テラーノベル
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大学生になり、僕は思い切って長い前髪を短く切り、いつも着けていたマスクも外した。
眼鏡だけはまだ怖くて外せなかったけれど、それでも僕にとっては大きな進歩だった。
高校の3年間、何事もなく平和に過ごせたことが、僕にとっては大きな自信になっていたんだ。
何より、卒業間際の雨の下校途中、既にすっかり慣れっこになってしまっていた電車での理不尽な出来事に、初めて僕の為に本気で怒ってくれた人がいたから。
あの日から僕は、「自分を大切にしなくてはいけない」と、心のどこかで強く思うようになっていた。
しゅんがくれたあの時の言葉と、背中のあたたかさが、僕の折れそうな心を確かに強くしてくれた。
だから、少しくらいなら自分を出しても、今の僕なら上手くいくんじゃないかな?
……なんて、愚かにも思ってしまったんだ。
実際、最初はそれなりに上手くいっていた。
学校でも、何となく挨拶を交わすくらいの友人も出来た。
掛け持ちした接客業のバイト先でも、誰かとコミュニケーションを取ることがいつの間にか好きになっていた。
顔を隠さずに人と接する楽しさを知り、自然と笑顔も増えた。
気づけば、あの拒絶の盾だった眼鏡すら、しなくなっていた。
それなりに充実した、どこにでもいる普通の大学生。
やっと手に入れた温かい日常。
でも、僕なんかが普通の幸せを感じちゃったから、バチでも当たったのかな……?
大学3年生の、夏の終わり頃。
いつものように居酒屋のバイトを終えて店を出ると、すぐ横の薄暗い路地に、ぽつんと怪しい人影が見えた。
またいつもの酔っ払いかな、なんて軽く考えて、僕はそのまま何も気にせず通り過ぎようとした。
その瞬間、ガシッと腕を強い力で引っ張られ、抵抗する隙もないまま、そのまま裏道の奥深くまで引きずり込まれた。
完全に油断していた。
僕は壁に押し付けられ、何が起きたのかまだよく理解できていなくて、 「いつもみたいな、ただのタチの悪い痴漢かな」「少しの間だけじっと我慢していれば、満足して離れてくれるかな」なんて。
これまでの経験で麻痺してしまった僕の鈍った感覚と、危機感のなさが、最悪の思考を巡らせていた。
それが、どれほど自分を危険な場所に晒してしまうかも知らずに。
薄暗く、夜は誰も来ないような冷たい路地裏。
そっと顔を上げて、僕を拘束しているそいつの顔を見る。
「……っ、」
喉が微かに鳴った。
そいつは、僕のバイト先の居酒屋によく来る常連客だった。
名前は遠藤。
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38歳だって、前に自分で言っていた。
いつも僕に気さくに話しかけてくれて、普通に優しかったし、普通に「良い人」だと思っていた。
お酒が回るとやたらと距離感が近くなる人だったけれど、僕にとってはそんなの幼い頃から慣れっこだったし、仕事だから、いつも通り営業用の愛想の良い笑顔で対応していたんだ。
彼は、僕がシフトに入っている日はほぼ毎回のように店に来ていた。
自分で言うのもなんだけど、多分、かなり気に入られていたんだと思う。
今日もいつものように店に来ていて、カウンター越しに普通に会話を交わしたばかりだった。
だから、顔も知らない凶悪な不審者ではなく、よく知っている「遠藤さん」だったことに、僕は一瞬だけ安心してしまい、完全に油断した。
「なんだ! 遠藤さんか〜! びっくりしましたよー! こんな遅くにどうしたんですか?」
なるべく明るい声を意識してそう尋ねると、遠藤は、暗がりのなかでじっと僕を見つめ、不気味な笑みを浮かべた。
『……会いたかった?』
「え……? いや、え……?」
『俺のこと、好きだよね?』
明らかにいつもの遠藤とは違う、ねっとりとした異常な雰囲気に、僕は急激に全身の血が引いていくのを感じた。
『あー、もう隠さなくて大丈夫だから。こっちおいで?』
「、、え、いや、好きじゃ……ないですし……、……遠藤さん……なんか、変ですよ?」
本能的な危険を察知して、後退りながら僕は必死に声を振り絞る。
けれど、遠藤の耳に僕の拒絶は一切届いていなかった。
『そんなに照れないでよ、柔太朗くん。
いつも僕にだけ特別に笑いかけてくれていたでしょ?』
これはやばいやつだ。
そう気づいて全力で逃げ出そうとした時には、もう完全に遅かった。
「っ!! わっ、、ちょっ!!! 」
強い力で遮られ、遠藤は僕を完全に壁際へと追い詰めた。
僕の顔の両側の壁に、ドンと激しい音を立てて両手を突いて逃げ道を完全に塞ぐ。
さらに、僕が動けないように、僕の両脚の間に、遠藤の硬い膝をグイッと割り込ませてきた。
完全に身動きが取れない。
衣服越しに伝わる、男の生々しい力と熱。
「え、、ちょ、、本当にやめてください……っ、」
『だーかーら! そういう建前はもういいから。ほら、いつもみたいに僕に笑ってよ』
話が通じない。
目が、完全に据わっている。
やばい。
このままだと、本当に殺されるかもしれない――。
to be continued…
コメント
2件

ほんっとに更新早くて助かります!!遠藤、、、、、
ぶっくおっふ