それは、
今から十数年前。
まだ、CODE-ELに【死龍】も【最高傑作】も存在していない頃。
ここでは世界中から集められた子供達が未来の一流の殺し屋になるため切磋琢磨、腕を磨いている。
『 金鳳〜 肉食ってやる 』
『 幸真 人の食いモンとんな 』
『 おまえらやめろ 』
『 はぁ……またクワガタが増えた… 』
『…騒がしいな…』
この少年もまた、そのひとり。
読んでいた本を閉じ、
食堂を後にする。
命懸けの訓練、淡々とした日々。
少年は色のない毎日に少し辟易していた。
それを紛らわせるため、
ただただ窓のない施設を歩いていく。
『………あれ、』
いつの間にか、
立ち入り禁止のエリアに足を踏み入れてしまっていた。
早く戻らなければ教官らに仕置きをされてしまう。
ポテッ
『……?』
蹴り飛ばしたものを見ると、
殺し屋の教育施設には似つかわしくない愛らしいうさぎのぬいぐるみ。
年季が入っており元は白うさぎだったのだろうか汚れている。
『 あ 』
『 それ ぼくの 』
声の方へ振り向くと、
少年よりも幼い子が立っていた。
桜色の髪に瞳。
愛くるしい容姿で一瞬少女のようにも見えたが男児だろうか。
『おにいちゃんがひろってくれたの?ありがとぉ』
屈託なく笑いながら近づく、
その全てに少年は目を奪われる。
『…………あ、これ…君のか…』
『うん まむからもらったんだぁ』
『マム?』
『おさんぽしてたらうさちゃんまいごになったの』
うさぎを受け取って彼はご満悦になる。
『ありがと、やさしいおにいちゃん』
『 泰輝 』
第三者の事に少年は我に帰る。
明らかに大人の声。
『あ!まむ!』
『泰輝、おいで』
泰輝と呼ばれた子は駆け出し、
少年から離れていく。
少年は思わず、離れていくその子に手を伸ばしかけた。
『おやおや、君は確か…毛利班の子だね』
少年はその大人に見覚えがあった。
自身の担当ではないが、
この人も組織では教官の立場をもつアサシン。
毛利教官からは…冬梅(ドン・メイ)と呼ばれていた。
『ここは立ち入り禁止だよ 毛利には黙ってあげるから、良い子だから戻りなさい』
幼子を諭すように優しく、しかし有無を言わさない圧力。
そんなことなど梅雨知らず、
泰輝と呼ばれた子は彼女の足元にまとわりつく。
『あ、あのッ』
『ん?なんだい』
『その子も…私達と同じ、ですか?』
『……この子は…特別な子だ 悪いことは言わないからこの子のことは忘れなさい』
教官は泰輝を抱き上げ、
そのまま立ち去ろうとする。
『 おにいちゃん、ばいばい 』
うさぎを抱きしめて彼はちいさく手を振る。
それが……少年と速水泰輝との出会い。
彼に心奪われた少年は…
後に、【ピンク】と呼ばれる一流の殺し屋となる。
あとがき
以前のCODE-ELのif速水くん。
ピンクお兄ちゃん、拗らせはじまり話でした。