コメント
2件
顔のパーツが夢から覚めても元通りの位置じゃないのは、怖いな‥最後にタイトル回収されてびっくりした🫢
窓から差し込む朝日に意識が浮上する。枕元の目覚まし時計に目をやると、短針が7を指している。このところ雨続きだったのが噓のように外は快晴で、自分の意識もすっきりだ。いつも通りどころかいつもより良い目覚め、なはず。だけれど、僕はこれから何か起こるような、言ってみればこれは嵐の前の静けさとかいうものではないだろうかとぼんやり考えた。
今日は普通に水曜日なので学校に行く準備をする。ベッドから降りて制服に機械的な動きで着替える。
ふとカレンダーが目に入った。仏滅。さっきの予感がさらに信ぴょう性を増す。そんなまさか、気のせいだと自分を納得させてかばんを持った。
今日の朝ごはんはなんだろう。リビングに向かうために階段を下りていくと、だんだんと香ばしいにおいが漂ってくる。魚だろうか。腹の虫が情けなく鳴く。一方で、さっきからの嫌な予感は続いていた。心臓がいつもより早鐘を打っているし、無意識のうちに周りのものを警戒してしまっていた。何だ、どうしたんだ僕。何もあるはずないじゃないか。大丈夫だ…
「おはよう」
「_っ!! …おはよう母さん」
めっちゃびっくりしてしまったが、母さんが挨拶しただけだ。台所の奥にまだいるようで姿は見えないけど、声を聞く限り異常はなさそうだ。僕はほっと胸をなでおろして椅子に腰かけた。
暇だったのでテレビをつけてみる。今の時間どこでもやっているのはニュースだと思うが、適当にチャンネルを合わせる。丁度CMとのつなぎ目だったのか、一瞬だけアナウンサーらしき人が映ってすぐ車の宣伝が始まった。…さっきの人の顔、なんか違和感があったような…いや、気のせいだ、そうでないと困る。うんうん。
そうむりやり納得させ首をぶんぶんと振る。今日は学校なのだから、そんなちっちゃな違和感にとらわれていたら遅刻確定だ。そろそろできるであろう朝ごはんに集中して急いで食べないと…
「できたわよ~ 早く食べちゃいなさい」
「は~い…ッ⁉」
後ろから聞こえた母さんの声に、どことなく恐怖を感じる。それに、声を聞いた感じすぐ後ろにいるはずなのに、全く気付かなかった。起きたときの予感、仏滅という文字、どこか変なアナウンサーの顔、ずっとある違和感…すべてが大きな波となって押し寄せる。
振り向いてはいけない、そう本能的に感じ取っているのに。僕はちらと顔を見てしまった。
息が止まりそうになる。
母さんの顔は、目・鼻・口・眉毛という顔のパーツが90度曲がった状態でついていた。本来横長であるはずの目や口が形自体はそのままに縦向きについている。不気味という以外に言葉が見つからない。
ハッと気づいてテレビの画面に目を向ける。思った通り、先ほど変だと思ったアナウンサーの顔は、母さんと同じ状態だった。
そのままテレビに出演できている、そして母さんも平然としているということは。
みんな同じ状態なんだ、きっと僕も。自分で導いた結論に言い知れぬ恐怖を感じる。もともとの顔を知っている分、この状態の顔を見続けるなんてとても無理だ。
でも。僕は鏡に向かう。僕だけ元のまま、なんていう淡い期待を消し去れぬままに、自分の顔を映そうとした。鏡面に自分の髪の毛がちらと入る。そして
目が覚めた。
ぐっしょりと汗をかき、呼吸が浅い。事態を理解するのに少し時間を要したが、どうも夢だったらしい。目覚まし時計が示す時間は6時50分。外は、夢の中と同じ快晴だ。
いや、夢でなによりだ。あんな体験リアルであったらたまったものではない。まだ頭の中に顔がこびりついている。目覚めは最悪といっていいかもしれない。とりあえず、気を取り直して制服に着替えよう。
学校の準備をしていると、足音が聞こえた。
「おはよう、起きてる? 母さんだけど、朝ごはんが早くできたから、食べましょう」
どうやらいつもよりも早くご飯が出来上がったから呼びに来たらしい。それを聞いた僕のおなかが鳴る。なんだかとても疲れたのできれば早く何か食べたい。
入るわよ、といって母さんが部屋に入ってくる気配がする。僕はちょうどドアに背を向けているから姿は見えないが、あれは夢なのですっかり安心だ。
「うん。もうすぐ食べるよ母さ_」
そう言って振り返った僕は言葉が続かなかった。
呼吸が止まりかける。
僕の動きは止まり、頭の中を絶望の2文字が埋め尽くす。
にっこりと笑う母さんの顔は、両目が顎のほうに、口が額のほうについていた。