テラーノベル
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どこに行くのかは分からないまま、後部座席に座る私の耳に聞こえてくるのは、遥香と池田の会話。
それは実にくだらない、知人友人の噂話ばかり。
二人して誰かを見下すようなトーンで会話するんだな……相手のいないところでマウント取るような感じで本当にくだらない。
「着いたわ」
まだ走る車の中でそう言った遥香の視線は、窓の外に見える百貨店にある。
「私の仕事というのは、何でしょうか?」
「真奈美は、そんな簡単なことも分からないの?」
「百貨店を知らないからじゃないか?」
池田はバカなのか?
百貨店で買い物しなくても、誰でも買い物をするところだと知っているわよ。
お二人はここでお買い物ですか?
私が以前通っていたお宅には、百貨店の外商さんが来られていましたよ……
と言えないこともなかったけれど、それを言うと、さっきまで聞いていた二人のくだらない会話と同レベルになってしまうので言わない。
「真奈美は黙ってついてくるだけでいいわ。荷物持ちが仕事よ」
え……私、うちで仕事をする制服のままですけど?
ついさっきまで、箒と塵取りを持っていましたから。
私の戸惑う表情を、池田はミラーで見ていたように思う。
何だか気味悪い視線に感じて逃げるように……私は意を決して車から降りた……白いエプロンをつけたままの制服姿で。
「シューズから見るわ」
「サンダル?」
「そう」
「3階だったな」
という前の二人の声がなんとか聞こえる距離でついて歩く私は、周囲の視線を感じて二人のかかとを見て歩く。
平日午前の百貨店。
お客様がそう多くは感じないけれど、その分、手の空いている店員ばかりなので彼女たちの視線は、前を歩く二人ではなく、場違いな恰好の私へと向けられる。
執事や秘書がついて歩くのとは明らかに違う。
奇妙なモノを見る目。
一瞬、犯罪者の家族という目で見られていた感覚も思い出したけれど、それとはまた異なる種類の好奇の目だと感じる……そっと見ると、彼女たちの目が
“営業スマイル”
とプログラミングされた、同じように作られた形で私を見ていた。
遥香がサンダルを探す間、先に座った池田からも離れて、私は売り場の端っこに立つ。
私の知っている靴売り場には、箱が積み重なっていて自分のサイズの箱を探したりするのだけれど、ここは違うんだね。
等間隔に美しい靴が並べてあり、試してみたい靴を自分のサイズで出してもらって履いてみるのか……って、池田は座っていいの?
そこは靴を履いてみる人のためのソファーじゃないのか?
隣に座った遥香の足元に3足のサンダルが置かれ、一足ずつ履いては
「これ、可愛いね」
「これは、うーん…思ったより普通過ぎる?」
と鏡の前でウォーキングしながら、遥香が池田に言っている。
「最初の方がいいんじゃないか?」
「そうね。じゃあ、最初の」
と一足決まったのか、と思いきや
「他の色、全色私のサイズで出してちょうだい」
遥香が店員に告げる。
“ちょうだい”でなく“ください”と言えないのか、と私は他人事ながらガッカリして、これが何分続くのかとげんなりした。
「履いてみたらグレーにビジューが映えていいわね。グレーとピンクにするわ」
ほぉ……で、その二足を誰が買うの?
私は二人の関係が分かる気がして、レジについて行こうと動いた。
荷物持ちだしね。
でも……レジじゃなく、店員に支払うの?
私は初百貨店の靴売り場で、中途半端に足を止めて、二人プラス店員の三角形を眺めた。
コメント
5件
荷物持ちは真奈美ちゃんの仕事じゃないでしょ😠 とりあえず百貨店で良かった・・・のかな❓ 周りに人がいるからとんでもない事はされない(と思いたい)
と、と、とりあえず百貨店で良かった😰💦💦💦
こんな常識がない2人の付き添いは辛い💦