テラーノベル
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もとちゃんと連絡を取れないように、スマホは電源を切って机の奥に閉じ込めた。新先生がどこから見てるかわからない。
それに、今の俺がもとちゃんの声を聞いたら。
彼の真っ直ぐな優しさに甘えて、先生とのことを全部ぶちまけて、「助けて」と泣きついてしまう気がしたから。
先生にあんな風にされて、自業自得だと思い込もうとする自分。
それでも、嫌われたくないと震えている自分。
ぐちゃぐちゃになった心をどうすればいいかなんて、所詮子供の俺にはどこを探しても見つからなかった。
♢♢♢
「空~!! ちょっと来て!」
金曜日。柔らかな朝の光が差し込む教室で、机に突っ伏していた時だった。
教室の窓の外から、もとちゃんが大きく手を振っている。
心臓が跳ねた。やめてほしい。新先生にこんな所を見られたら、今度は何をされるかわからない。
「……寝てるから無理」
腕の中に顔を隠したまま、消え入りそうな声で返す。
「え!? 今、普通に喋ってるやん!?」
窓枠から身を乗り出して、おかしそうに笑うもとちゃん。
その屈託のない顔を見ていたら、張り詰めていた心の糸が、ほんの少しだけ緩んだ。
「……お前がこっちに来いよ」
吸い寄せられるように立ち上がり、もとちゃんの腕を引いて窓から引きずり込む。彼は「おわっ」と声を上げながらも、ふわりと軽やかに着地した。
周りから小さな拍手が起こる。照れくさそうに頭をかく彼を見ていると、悪態をつきながらも、胸の奥がじんわりと温かくなった。
もとちゃんと過ごす、この何も考えなくていい時間が、今の俺には何よりの救いやった。
「あの子、彼氏と最近別れたんやって。最新情報!」
親指を立ててドヤ顔をするけど、なんて平和で、しょうもない情報なんやろう。
「もとちゃん。そんなにすぐ違う男に乗り換えるような子は、やめとけって」
「ええっ? でも、俺、まだ告白してないし。俺が告白して断られたら、その子は一途ってことやろ?」
「……お前、振られたいんか?」
「いや!付き合いたい!」
「でもさ、つい数日前までアレがアレしてたかもしれんねんで?」
「……うわぁぁぁあああ!!」
もとちゃんが頭を抱えて悶絶する。その姿は、あまりに「普通の男の子」で。
みんな、そうやって誰かに恋をして、傷ついたり浮かれたりしながら、毎日を積み重ねている。俺だけが、そこから取り残されてるような気がした。
「……まあ、付き合ってたって言っても、何もしてないかもしれんし。もとちゃんみたいにな」
丸まった背中を、そっと叩いてやる。
本当は、俺の方こそ慰めてほしかった。大丈夫やと、誰かに抱きしめてほしかった。
「……そっちの可能性に賭けてみるわ」
半泣きで、とぼとぼと教室へ帰っていく背中を見送る。
ええな。羨ましいわ。俺も早く、そんな風に真っ直ぐ誰かを好きになりたい。そうすれば、この胸の痛みも、全部忘れられるんかな。
とと
#関西弁
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