星歌side
しばらく飛んでいると私たちは自衛隊基地の上空にいた。
「降りるぞ。」
私たちは降下し、自衛隊基地の中心へ向かった。あくまでこれは桜を救うため。自衛隊と戦うことではない。
「桜ちゃんがいる!」
ある程度地面に近づくと桜が建物から出てくるのが見えた。
「桜!」
真希が叫ぶ。しかし桜はことらを見向きもしない。
「おい、敵襲だ!」
「撃て撃て!」
兵士が銃を構えこちらに発砲を始める。真希は扇をふるい風を巻き起こした。するとすべての銃弾はどこかへ飛んでしまった。兵士たちは諦めずに何度も撃ってくるがそのたびに真希がなんどもどこかへ飛ばす。
「我々は戦う気はない!ただ私たちの仲間を返してほしいだけだ!」
真希がそう叫んだ。すると一人の男がこちらに気が付く。
「君らか。うちの娘をたぶらかしたのは。」
うちの娘……もしかするとあれが桜の父親か。
「桜は渡さん!お前らと音楽をやっている暇は桜にはない!」
「そう言って、桜ちゃんを戦場へ送り込む気でしょう!?自分の娘を戦場になんて親のすることじゃないわ!」
「どうとでも言うがいい!桜は戦うために、この国を守るためだけに生まれてきたのだ!桜が戦場に行かなければこの国は負ける!お前らだって死ぬのだぞ!」
この国が負ける?一体こいつはいつの時代の話をしているのだ。今は戦争ではなく言葉で解決する時代。争いなどしなくていいように先人たちは知恵を出し合い、外国とうまくやってきていたというのに。なぜこの時代になって戦争が起こるというのだ?
そう考えていると真希が前に出た。
「その船。どこに向かう船だ?なぜ桜をその船に乗せようとしている?それに日本で戦争が起こるなんて言う話は聞いたことがない。」
「お前らが知らないだけでこちらにはいろいろ事情が……」
「嘘をつくな。こちらは知っている。戦地に桜を送り込み、大金を得るつもりだろう。」
私と奏は驚いた表情をした。そんなの人身売買をやっているのと同じだ。この国でまだそんなことが行われていたのか。いやそもそもなぜ真希はそれを知っている?
「実はここに来る前、春川組の獅子合さんに会ってきたの。昔、狂獣病を研究する機関にカチコミに行って病にかかった人を解放したことがあるって言ってた。ここは自衛隊基地に見せかけた人体実験場だってことだよ。」
二葉はそう説明してくれた。春川組と言えば私たちが住む凪街を支配する極道たちだ。そんな人が私たちに情報を渡したというのか?
「くそ……春川組の連中め、余計な真似を……」
男はたじろいだ。
「我々は騙されたりしない!さぁ、その子を離せ!」
真希がそう叫ぶ。しかし男は桜をつかむ腕を離すことはなかった。
「桜ちゃん!逃げよう!」
二葉はそう叫んで桜のもとに向かおうとする。
「動くんじゃねぇ!おい桜!命令だ!あいつらを殺せ!!」
男がそう叫ぶと桜はゆっくりと顔を上げてこちらをにらみつけてきた。そしてものすごい速さでこちらに向かってくる。
「皆、下がって!」
真希がそう叫ぶと扇でつかみかかってくる桜の動きを止める。
「ハハハ、いいぞ!そいつらを殺せばお前にだって未練はなくなるだろう!」
男は高笑いしていた。なぜ桜はあんな奴の言うことを聞いているのだろう。桜を解放するためにやれることはないだろうか。子供の頭で必死に考える。その時、兵士が持つ銃に目が行った。私は走り出し、兵士から銃を取り上げると男に向けた。
「桜を解放しろ!」
「何を言う?これは桜の意志だ。桜の意志でお前らを攻撃しているのだ!私を守るためにな!」
そんな嘘も甚だしい。だって、聞こえてくるのだから。助けてって。苦しいって。現に桜は今。
「う……っあ……っ」
泣いている。叫びたいのに言葉にできずにいる。言葉にはなっていないけれど苦しそうな音が聞こえている。
「もうこれ以上、桜を苦しませないで。桜を自由にして!だってこれは桜の人生なんだから!」
桜side
なぜあいつらがいる。――あの子たちは仲間だから。
なぜ私を迎えに来た。――あの子たちはそういう子だから。
お前はどうしたいのだ。――私は
音楽がやりたい。みんなと笑っていたい。だって私はあの子たちの仲間だから――
ねぇ、許してくれるかな。あなたたちの隣に立つことを。笑うことを。音楽を奏でることを。
救いの船は動かない。そう思っていたのに。
皆が迎えに来てくれた。手を差し伸べてくれた。
「戦争が起こるかもしれない要素は十分にある。そうだとしても、私たちはその日が来るまででもいいからみんなで笑いたいの!」
あぁ、地獄の神様。もしこれが罪だというのなら、私はその罰を受けます。
ですからどうか、今この時だけは
みんなと一緒にいさせてください――!
星歌side
「ごめん……みんな。」
その声は間違いなく桜の声だった。桜は真希につかみかかろうとする手を緩めた。
「迎えに来てくれてありがとう。」
私たちは桜に泣きついた。桜は無事だった。そして私たちに見せたことのないほどの笑顔を向けていた。
しかし、これを面白くないと思う者もいる。男はマシンガンを構えこちらに向ける。
「桜ぁああああああああああああっ!!」
奴は狂ったように弾を発砲する。それは味方であるはずの兵士たちも巻き込んだ。真希が一生懸命風を巻き起こして私たちにあてまいとするけれどそれも長くは続かなかった。
「もう……駄目……!」
真希は力を使い果たし倒れる寸前だった。
「真希ちゃん!」
その時だった。男の背後に影が現れたと思うとドカッとすごい音がして男は倒れた。
「まったく。ひでーことしやがる。」
男の後ろに立っていたのはコウタ先生だった。よく見ると赤い結晶まみれだ。
「こ、コウタ先生!?」
コウタ先生はムスッとした顔でこちらに近づくと私たちを抱きしめた。
「無事でよかった。」
その言葉に一気に涙がこぼれる。私たちを本気で心配してくれていた。
涙があふれて止まらない。桜が無事だったことによる安堵と彼らが来てくれたことによる安心感で胸がいっぱいになった。
「コウタ。そいつらを叱るのはほどほどにしておけよ。真希がいなければ俺たちはここを特定できなかったからな。」
「わかっている。」
誰かと会話している声が聞こえる。でも、そんなことは私には関係なかった。今はもうこの温もりに身をゆだねて眠りたい。
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