テラーノベル
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リハーサルを終えたスタジオは、熱を残しながらもどこか静けさを取り戻していた。
壁に掛けられた時計の針は夜の10時を指している。
大森やスタッフはすでに帰り、残っているのは藤澤と若井だけ。
藤澤はキーボードのカバーをかけ終え、ソファにどさりと腰を下ろした。
汗が乾きかけているせいで体がじっとりして重い。
手元のペットボトルを飲み干しながら、なんとなく視線を上げた。
そこには、ギターを片付け終えた若井が立っていた。
黙ったまま、こちらをじっと見ている。
「……なに?」
不意に視線が合い、藤澤は慌てて問い返した。
「……いや」
若井はギターケースを壁に立てかけ、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「ちょっと試したいことがある」
「試す?」
「そう。いいから立ってみろ」
唐突な指示に、藤澤は目を瞬かせた。
でもその目に逆らえず、無意識のうちに立ち上がっていた。
⸻
若井は片手をポケットに入れ、低い声で命じた。
「──Kneel.」
「……え?」
「Kneel. ……座れ」
その響きは、普段の何気ない会話とはまるで違った。
低く、はっきりとした調子。
胸の奥にずしんと響き、背筋が粟立つ。
(……俺に……座れって……?)
藤澤は戸惑いながらも、気づけば膝を折っていた。
ぺたん、と冷たい床に膝をついた瞬間、心臓が強く跳ねた。
羞恥と同時に、説明のつかない満足感が胸に広がる。
見下ろす若井の視線は冷たくなく、むしろ優しさを含んでいた。
「……Look.(見ろ)」
命令がまた落ちる。
顔を上げ、若井の瞳を見つめる。
その瞬間、全身が痺れるような感覚に包まれた。
(……目を逸らせない……)
必死に視線をつなぎながら、藤澤は喉を鳴らした。
恥ずかしさと熱が混ざり、声が甘く震える。
「……ねぇ、次は?」
自分でも驚くほど、従うことを前提にした言葉が口から漏れた。
若井の喉が小さく動く。
次の瞬間、堪えきれないように身をかがめ、藤澤の首筋に唇を押し当てた。
「……ほんとに、いい子だな」
熱い吐息と低い声。
首筋に何度も落とされる口づけに、藤澤は体を震わせた。
「わ、若井……」
「大丈夫だ。……俺が導いてやる」
耳元で囁かれると、胸の奥が強く震える。
従っているはずなのに、支配されているのに、不思議なほど安心感に包まれていく。
藤澤は小さく笑った。
「……俺、若井に従うの……安心する」
それは自分でも驚くほど自然な告白だった。
若井の瞳が揺れる。
抱き寄せる腕に力がこもり、背中を強く撫でられる。
「……涼ちゃん。これからも俺の言う事に従え。もし嫌になったら……『red』って言え」
「……red?」
「セーフワードだ。命令を止める合図」
「……わかった」
藤澤は小さく頷き、唇を噛んだ。
(若井が、俺のことちゃんと考えてくれてる……)
静かなスタジオに、二人の呼吸音だけが響く。
互いの心臓の鼓動が重なり合うように感じられた。
「……若井」
「ん?」
「俺、もっといっぱい命令されたい……」
思わず出た言葉に、若井は微笑み、藤澤の髪を撫でた。
「いい子だ。……じゃあこれから、もっと色々命令してやる」
藤澤は瞳を潤ませ、首筋に残るキスの痕を指でなぞった。
(……従うのが、怖くない。むしろ……心地いい)
それが、信頼の始まりだった。
コメント
4件
今回はこういう系か〜あんまり読んだことないから新鮮だな〜(´>∀<`)ゝ))
ふあああおおおおああああ!?!!!最高すぎる早くみたいえぐい