テラーノベル
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鳥居の向こう、朝霧の奥から這い出るようにして現れたのは、苔むした巨大な岩柱群――磐座(いわくら)だった。
その周囲には、古風な注連縄(しめなわ)が無惨に引きちぎられ、代わりに無機質な銀色の発信アンテナがいくつも打ち込まれている。
「……ひどい。神域をこんな風に荒らすなんて」
私が思わず声を漏らすと、隣の忍が瞳を鋭く尖らせ、唇を噛み締めた。
「ああ。こういう磐座は、大地のエネルギーが交わる精密な場所なんだ。そこにこんな強引な電波を打ち込むなんて、センスがなさすぎる……。若武、このアンテナの周波数、やっぱり暗号化された祝詞のデータを出力し続けてるぞ」
若武は髪をかき上げ、胸を張った。
「この俺の読み通り、ここはただの神社じゃない。古典的な暗号を使った、奴らの秘密の通信基地だ! 」
「待て。何かがおかしい」
上杉くんがぶっきらぼうに遮り、レンズのない伊達眼鏡を押し上げた。その視線は、岩の隙間に設置された、小型の記録媒体に向けられている。
「……あそこに残されている機材、一般の密輸グループが手に入れられる代物じゃねーぞ。国家機関か、それこそ……海外の巨大グループが扱うような特注品だ」
「え……?」
小塚くんがそばかすのある顔を青くさせて、若武の袖をひいた。
「それって……若武、僕たち、とんでもない相手の尻尾を掴んじゃったんじゃ……」
-–
### 2.
「――その通りだよ、小塚」
冷たい、だけどいつも通りの響きを持った声。
振り返ると、黒木くんが磐座の影に立ち、一台の壊されたセンサーを静かに見つめていた。その顔からは完全に生気が消え失せ、冷徹な仮面だけが張り付いている。
「黒木、お前何か知っているのか?」
翼がすっと私の前に立つようにして、黒木くんに鋭い視線を向けた。
「……このマーク、ヨーロッパを拠点にする巨大なバイオテクノロジー企業の傘下組織のものだ。一回フランスでみたことがあるんだ。……黒木、まさかお前これと関係があるんのか?」
心臓が跳ね上がった。
「……まさか、ね」
黒木くんはフッと肩をすくめ、忍を呼んだ。
「七鬼、お前、そのパソコンで今すぐこのサーバーの最上層(ルート)を叩いてみろ。そこに登録されている暗号のキーコード……『LL_0815』になっていないかい?」
忍は「え? ああ」とキーボードを叩き、次の瞬間、声を失った。
「……おい、黒木。なんで分かったんだよ。本当にこのコードでロックが外れたぞ……」
「0815……?」
上杉くんが呟き、ハッと目を見開いて黒木くんを睨みつけた。
「黒木、お前……8月15日生まれの、獅子座だな。……どうしてこの犯罪組織の暗号に、お前の誕生日が使われているんだ!?」
-–
### 3.
周囲の空気が、一瞬で凍りついた。
若武も小塚くんも言葉を失っている。
「俺は、彼らの本当の子供じゃない。この世界に望まれて生まれてきたわけでもないんだ」
昨日、アンティークショップの蠟色の闇の中で、黒木くんが私を強く抱きしめて紡いだ悲鳴のような告白が、耳の奥でリフレインする。
「黒木、お前……俺たちに何か隠しているな」
上杉くんが黒木くんの胸ぐらを掴まわんばかりに一歩踏み出した。
私が二人の間に割り込もうとした瞬間、黒木くんは笑みを浮かべ、冷たい瞳で上杉くんを見つめ返した。
餡蜜
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「何を取り乱しているんだい、上杉。俺はただ、俺のインフォーマントから得た情報を口にしただけさ。……アーヤ、君もそんなに怯えた顔をしなくていい」
黒木くんは私にだけ「これ以上踏み込むな」と目で警告してきた。
みんなは黒木くんを疑い、困惑している。
「黒木……」
翼が、私の手をそっと引いた。その綺麗な瞳には、私と黒木くんの間にある「言えない秘密」への、隠しきれない焦燥と嫉妬の光が混ざり合っている。
朝露に濡れた菜の花の香りが、磐座から漂う蠟色の不穏な空気に押し潰されていく。
黒木くんの嘘が、私の日常を激しく浸食しようとしていた。
コメント
1件
ああ、第7話……読んだ直後でまだ心臓がバクバクしてます。 磐座に注連縄が引きちぎられてアンテナ、というビジュアルがもう凄まじくて。それだけで“神域を汚す”非道さが伝わってくる。そこに国家級の秘密組織の暗号が黒木の誕生日と一致するって——この展開、忍や上杉の動揺がすごくリアルで、読みながら息を止めてました。特に「翼」が黒木と私の間にある秘密に嫉妬してる描写、切ない……。 黒木がまだ何か隠してるのが気になる。次話も絶対読みます。