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どうして俺が好きなんだろう。
フェリシアーノはふと考えただけで想像が広がり妄想が止むことは無かった。いつもの世界会議でにこやかに愛想を振りまく菊をただ目で追っては眠くなったりお腹が空いたりいつも通りで何も変わらない生活を送っていた。
会議はやはり踊ってしまってルートが相変わらずに注意する。慣れてしまって当たり前だと思ってしまう、そして会議が終われば菊に話しかけようとしているのに菊は人気なのだろう、正直なところ分からないけれど気づけば俺以外の国が話しかけたり挨拶をしに行ったりしている。
多様な国がある中菊が素敵だと思うのはフェリシアーノだけではないのだろう。そう考えてしまい寂しくなったのはフェリシアーノ自身だった。悔しくても自分よりいいやつがいると理解するとさらに寂しくなった。菊はもしかしたら別の国を見てしまっているんじゃないか、我儘に付き合ってくれているだけなのでは無いかとさえ思った。
髪の毛を適当にいじり机に伏せる。ぼんやりと菊を眺めていると少しだけ口元が緩んだ。優しさに甘えてきっと菊が望んでいないような重いものを心にためている。菊はそれを許してくれている、もしくは見えていない。
この感情に菊はどう思っているのか、どうして応えてくれているのかがフェリシアーノには到底理解のしようがなかった。
一通り菊の周りから国がいなくなった頃にフェリシアーノは体を起こし菊に近づいた。
菊のにこやかなその顔はビジネスという感じが満載でなんとも言えない感情になった。嗚呼、せめて俺の前では普通に笑ってくれたらいいのにと本人には言えないような感情が脳と心にすみついてはどこにも行きやしなかった。
「ねぇ菊」
「はい?フェリシアーノくん」
問えば聞き返すだけの菊でさえ狂おしく愛らしい。それは彼本人の魅力なのかはたまた好きになってしまった恋心か今更分からなかった。きっとどんな理由があろうと好きになっていたと考えられるくらいにはそんな恋に酔っていた。酔いは簡単には覚めなくて美しい夢を見せてくれる、狂おしく心地が良い、菊の声が甘く耳に絡みついて離れない。穏やかな声色がフェリシアーノを包み込んで優しく撫でる。
「お話したいな」
か細い声が気がつけば喉から出ていた。掠れてでたようなそんな声は不安を感じさせ菊を焦らせた。
「フェリシアーノくん、なにかありました?」
フェリシアーノ自信でさえ分かるような声に菊は反応し声をかけてくれた。罪悪感に苛まれながらフェリシアーノは明るい声を出した。───「なんでもないよ」
菊は異変にすぐ気がついた。
「私、フェリシアーノくんとのお話大好きですよ」
はにかむような優しい笑顔が本物で、そしてそれはまるで幼子を宥める母のような安心させてくれる穏やかな笑顔だった。それに甘えるようにフェリシアーノも優しい声を出した。
「俺も好きだなあ」
「ならば是非、お話しましょう爺の話し相手はポチくんやたましかおりませんから」
菊は資料を片手に手を出してきた。国の化身で人間なんかじゃないのにその温度が暖かく安心できた。
フェリシアーノはまるで人間の真似事に溺れた、故にその温もりを忘れられずらしくもなく人間のような行動をとった。
一般人を愛しては行けないという孤独の象徴といえるものに縛られ幾度となく胸に穴を空けてきた。そんな中であったのがルート、そしてなによりの菊だった。初恋が忘れられなくて、紛らわしたくとも一般人は愛せなくて、鎖で繋がれたような運命に呆れて棒に振ったのを救い出してくれた優しさの塊。
めずらしい東洋の髪、年齢にそぐわぬ幼さ、そして包容力。声は低くギャップを感じさせた。挨拶をしてみれば驚き不可思議なことを言う。これほどまでに面白いことは、心惹かれるものはあるだろうか? 否あるわけが無い。目の前の現実に手を引かれ愛に溺れ出すフェリシアーノは純粋な菊の優しさに壊れそうだった。
それなのに好きだと伝えて見せれば同じ気持ちだと言うのだからもっとおかしい。
ただこの愛情が一方通行ではないのかとたまに不安になるのだ。
「ねえ、俺のどこが好き?」
か細い声で不意にそうとび出た言葉は、まるで2人っきりの世界にいるような気分にさせるほどの静かな場で響き渡った。
差し出された手を掴んで離して抱きしめて、動揺しない菊になんとも言えずに寂しそうな声で言うのだ。
「おや、そんなことも伝わっていなかったのですか?」
「え?」
菊は可笑しそうに笑う。くすくすと肩を揺らして。
「フェリシアーノくんのことどれだけ好きか伝わっていないのですか?」
「えっと」
「ふふ、いいんですよ、語れば長くなるかもしれませんが聞きますか?」
「も、もちろん!」
不安さを紛らわせるように優しく笑う菊は心底穏やかそうで、心をふるわせた。きっとこういう所がフェリシアーノを惚れさせたのだろう。あの時の悲しみを置いていかせてくれたのだろう。
フェリシアーノは初恋の苦味を知っているから。
「フェリシアーノくん、私は初めて会った時なんて人なんだろうって驚きましたよ」
ため息をつくかのようにあの頃はーと続けた。初めてあった時なんて、アジアンの女の子と話してて軽蔑されていたような気がする。そして菊を抱きしめ責任を取れだとか言われて。
「西洋の人は分からないと思ってしまいましたよ」
「……その頃の俺のこと、嫌い?苦手?」
恐る恐る聞いてみる。でも正直その頃嫌いでも今好きだと言ってくれたから、心は踊っているのだ。大丈夫。
「いいえ、嫌いなんかじゃありません不思議な方だな、程度です」
にこやかな笑顔を見せ、こちらを安心させてくれる。歩きながらゆっくりと説明してくれて、少し楽しそうだった。
廊下を歩けばたまに通る様々な国は特にこちらを見るわけでもなく歩いていく、話しかけてこれば菊は丁寧に返した。
「ええと、どこまでいいましたっけ、もう歳ですねえ」
頬を人差し指で優しく掻きながらそういう。
「とにかく、会う回数を重ねて行く度にフェリシアーノくんの横顔に惹かれました」
「横顔に?」
「ええ、ふとして見れば流石はラテンのお方、かっこいいですよ」
不意打ちにドキリとした。まるで人を狂わせるような顔、小柄で童顔年齢に見合わぬ容姿と包容力、はにかみこちらを褒めそして上目遣いで話されれば胸に来るものが誰しもあるだろう。
愛らしい、その一言がまさに合うような男。故に惹かれ恋に落ちたのだ。
「愛らしい時もあります、でもフェリシアーノくん」
心臓の音がうるさく、菊のその低い声はまるで聞こえなかった。次第に頬は熱くなり鏡を見ないでもわかる。嗚呼、きっと今とても顔が赤いのだろう。その一瞬で顔を隠したい衝動に駆られた。
真っ直ぐに、まるで瞳の奥をも見ようとする菊がたまらなく愛しく、そして愛しかった。
でも言い訳をしたくなる。菊がフェリシアーノを愛している理由に。フェリシアーノはここまで本気になったことなど無いのかもしれない。どれだけ人を口説いても、この人だけは振り向かせたくてたまらない。手を引いてこっちをただ一心に見つめて笑い合い幸せだと、それをただ噛み締めたい。こんなにも幸せを考え哀れみ、彼の、菊の思いによって完成してしまう未来が恐ろしく、本当は自分自身なんかと卑下をし悲しむ毎日に、終止符を打って見せたかった。
── 俺のなにがいいの?
この言葉に尽きた。自分以外の周りの方が幸せにできる、なれるかもしれないのに。
ああ、なぜこういう時に『俺が幸せにする』等の男前な言葉が出ないのだろう。
もはや悲しみと嬉しさの混沌が心で踊りだし心臓はうるさく、菊の声が全く聞こえやしない。
「俺の、なにがいいの」
震える声で聞くとはっとした。
瞬時に菊の顔を見ると困惑。変な時に変なことを言ってしまった自分を殴りたい。
「……わた、しは」
ゆっくりと喉から声を出す菊。
「私は悲しいです」
「えっ」
思いもよらなかった言葉に菊の方に手を出したが菊に触れるのはやめようと思い、行き場のない手は下ろされた。
「好きなお方をそのように言うのはやめてください、いくらフェリシアーノくんでも私は心が痛みます、私は」
ふとした瞬間柔らかい感触が唇にあった。
フェリシアーノは驚き目をがっと開いてしまった。優しく頬に両手が触れられ口付けをされる。そんなキスは触れるだけでぱっと、菊は離れてしまった。
「貴方のことをお慕いしております」
にこやかに笑ってみせる菊に驚きを隠せずに固まってしまうフェリシアーノ。そんなフェリシアーノは気がつけば菊の手を握っていた。
「俺もっ」
そんな大声に菊は驚いた。
「俺も、誰よりも1番菊が好き!」
菊は優しく微笑みながら聞いてくれる。
「心配だった、俺より良い奴がいるんじゃないかって、でもそんな」
「いいんです、あなたしかいないのです」
語り出す菊は何度でも言うのだ。会った時どれほどそこラテンの顔に惚れたか、どれだけ忘れられなかったか、どれほどかっこよく心を射抜かれてあの日からずっと目から離れずおってしまっていたか。それだけ好きなんだと必死に喋ってくれる。
「お慕いしております」
またもや大胆に触れるだけのキスを菊はフェリシアーノの頬を両手で触りながらした。
「……いつからそんな風になったの?」
「貴方に会ってからです」
にこやかに笑う菊は少し意地悪っぽくて、フェリシアーノはそれに心臓をうるさくさせた。好きな人が自分を好きになって、それで少しだけでも変わってしまった。それほどまでに嬉しいことはないだろう。心臓がただただうるさく、恋をずっと前から教えてくれる。
嗚呼、菊には俺しかいないんだ。
その優越感とは酷いもので、浸れば浸るほど心地よかった。
人間の真似事がこれほどにも美しく楽しいもので欲に溺れてしまう。国だった事実を忘れてしまうんじゃないかというくらい見た目は人間そのもので、欲望もまさに人間らしかった。故に人間では無いところを知れば知るほど真似事だと思い知らされ苦しむのだ。人間ではないのだからと思っていてはいつか苦しむ。初恋がそうだったのだ。初恋は自分を国だからと恨めるくらい苦いものでそして甘かった。
でもその苦しさを忘れさせてくれるような綺麗なものがここにいる。
「Ti Amo」
それしか言えず泣き出しそうになる。嬉しいのだ、高揚感に溢れ表現しようもないこの胸のときめきを。誰か知って欲しい。いや、せめて菊にだけ今この気持ちを知っていて欲しい。
そう願うフェリシアーノはたまらず菊に抱きついたのであった。
菊はそれを受け入れ、抱き返した。
終