「あのおばあさん、何者なんですかね?」
楽しげな家族連れをすり抜けていく老婆を見ながら、壱花は呟いた。
「さあな。
乗客と一緒に船に乗り込んだナニカか。
それとも、最初からこの船にとり憑いているナニカか」
そう言う倫太郎の側を幼い子が駆けていき、それを追いかけてきた若いママさんが、
「すみませんっ」
とこちらに謝ってきた。
壱花は振り返って、その親子を見ながら言う。
「少子化って言うけど。
街中では、ちっちゃい子たくさん見ますよね~」
「そうか?
俺はあんまり遭遇しないが。
お前が行く場所がそうなだけなんじゃないか?
お前、子どもと同じ行動とってそうだから、行くところも一緒だろ」
……年頃のOLなのに。
なんかディスられた感じですよ、と思う壱花に倫太郎が言う。
「まあ、少子化は問題だけどな。
駄菓子屋的にも」
「そうですねえ。
でもまあ、うちの駄菓子屋に関しては、そもそも、子どものお客さん、少ないですけどね」
いや、人間でないお子さんは多いのだが。
あやかしの世界では少子化進んでないのかな? と思ったが。
そもそも、あの子ダヌキや子ギツネも。
人間の年齢に換算すると、幾つなのか、よくわからない。
「待て、壱花。
今、子どもが少ないということは。
あやかしたちに次いで多い客、『生活に疲れたサラリーマン』が将来的に少なくなるということだろう」
でもあの、子どもがたくさんいるからって、全員が生活に疲れたサラリーマンになるとは限らないと思うんですよね。
っていうか、この人、無邪気に駆け回る子どもや赤子を見て、
『ふふふ……。
こいつも将来は生活に疲れ果て、うちの顧客に……』
とか思っているのだろうか。
そもそも社長、いつまで駄菓子屋の店主をやるつもりなんだろうか。
なんか、何百年先までもやってそうな雰囲気なんだが、
と壱花が思っているうちに、その老婆はレストランの先にあるステンレスの扉をすり抜け、何処かのエリアに入っていった。
「厨房じゃないか、此処?」
と倫太郎が言い、冨樫が持っていたパンフレットの船内地図で確認する。
「そのようですね」
「なんだ?
食べ物を漁ってるとか?」
三人で厨房の扉に張り付く怪しい人になりかけたが。
その老婆はすぐに出てきた。
お玉を手にして。
後をつけ回している怪しい人間たちのことなど気にするでもなく、そのまま、ずんずん歩いていってしまう。
倫太郎が老婆の手にある銀色に光るお玉を見ながら呟いた。
「お玉……?
で、なにすんだ?」
「っていうか、一体、何処へ行くつもりなんでしょうね?」
冨樫もそう不審がる。
三人は船内を満喫することなく、さらに老婆を追っていった。
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