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裏門近くのフェンスにもたれながら、イヤホンを片耳だけ入れていた。
だけど、不意に聞き覚えのある声が耳に入った。
…内藤に色目使ってるとか、ほんとウケるよな。
どんだけ必死なんだよ、猫宮
まろが顔を上げると、そこにはかつてつるんでいた連中が数人いた。
金髪にピアス、煙草の匂い。何も変わらない“いつもの奴ら”。
「俺のことはどうでもいいけど、内藤の名前を出すのはやめろよな」
まろは静かに言った。
だが、それが火に油を注ぐことになるのは、わかっていた。
お前さ、調子乗んなよ? ちょっと優等生に片想いしたくらいで、“いい子ちゃんごっこ”かよ
変わったふりしてんじゃねーよ、猫宮
次の瞬間、ひとりが殴りかかってきた。
頬に鈍い痛み。だが、まろはやり返さなかった。
「殴りたきゃ殴れ。俺はもう、くだらねぇことで拳振るわんからな」
「内藤の前で…またあんな顔、見せたくねぇから」
言葉が静かすぎて、逆に空気が止まった。
ふざけた笑いが、ひとり、またひとりと消えていく。
やがて連中は、なにも言わずその場を離れていった。
風だけが、フェンスの隙間を抜けて鳴っていた。
ゆっくりと頬を拭った。血の味がした。
悔しかった。でもそれよりも、手を出さなかった自分に、ほんの少しだけ誇りを持っていた。
「変わるって、簡単じゃねぇな……」
それでも、あの静かな瞳が、自分を見てくれた。
ほんの少しだけ近づけた気がした。
なら、この道を信じるしかない。
「もう一度、ちゃんと笑ってもらえるように…もっと、変わる」
その想いだけが、今の俺 を支えていた。