろが軽くえとに話しかける
「いま何時?」
「もう夜」
「…?」
えとは一瞬固まり、それから周囲を見渡した。
空になった食卓、片付けられた皿、全員の「完全に食後です」な雰囲気。
「え、わたしやらかした?」
「うん」
じゃぱぱの即答。
「うっそ、やば」
「気持ちよさそうに寝てたから起こさない方がいいかなって思って」
するとのあがキッチンの方から顔を出す。
「あ、起きたの!ご飯冷蔵庫入れたけど今食べる?温めようか?」
「明日の朝食べる!ありがとうぅ」
「はーい、あ、デザートもあるけどそれはどうする?」
のあがにこにこと話を進めていく。
「え、なになに?」
「プリン」
「たべる!」
目をキラキラとさせ 即座にこたつから抜け出そうとして、ぴたりと止まる。
「…寒い」
「さっきまで寝てたやつのセリフやない」
結局、えとはこたつに入ったまま、キッチンの方にいたたっつんにプリンを持ってきてもらった。
「至れり尽くせりすぎる」
「たまには甘えていいんだよ」
「やさしい。」
スプーンを動かしながら、えとは満足そうに息をつく。
「……こたつって怖いね」
「今さら?」
うりが笑う。
「一回入ったら全部どうでもよくなる」
「それな」
もふが頷き、なおきりが「文明の敗北だ」とそれっぽいことを言う。
ゆあんくんは静かにゲーム機を起動し、「このまま誰も動かなくなる未来が見えるんだけど」と呟く。
確かになあとみんな笑う。
結局、まあいっかとなりみんなでゆっくりゲームタイムがはじまるのだった。
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