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それから約1時間後
ガチャ
バタンッ。
あ、銀次郎さん帰ってきたかな。
玄関の方から靴を脱ぐ音が聞こえる。
そこから少しずつ足音が近付いてきてリビングの扉が開いた
カチャ…。
そこには久しぶりに(約1ヶ月ぶり)顔を合わせる銀次郎さんの姿。
仕事詰めで休めてないのか少し疲れている様に見える…
でもその姿を見て悔しいかな改めてときめいている自分が居た。
銀次郎「おう、桜子。」
桜子「銀次郎さんおかえりなさい。だいぶ疲れてるみたいやね。」
銀次郎「まぁこんなもんいつもの事や。中々家に帰れんで、すまんかったな。」
桜子「……ん?そんな事気にせんでいいよ。」
本当はもう少し一緒に居たいと素直な気持ちを伝えたいけど…
銀次郎さんの邪魔もしたくない…
そんな気持ちがせめぎ合いまた強がってしまう。
桜子「あ、お風呂沸かしといたから良かったら入る?」
銀次郎「ほんまか。ほな入ってくる。」
桜子「うん。ごゆっくり」
銀次郎「なんや旅館の女将みたいやな桜子。笑」
桜子「女将な私も悪くないやろ?」
銀次郎「まぁな。ほな先に入ってくる。」
桜子「うん。」
そう言ってお風呂場へと向かう銀次郎さんの背中を見ながらまた言いようのない寂しさが込み上げる。
久しぶりに家で会えたんやからもっとハグするとか…会いたかった気持ちをアピールして欲しいのに
もちろん銀次郎さんが分かりやすく愛情表現が出来る人では無いことも分かってる。
分かっているからこそ、私もそういう気持ちを抑えないといけないのが辛い。
シャーー…
キュッ
ガタッ…
廊下の向こうで銀次郎さんがお風呂から出た音がした。
おそらくご飯もきちんと食べれてないだろうと思い、作っておいたご飯を温める。
ガチャ…
お風呂を上がった銀次郎さんが心なしかさっぱりした表情でタオルで髪を拭きながら上半身裸の状態でリビングへ入ってきた。
その姿にまたドキっとする私。
中学生のカップルじゃあるまいし…
しっかりしろ私。
銀次郎「おお、ええ匂いする思ったら飯まで作ってくれたんか。」
桜子「うん。ご飯食べれてないやろうなぁと思って作っといたよ。」
銀次郎「ワシの事何でもお見通しやな。」
桜子「そうやで?だから悪いこと出来ひんよ?」
銀次郎「そやったら端からワシと一緒になってないやろ。笑」
桜子「確かに。笑」
銀次郎「ありがとうな、桜子。」
桜子「え?何が?」
銀次郎「その…色々と。飯、食べてええか?」
桜子「うん、もちろん!食べて食べて。何かお酒も呑む?」
銀次郎「おお、酒まであるんか!貰う。」
桜子「何がいい?」
銀次郎「なんでもええぞ。」
桜子「分かった。」
そう平静を装って返事をした私。
裏腹に”遂にその時が来た”と鼓動が早くなった。
前に沢城さんから貰ったあの小瓶に入ったその薬…
今がそれを銀次郎さんに使える絶好の機会だ。
でもこの薬を使ってどういう状態になるのか分からない恐怖…
そしてそういうものを使った事がバレた場合、銀次郎さんに嫌われてしまう可能性も大いにある。
かなりリスクの高い選択だと自分でも自覚している…
でもこれに頼らざるを得ない自分の弱さと不安。
そんな気の迷いからほんの一滴だけビールの中にその薬を垂らしてみた…
色や香りは何も変わらない。
これなら銀次郎さんにバレずに…。
桜子「おまたせ。ビールで良かった?」
銀次郎「ビールちょうど飲みたかったんや。ありがとうな。」
桜子「それなら良かった!」
ビールをついだグラスをゆっくりとテーブルに置いた。
お風呂上がりで喉が渇いていたのか、早速ビールに手を伸ばした銀次郎さん。
グラスに口をつける…
銀次郎「グビッ… グビグビグビ…。」
銀次郎さんはあの薬の入ったビールを疑いなく勢いよく流し込んでいく。
どうやら味にも違和感は無いようでバレてない様子。
でも…この後どうなるのかは全く分からない。
“銀次郎さんごめん…。”
どうなるか分からない罪悪感から、私は心のなかで銀次郎さんに繰り返しそう呟き謝っていた。
情緒不安定でどうしようもない女だと思う。
銀次郎「ふぅー。」
ビールを一気に飲み干した銀次郎さん。
今のところは何も変化は無く私が作ったご飯を美味しそうに食べてくれている。
桜子「凄い飲みっぷりやね。笑 ビールもう一杯注ごうか?」
銀次郎「ここ最近禁酒状態やったからな。ほなもう一杯頼む。」
桜子「そっか、仕事そんなに忙しいんやね。」
そう言いながらそのグラスにまたビールを注ぐ。
トトトトトトトッ………。
銀次郎「まぁ、金融屋が暇になったら終わりやから、忙しいのはええ事や。桜子の店の方はどうや?」
グビッ…
そう言ってまたビールを勢いよく呑む銀次郎さん、まだ分かりやすい変化はない。
その様子に何故だか少し安堵している自分が居る。
桜子「お店はありがたい事に毎晩テーブルも埋まって満席状態。いいお客様も増えて順調やよ。銀次郎さんの宣伝効果もあってね。笑」
銀次郎「アホか、ワシに頼っててどないすんねん。笑 まぁ怖いもの見たさで来る客なんか知れてるやろ。これからが勝負やな。頑張れよ、桜子。」
桜子「そうやね…。頑張らんとね。」
銀次郎「なんや煮えきらんな。どないしたんや?」
桜子「え?何が?」
銀次郎「店上手いこといってへんのか?」
桜子「そんなことないよ!お店はたくさんお客様に来てもらえて、何の問題も無いよ。心配せんでも大丈夫。」
銀次郎「ふーん。そうか。ならええけど。」
………。
ビールを飲んでから5分程度が経っただろうか。
まだ変化は無い。
もはやこのまま変化なく終わってくれてもいいかも…と思い始めている自分
そんな私の思惑など知る由もない銀次郎さんはモリモリ美味しそうにご飯を頬張っている。
この姿が見れるだけで
それだけで幸せなはずなのに…
それ以上を求めてこんな得体の知れない薬に頼ってしまっている私ってなんて傲慢なんだろう。
自分のやった事の傲慢さに今更強い自己嫌悪に苛まれる。
銀次郎「……?どないしたんや、そんなとこでボーっと突っ立って。」
部屋の隅で自分の姿をボーっと眺めている私に気付き、不思議そうに声をかけてきた銀次郎さん。
桜子「え?ううん、別になんでもないよ」
銀次郎「そうか?ワシの事は気にせんと仕事の準備してくれてええぞ。」
桜子「まだ時間あるし大丈夫、久しぶりに会えたから嬉しくて!じっと眺めちゃった。」
銀次郎「なんやそれ。笑」
そうやって少し照れたように笑う銀次郎さん。照れからなのかビールのせいなのか、心なしか少し顔が赤くなっているように見えた
これは…?
銀次郎「はぁー美味かった!ごちそうさん。」
ガタッ
ご飯を綺麗に全部平らげ、すぐに席を立った銀次郎さん。
その姿に”あぁ…今日もまたこのまま寝室へ行って寝ちゃうのか”と悟る私。
カチャッ
食べた後の食器を運ぼうとする銀次郎さん。
桜子「あ!私洗っとくから、ゆっくり休んでて。」
銀次郎「これくらい自分で洗うから大丈夫や。」
そう言って食器をまとめてキッチンへ歩いていくその足取りになんら変わったところは無いように見える。
ザーーー……
カチャカチャッ
銀次郎さんが食器を洗う音が部屋に響く。
その姿がなんだかとても愛しく見えた…
キュッ…。
桜子「ありがとう、助かる。」
銀次郎「食器洗ったくらいで大袈裟や。」
桜子「そうやね。笑 銀次郎さん…」
銀次郎「……?なんや?」
桜子「その…体調とか悪くない?」
銀次郎「え?別に悪いとこなんかあらへんぞ。」
桜子「そっか!なら良かった。」
さっきの薬の効果がどんな風に出るかわからない恐怖から遂に自分からおかしな質問をしてしまった。
銀次郎「ワシそんなに具合悪そうか?」
桜子「え?いやそんな事ないよ!でもちょっと疲れてそうやなって思ったから」
銀次郎「そうか。眠いからかもな。」
桜子「寝る?」
銀次郎「そうする。桜子は夜から仕事やな、出勤前にすまんな。」
桜子「ううん。ゆっくり寝て休んで。
起きたらまた事務所?」
銀次郎「そやな。明日の朝に取引先にいっぺん会いにいかなあかんから。」
桜子「そっか。私も朝方には帰ってこれると思うんやけど…。」
銀次郎「そない無理せんでもええ。またすぐ会えるがな。」
桜子「すぐ…そうやね…。」
銀次郎「ほなわしは寝るで。」
桜子「うん…。おやすみ。」
銀次郎「桜子。」
桜子「ん?」
グイッ
銀次郎さんは私の名前を呼んでおもむろに私の腕を引っ張った。
…!?
桜子「え!?」
私の体をおもむろに引き寄せ、抱きしめた銀次郎さん。
銀次郎「ありがとうな、桜子。」
チュ…
桜子「…!」
銀次郎さんは私を抱きしめながら少し真剣なトーンでそう言った後、私の顔を見つめて唇にキスを落とした。
突然の事に動揺する私。
これは薬の効果なのか…
それとも銀次郎さん本来の意思なのか…
分からない…
銀次郎「どないしたんやそんな驚いて。笑」
桜子「…銀次郎さんからこういう事してくれるの珍しいからびっくりして。」
銀次郎「たまにはこういう一面も見せとかんとな。ほな、おやすみ。」
桜子「うん。おやすみ。」
そう言って特に変わった様子も無く?いやちょっと変わっていたのか?寝室に入っていった銀次郎さん。
このキスとハグがあの薬がそうさせたのだとしたら効果があったのだろうけど、それだけでは判断できない。
というか正直私が期待していたほどの効果ではない…
でも、さっきのキスとハグで十分なほど幸せを感じている自分もいる。
これで終わったのなら良かったのかもしれないけど、 でもほんとはもっともっと…